第50話 攻防、からの――?
翔達の前に姿を現した天邪鬼は余裕そうな表情を浮かべ、ニコニコと笑っている。その笑顔にさえ、得体の知れない恐怖を感じる。
酒呑童子が一歩後ろに下がったと思うと、天邪鬼に向けて回し蹴りをお見舞いする。しかし、先程までの天邪鬼とは違う。軽い動きでその蹴りを避けた。そして、地面を蹴り酒呑童子の後ろまで回る。その途中で投げ飛ばされた時に翔が落とした銃を拾った。
「これ、妖に効力があるんでしょ? 流石の貴方様にも効くのかな?」
銃を手の中で回しながらニコニコと言葉を紡ぐ。翔は唯一の武器を何故すぐに拾いにいかなかったのかと後悔した。なんとか立ち上がるが、体の震えは止まらない。天邪鬼から視線を外せない。
「そんなものが俺に効くはずないだろ? それより、わかってきたぞ。千年前に管理人と相打ちになったとされていた個体はもともとさっき朔夜が封印した奴と同一だな? お前はいくら千年前といえ、人の子がなんとかできるとは思えねぇ」
「流石、首魁様。その通り。分身を創り、実験をしていた。自我を与えたことにより、ワタシとどれだけ違う行動を取るのか、興味深かったよ」
天邪鬼は楽しそうにそう笑うと翔と朔夜の方をニタリと見た。その視線に入っただけで翔の背中に嫌な汗がつたる。無意識に震える手を押さえていた。
「人とは面白い。それが分かった。怯えれば怯えてくれるほど、ワタシに力をくれる。贄というところか」
「悪趣味だな。それで? 分身が管理人への復讐を企てたから協力したと? 以前、化け狸を唆したのも分身じゃなくてお前だな?」
「ええ、そうですよ。ワタシの力は妖にも効くのか。全ては実験です。ワタシが退屈せずに長い時を生きるのに必要なもの」
天邪鬼は詫びれた様子もなく言う。翔は天邪鬼から視線は外さずに朔夜に近付く。チラリと視界の端に捉えた彼女の顔色が明らかに悪かった。自分の顔色もきっと良くはない。それは分かっていたが、気になった。
「大丈夫か?」
「……なんで、君こっちにきたの? 今、天童が天邪鬼の気を引いている。その間に、体育館まで逃げろ」
「チカはどうするんだ?」
朔夜に逃げろと言われ、翔は気になった事を聞いた。きっと、朔夜は逃げないだろう。そして、それを置いて自分だけ危険から逃げるのは違う、翔はそう思った。
「僕は……管理人だ。今の状況じゃ役に立つかも正直わからない。それでもこの場から逃げるわけにはいかない。隠世の、境界の安寧を守るためにいる、それが僕の存在意義だ」
朔夜は恐怖はしている。でも、迷いはなった。翔は以前、鳴海が管理人は人柱と言っていたことを思い出した。その時は、言ってる意味がわからなかった。しかし、今なら少しわかる。朔夜も、そして歴代の管理人は全てその役割に人生を、命さえも捧げていたのだろう。
何故そこまでやれるの翔にはちっとも理解できなかった。しかし、朔夜にとってはそれが普通の価値観なんだろう。今までの様子を見ていて、思考や価値観そのものは理解できないが、価値観に関しては朔夜がだいぶ大切にしている事は理解してきた。
それを否定する気もない。だから、翔の考えも変わらない。
「チカが残るなら俺も残る」
「……武器もなくどうするつもり?」
「それは、今から考える」
残ると決めていたが、どうするかは一切考えてない。様子を見て考えようと思っていた。役に立つ、立たないは既に考えていない。ただ、この場を離れること。それだけは心も体も拒否をした。
だから、翔は迷わないし、後悔もない。
「足手纏いだ。それに一般人に被害を出したくない」
「わかってる。足手纏いだって、もうずっと自覚してる。それにここまで足を踏み入れてるんだから、もう一般人じゃないだろ」
「……それは屁理屈だ」
朔夜も思うところがあったのか少しだけ後ろめたそうだ。
「おい、逃げるよりもここにいた方がまだマシだ! こいつの分身は1人とは限らない。下手に分かれて動いた方が危険だ!」
酒呑童子が天邪鬼に斬りかかりながら、翔達の方を見て吠える。しかし、視線は全く天邪鬼から動かしていない。先程の分身と戦力が桁違いだということがそれだけで翔にも十分に分かった。2人の鬼は互角に近かった。
今、銃を持っていても当てることは出来るのだろうか? そんな疑問が湧く。
「……確かに天童の言うことは一理ある」
朔夜は不服そうに呟く。しかし、すぐに考えを切り替えたように自分達の現状を語る。
「天邪鬼は1人だと思っていた。だから久遠から預かった封印用の石も一つしかない。これはもう僕の思考が読まれてるからバレている」
「なら、あいつを封印する方法はもうないのか?」
「僕の手持ちにはない。こうなると、ゆうの企みが突破口になることを祈るしかない」
朔夜は持っていた扇子を握りしめる。翔はその名前を聞いて、ゆうの存在を思い出した。考えがあると内容は秘密にして体育館にコウを連れて向かった。あいつは今、何をしているんだ? 校舎内にいる他の分身に足止めされているのか? 体育館にいる生徒は無事か? 翔の脳内に様々な疑問が浮かんでくる。しかし、正解はわからない。
耳には銃声と金属音がひたすら響いている。決して、酒呑童子が劣勢なわけではない。酒呑童子の刀や鬼火は確かに天邪鬼に届いている。逆に、酒呑童子には天邪鬼の攻撃は一切当たっていない。
しかし、敵が全く劣勢に見えない。余裕な笑みを携え、時々、酒呑童子から翔達に視線を移している。
どうなっているんだ? 翔は少し恐怖をした。このまま、こいつを倒せるのか? そんな疑問が浮かぶ。
「鬱陶しいな」
酒呑童子が苛立ったように、足元を狙い刀を振り下ろす。
「……致命傷になる場所と、影響のない場所がある?」
隣にいた朔夜がその様子を見て、ボソリと呟く。翔は天邪鬼から視線を外して、朔夜を見る。
「どう言うことだ?」
「避けてる攻撃と、避ける気のない攻撃がある」
朔夜は天邪鬼から目を離さずに翔に素早く説明してくれた。
「分身とは違い、眉間、心臓、両足、この場所への攻撃は避けている。逆にそれ以外の場所への攻撃は避ける気がない」
「……?」
翔は疑問に思いながらも、天邪鬼を見る。すると、確かに朔夜の言った3箇所に酒呑童子は多く攻撃を仕掛けており、それは避ける。時折、入るフェイクのような3箇所以外の攻撃は一切避けていない。
全く気付かなかった。朔夜と酒呑童子は観察しながらも突破口を探していたことに気付いた。
「それが分かっていても、当たんないなら、意味ねぇんだよな。それに足は動けなくなるから避けてるだけだ! 弱点じゃねぇ」
酒呑童子が、鬼火で天邪鬼の視界を一時的に塞ぎ、刀を心臓に向けて突き刺そうとする。しかし、天邪鬼はまるで読んでいたかのように後ろに避ける。
攻防戦は終わる気配が見えない。
その時は、教室前方の扉が大きな音を立てて開いた。
「待たせたな!」
そして、中に入ってきた人物の顔を見て翔も朔夜も呆けた。
「えっ……カズ?」
扉から入ってきたのはコウを背後に従えた、藤原和也だった。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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