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第49話 封印、そして――

 朔夜は目の前で巻き起こっている天邪鬼と何も考えていないであろう翔との攻防戦を呆れたように眺めながらも、封印石に祈りを込めて、強度をあげていた。


 教室の外から中の様子を見る。

 酒呑童子はいつのまにかまた取り出した酒を呑みながら天邪鬼を見ている。天邪鬼は教室内を銃で狙いを定められないように動き回る。翔が銃を持っているから、無闇に近づけないのだろうと朔夜は当たりをつける。


 それにしても滅茶苦茶だなと翔に視線を移す。ただ天邪鬼の動きに合わせて銃を動かし、撃っている。その速さから、照準を合わせているのかすら怪しい。

 しかし、そのおかげで天邪鬼は翔から意識を離せず、朔夜は封印の準備がしやすい。


 考えないで動く。それが人の思考を読み、反転させる天邪鬼への戦い方だとその様子を見て理解はした。だが、頭はその事実を受け入れる事を拒否する。こんなことがあって、たまるかと。

 朔夜は酒呑童子経由で受け取った久遠のポーチから数珠を出す。そして、封印石と一緒に持ち、言葉の奉納を続ける。


「境界の安寧の為、脅かす者には断絶を。世界の理からの追放を」


 朔夜は祝詞を捧げ終えると願いを口にした。透明だった石がキラキラと淡く光る。

 これで封印の準備は完了した。スカートから扇子を抜く。

 そして、一方的な銃撃戦の会場となっている教室に足を踏み入れた。

 これで、封印が出来ればこの騒動はきっと終わる。最終決戦だと自覚し、少しだけ体が力む。失敗するわけにはいかない。朔夜は結局考えながらしか動けないのだ。




◇◇◇◇



「ちょこまかと動いて鬱陶しいな」


 翔は天邪鬼に向けて銃を乱発しながら、舌打ちした。狙いをつけていないから、当たらないことが多いのは仕方がない。ただ、当たってもそこまでダメージがなさそうなのが一瞬気になった。しかし、今はそんなわからない事を考えるよりも一発でも多く天邪鬼に銃弾をお見舞いするのが優先だ。


 酒呑童子は楽しそうに笑っている。笑い声で翔は判断した。しかし、本当に危険なら助けてくれると謎に信じられた。だから、翔はただ自分にできる事を理由はわからないがやる事しかできない。


 翔の撃った弾が天邪鬼の両足を貫き、倒れ込む。そのタイミングで朔夜が教室内に入ってきた。その手には淡く光る小さな石と扇子を持っていた。


「ありがと、ここからは僕の仕事だ」


 朔夜はそう言うと、倒れた天邪鬼に近づく。翔は止めようとしたが、酒呑童子に手で制される。


「危険だから、それ以上近づくな。朔夜が危なくなったら俺がなんとかする」

「……わかった」


 翔は朔夜と天邪鬼を見る。何が起こるのか見逃さないように瞬きすら惜しんだ。しかし、銃は構えて天邪鬼に向けたままにする事は忘れない。


 朔夜はスカートのポケットから数珠を取り出すと、天邪鬼に向けて投げる。すると数珠は巨大化し、少年の姿をした天邪鬼を拘束した。数珠は淡く光り、逃がさないように、両足、両腕を特に念入りに縛っていた。

 そして、その天邪鬼の上に朔夜はお札を置く。その瞬間に天邪鬼はまるで雷に撃たれたように一度痙攣すると動きが止まった。


 朔夜はその様子も気にせずに淡く光る石を天邪鬼と自分の間に置く。地面に直置きにならないようにハンカチを1枚敷いていた。


 そして、1歩後ろに下がると扇子を開く。そして、まるで石に奉納するかのように舞う。

 扇子を左右に動かしている。翔からは朔夜の後ろ姿しか見えておらず、表情は見えない。しかし、きっといつも通りの無表情で舞っているのだろうと翔は確信していた。

 横では朔夜の舞を肴に酒呑童子がまた酒を呑んでいた。この人何しにきたんだ? と翔は少し疑問に思う。


 その間も朔夜は舞う。そして扇子を閉じた。扇子の先を天邪鬼に向け、石に移す。


「中は断界。二度と外界への接触は禁じる。此は境界の、双世(ふたよ)の安寧に害なす者」


 朔夜は石の前で片膝をつき、扇子を横に両手で掬うようにして持ちながら、頭を下げた。

 その途端、天邪鬼がまるで吸い込まれるように石の中に消えていった。石の淡い輝きが黒く濁る。

 天邪鬼の姿が見えなくなると、朔夜は顔を上げて石をお札で包む。そして、ポーチの中からガラス細工の六角柱の入れ物に石を入れて蓋を閉めた。


「……終わったのか?」


 翔は銃を下におろして、無意識に尋ねる。しかし、振り返った朔夜の顔を見て首を傾げた。思わず、隣の酒呑童子を見る。

 酒呑童子も朔夜と同じ顔をしていた。


 何かがおかしいと、腑に落ちないという表情を。


 翔はまだ終わっていないのか? と思った次の瞬間、隣にいた酒呑童子に捕まれ、教室後方に投げ飛ばされた。


「――っ!?」


 後ろのロッカーに背中を強打し、痛い。持っていた銃は途中で落としてしまった。翔は混乱しながら酒呑童子を見る。そして、驚愕する。

 翔が先ほどまで立っていた場所の床が抉れていた。自分があのままあそこにいたらとか思うと、それだけで口内から水分が消えた。


「どういうこと?」


 呆然とした朔夜の声が耳を打つ。状況を把握できていないのは自分だけではなかったことに気付く。


「……弱すぎるとは思っていたが、力の一部を切り離していたのか。分身は様子見ということか」

「流石は鬼の首魁。状況把握も早いですね。分身の得たものはワタシも得られる。封印方法が1つしかない事は把握していた。なら使わせてから絶望をさらに積み上げる方がいいだろ?」


 そして、酒呑童子の前には先程の少年がいた。見た目は一緒だ。しかし、禍々しさは桁違いに感じる。翔は無意識に恐怖を感じ、背中に嫌な汗が伝うのを感じた。


「……今まで潜伏していて、初めて姿を現したってこと?」


 朔夜が震える声で呟く。それは思わず言うつもりのなかった内心が漏れてしまったように聞こえた。普段淡々としている朔夜の恐怖の混ざった声を翔は初めて聞き、不安になる。

 朔夜を見て少年は笑う。


「そうだよ?」


 封印したと思っていた天邪鬼はただの分身、今目の前にいる禍々しい存在が本命だった。その事実は翔と朔夜を絶望させるには十分だった。

 その絶望を糧にするかのように天邪鬼は無邪気に言う。


「君達は、手の内を全てワタシに見せてくれたのさ。ありがとね?」


 酒呑童子も何も言わない、それが翔には1番恐ろしいように感じた。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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