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第56話 終わった?

 教室内は机や椅子が散乱していた。酒呑童子が片手で盃を傾けながら反対の腕を動かし、机や椅子を並べ直していく。


「一応戻すが、これ境界から出たら直ってましたってオチじゃねぇか?」

「おう、俺もそんな気がする!」


 酒呑童子の質問に和也(ゆう)はニコニコと笑顔で答える。


「終わったのか……? でも、なんで空間は戻らないんだ?」


 翔は周りをキョロキョロと見回す。教室内の星空は元に戻っていた。しかし、まだ世界は赤く染まっている。実はまだ、天邪鬼がいたりするのかと少し警戒する。


「おっ、少年、それは大丈夫だ! 今はさやが境界を(・・・)維持してる(・・・・・)

「は? なんで?」


 和也(ゆう)の自信満々な表情に翔はなんとも言えない気持ちになる。とりあえず、警戒する必要がないことだけはわかり、一息つく。しかし、よくよく見ると表情や喋り方はゆうだなと、改めて和也(親友)の身体で何してるんだよと言う怒りが沸いてきた。


「いきなり境界が解けたら、色々とまずいからな。まずは体育館に行って、リンと合流が先決だ。そこから、対策を練る。さや、どれくらい持つ?」

「……30分が限度だ」


 いつのまにか扇子を開いていた朔夜が静かに言う。それに頷くと、和也(ゆう)はパンっと手を打った。


「それぞれ思うところはあるだろうが、とりあえず体育館に行くぞ!」

「思うところがあるのは主に、お前相手にだ! いつまでカズの身体に取り憑いてるんだ!」


 翔は沸いた怒りを迷わずにぶつける。和也(ゆう)はヘラヘラと気にした様子もなく、両腕を頭の後ろで組む。


「理由はあるぞ? この状態と俺が抜けた状態を久遠に確認してもらう。そのためには、今身体から出るわけにはいかない」

「……久遠との合流は境界化を解いてからになるけど。君、それまで取り憑いてるつもり? 藤原の身体に負担はない?」

「久遠が作ったから、きっと大丈夫だ!」

「待て、完璧に安全保証されてないのか!?」


 思わず、和也(ゆう)の襟首を掴む。何かあったら、なんとしてでもこの幽霊を痛めつけないといけない。翔はそう決意する。


「落ち着け、ガキ。見たところ、和也()の魂が傷付いてる様子はねぇ。後遺症の可能性も少ねぇだろ」


 取り乱した翔の肩が優しく叩かれた。振り返ると、なんとも言えない表情をしたコウが落ち着いた声で翔に声をかける。


「本当か?」


 和也(ゆう)から手を離して翔はコウを見上げる。コウは和也(ゆう)を見ながら、黄金の瞳を輝かせている。


「久遠ほどは、詳細にはわからねぇが大きな問題が起きている様子はねぇ」

「おっ、流石、黄竜様!」

「テメェは少しは反省しろ」

「でも、片付けたぜ?」

「それが、1番腹立つんだよ」


 和也(ゆう)とコウが軽口を叩きあっている。朔夜が扇子を閉じてスカートに挿すと翔達に近づいてきた。少し不愉快そうな表情に、俺は何もやってないよなと翔は少し不安になる。

 しかし、朔夜は翔の横を通り過ぎると和也(ゆう)とコウの前で止まる。


「僕は30分しかないって言ったよね? 何、時間を無駄にしようとしてるの、君達。早く体育館に行って、鳴海に全て押し付けて帰るよ」

「……」


 どうやら、早く動きたくて不機嫌だったようだ。自分に怒っていたわけじゃないことがわかり、翔は胸を撫で下ろしてから、不思議に思った。どうして、そこが気になったんだ? しかし、2人に文句を言って、すぐに教室から出て行った。


「おい、チカ! 待てよ!」


 翔はすぐに後を追いかけた。危険はないかもしれないがそれでも今までのことがある。銃を握りしめ直す。何故か消えていなかった、猫型の式神が翔の後をついてくる。


「若者はせっかちだなー」


 うしろからそんな和也(ゆう)の呟きが聞こえた。


 少し小走りで走るとすぐに朔夜に追いついた。少し考えてから、特に話しかけずに朔夜の隣に並ぶ。歩幅も自然と合わせた。

 昨日までだったら、翔が突っかかって、朔夜が面倒そうに捌いていただろう。しかし、今はこの無言の時間が心地よい。今日だけで、世界観だけでなく、翔は自分の中の何かも変わった気がした。それが何かはわからないけれど。

 

 足元に何かが絡みつく感覚があり、確認すると式神の猫が翔の足に頬擦りをしていた。なんで? と思っていると式神が「にゃー」と鳴く。


「――っ!? 喋った!?」

「何言ってるの? 式神だよ、話すに決まってる」

「いや、式神自体を今日初めて知ったんだけど!」


 呆れた様子の朔夜に翔は思わず噛み付く。かなり常識とは? と価値観を破壊され続けていたが、それでも式神が喋るとは普通は思わないだろうと納得がいかない。しかし、朔夜は無視して階段を降りていく。


「おい、チカ!」


 足元に絡んでくる式神()を抱き上げて、翔は階段を駆け降りる。


「おー、これが青春ってやつか?」

「テメェはマジで一旦、怒られろ」

「あいつら見て、呑む酒もうめぇな」


 後ろからついてくる人外3人の呑気な声が聞こえてくる。

 まだ、隔離された学校の中にはいるが、少しだけ日常が戻ってきたように感じ、翔の口角は自然と上がった。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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