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第52話 体育館からの拉致

 ゆうはリンにざっとコウにしたのと同じ説明をした。しかし、リンの怪訝そうな表情は変わらない。


「久遠様の道具の力は信頼しています。でも、貴方が信頼出来ません。本当にうまくいくのですか?」

『五分五分ってところか? それでもやる価値はある。天邪鬼自体には会ってはいないが、なんか嫌な予感がするんだよな』

「嫌な予感だぁ?」


 コウまで怪訝そうになる。ゆうは、どう説明したものかと考えながらも、口を開く。


『おう、千年前、俺もその場にいた。確かに相打ちに見えた。それでも、天邪鬼は生きてた。だが、いくら妖とはいえども脳と心臓に致命傷を負っている。月日が癒したといっても、おかしな話じゃないか? 俺は、実は本体が他にいましたって言われても正直驚かない』

「――っ!?」


 ゆうの言葉にコウ達は息を呑んだ。しかし、ゆうは酒呑童子の話を聞いた時からそこが引っかかっていた。しかし、結論を出すには根拠が足りない。下手に不安を煽るだけになることが分かりきっていたから、朔夜達には黙っていた。

 怯えはきっと、天邪鬼の糧になる。それだけは千年前に嫌というほど実感したのだから。


『まあ、憶測の域を出ないから、話半分で聞いといてもらっていいぞ。これで違ったら笑い話だしな』


 ゆうは軽快に笑う。万が一、憶測が当たっていたとしても酒呑童子が朔夜側にいる以上、2人の安全は保証されている。だからこそ、ゆうはまず自分に出来ることをやる。


『というわけで、体育館にいる器の拉致に関してだけどさ!』

「なにが、というわけかもわからねぇし、そもそも拉致ってなんだ」

『間違ってないだろ?』

「……幻術でその者がそのまま体育館(ここ)にいるように見せた方がいいでしょうか」

『おっ、出来るなら頼んでもいいか? 人一人消えて騒ぎが起きたらどうしようが、もっぱらの悩みだったから、助かる』


 リンの提案に、ゆうは手を打って喜ぶ。すでに異変は起きている。しかし、リンの結界には催眠効果がある。上手くいけば、この出来事も夢として片付けられる可能性がある。

 少しでも現実に、現世に影響を与えない。それが、自分が(・・・)生まれた(・・・・)存在意義(・・・・)でもあるのだから。


「わかった。とりあえず、とっとと誰を連れ出せばいいか教えろ。リン」

「わかっています。コウだけを結界内に入れるように、そして入った者が出れない二重結界を一時的に解きます」


 リンは頷き、体育館に手を向ける。すると何重もの青く光る魔法陣が出現した。それはまるで己の意思を持っているかのように、一つから二つ、三つへと分裂していく。そして、入口にひとつだけ白く光る魔法陣が出現した。


「で、ゆう。どいつだ?」

『おー』


 ゆうは扉のしまっている体育館の中を白い魔法陣を通して、覗き込む。どういう仕組みになっているかは全くわからないが、扉を透視して中を覗き込むことができた。

 さて、どこにいるかな? と探そうとしたが、目的の人物はすぐに見つかった。入口のあたりを心配そうに行ったり来たりと落ち着かないように動き回っている。


『あっ、これ簡単かも。入口動き回ってる黒髪の男!』

「あー、あいつか?」


 ゆうが簡潔に伝えると、コウは一人の少年を指差す。その人物を確認して頷く。

 コウは腕輪を右手に持ち、白い魔法陣に触れる。すると、開いてないはずの扉の中へとコウは消えていった。

 ゆうは魔法陣越しに中の様子を伺う。


 それはあっという間だった。コウは体育館内に入った瞬間、迷わずに入口にいた少年に手刀を叩き込みながら、口を塞ぐ。

 リンがいくら幻覚をかけているとはいえ、大胆だなとゆうは笑う。気絶した少年を片腕で受け止めると、右手首に腕輪を嵌める。そして、入った時と同様に魔法陣の中から出てきた。


『早かったな! 人攫いの天才だ!』

「ゆう、ふざけてる場合じゃねぇだろ」


 出てきたコウを茶化すと、怒声が返ってきた。それもそうかとゆうは納得する。そして、少年の右手に腕輪がしっかりと装着されていることを確認した。

 やるか、とゆうは気合を入れる。


『じゃ、なんか問題起きたら、任せた!』

「はぁ!? ゆう、テメェまっ――!」

「……とりあえず、結界閉じますね」


 責任を全てコウに投げつけて、少年にゆうが触れる。コウの怒声とリンのどうでも良さそうな声を聞き流しながら、腕輪が光っているのを確認し、惹かれるように触った。

 その瞬間、ゆうの視界がホワイトアウトした。次に視界が開くと体に熱を感じた。


「よし、成功! この身体の意識も眠っている。大成功だ!」

「……声が違って違和感が半端ねぇな」

「こちらでの用は終わったんですよね? だったら、早く主様の元に行ってください」


 三者三様の反応を示しながらも、それぞれのやるべき事はわかっている。ゆうは2人と一度顔を見合わせて頷きあう。


「リン、体育館(ここ)の奴らは任せた」

「わかっています。主様をよろしくお願いいたします」


 コウに向かってだけ、頭を下げるリンに相変わらずだなぁと思いながら、地を踏み校舎へと向かう。そういや、さっき爆発音聞こえたから、きっと校舎にいるだろうとコウと話しながらゆうは違和感もなく人の身体を動かす。

 翔の親友って言ってたなーと身体の持ち主のことを考えながらも、今は天邪鬼討伐が第一だと考えることをやめる。

 そして、コウと警戒しながら校舎内を捜索する。しばらくすると上の階から銃声が聞こえた。


「上か?」

「――っ、おい、先走るな!」


 迷わずに駆け出したゆうに、コウが焦ったように声をかけてきたが、無視して階段を駆け上がる。後ろからコウがため息をつきながらついてくる気配がした。それを確認し、騒がしい教室に当たりをつける。そして、迷うことなく扉を開け放った。


「待たせたな!」


 教室内にいる全員を見回しながら、ゆうは笑顔で言い放った。後ろからコウが呆れたように息を吐く音が聞こえた。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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