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第48話 役割交代?

 翔は何も考えていなかった。ただ、身の危険を感じた。そして、それを回避できるかもしれない手段が銃という形で手の中にあった。

 だから撃った。それだけだ。

 人の形をしていても天邪鬼は人間じゃない。だから拳銃を向けることにも、引き金を引くことにも躊躇いはなかった。

 気付いたら、拳銃を撃っていた。翔の感覚はその程度だ。


「ちょっと、稲荷。君何してるの?」

「思い切りがいいな!」


 倒れた少年の姿をした天邪鬼から視線を逸らさずに朔夜は翔の元へ駆け寄り苦言を呈す。

 逆に酒呑童子は豪快に笑いながら、翔の背中をバンバンと叩く。

 

 翔は拳銃と天邪鬼を見比べる。そして、少し青ざめた顔で2人を見た。


「狙いつけてなかったんだよ! こいつ死んでない? 大丈夫?」

「安心しろ、久遠作の銃だろ? あいつは殺生は好まないから、死んではいない。まあ、気絶はするんじゃないか?」

「待って、そもそもなんであの状況で平然と撃てたの、君」


 楽しそうな酒呑童子は、何度も翔の背中を叩いてきて、若干背中に熱を持ち始めてる気がすると翔は思った。

 引いたように天邪鬼と翔を見比べる朔夜に翔はなんと答えればいいか迷った。何も考えてなかったと言ったら怒られるか? とそんな事を考える。


「火事場の馬鹿力的な?」

「意味がわかんない」

「朔夜にそう言われたら、おしまいだな」

「天童、それはどういう意味?」


 3人全員の視線が一瞬天邪鬼から離れた。その瞬間に、天邪鬼は跳ねるように起き上がり3人から距離を取る。


「!?」


 翔と朔夜は驚愕する。倒してはいないが、眉間に損傷を受けたのだ。もう少し回復まで時間がかかるんじゃないのかと、思っていた。

 酒呑童子だけは翔の背中を叩くのはやめたが、どこか冷めた目で天邪鬼を見ている。


「殺したと思っただろう? 怪我したと思っただろう?」

「……反転したって事?」

「は? どういう事だ?」


 天邪鬼が口を開く。なぞなぞでも言われているのかと、翔は意味が理解できない。しかし、朔夜はわかっているようで真剣な表情で天邪鬼に尋ねる。

 翔は思わず隣に移動してきた酒呑童子に質問する。朔夜に話しかけても冷めた目で見られるか、無視されるかのどちらかだと思ったからだ。


「悪りぃが、雑魚については詳しくないから、わからん」


 酒呑童子は豪快に笑いながらいつのまにか持っていた酒を呑んでいる。そして、さっきまで持っていた刀も消えていることに翔は気付いた。

 なんで? と不思議に思うが、聞くのが怖い。そしていくらなんでもこの状況で酒呑むのかと言葉を失った。


「ふん。想像にまかせるよ。それより、また会ったな管理人」


 天邪鬼は下品な顔で笑いながら朔夜を見ていた。朔夜はいつのまにか左手に持っている物が、お札から宝石のように輝いている手のひらサイズの透明な石に変わっていた。


 翔の頭の中はまた、なんで? で埋め尽くされる。教室内にいる天邪鬼と入口にいる翔達。距離は十分にある。

 わからない事を考えるのは後回しだと、翔はもう一度銃を構え直して、無造作に引き金を引く。

 弾は天邪鬼の耳の横を通過した。


「……何やってるの、君?」

「さっきの銃が効いたってことは、また当たったら少しは再起不能にできるかなと思ってさ」


 朔夜の質問に翔は真剣に答える。横から酒呑童子の大きな笑い声が聞こえるが、自分はおかしな事を言ったのだろうか? と首を傾げる。


「……」


 その時、天邪鬼が朔夜から翔に視線をずらしたことに気付いた。とりあえず何も考えずに、また引き金を引く。

 すでに2回撃ったからか、引き金を引くことに今更恐怖も感じない。弾は天邪鬼の肩のあたりに当たった。 

 さっきは気づかなかったが、天邪鬼からは血が流れてはいなかった。ただ、体に穴がある。それだけだ。


「翔、お前最高だな」


 不思議に思っていると酒呑童子がカラカラと笑う声が聞こえた。そして、彼は翔と朔夜の前に出た。庇うようにとも、迎撃するためというようにも思えない。気楽な様子で躍り出ていた。


「朔夜、あの雑魚の相手は翔に任せるのが相性的にいいかもしれねぇぞ」

「は?」

「え?」


 そして、酒呑童子の発言に朔夜も翔も理解できずに首を傾げた。しかし、酒呑童子の中では納得できているようでうんうんと頷いている。


「待って、天童。僕は一般人を巻き込むつもりはない」

「とはいってもな、明らかにお前とあいつは相性悪いじゃねぇか」


 朔夜が不服そうに酒呑童子に自分の考えを伝えるが、彼は聞く耳を持たない。


「俺が補助しながら、翔が陽動。お前はその間に封印の準備。1番効率がいいだろ」

「それは、そうだけど……」

「それに、考えすぎるタイプのお前より、考えずに行動する翔の方があきらかに相性がいい」


 敵を前にして声のボリュームを落としもせずに話す2人に翔は少しだけハラハラする。作戦会議って、敵にバレないようにやるものじゃないのか? 翔は首を傾げる。


「おい、翔。お前の長所は考えずに突っ走ることだ。今は何も考えなくていい」


 翔がうんうん唸っていたからか、酒呑童子は褒めているのか貶しているのかわからない事を言う。


「……確かにそれは一理ある。でも、一般人に怪我はさせるなよ」


 不服そうに朔夜が酒呑童子に声をかけて、一歩下がる。そして、扇子をスカートに刺し直して石を両手で包むように持ち、頭に当てている。

 何をやっているんだと一瞬気になったが、すぐに翔は酒呑童子に何も考えるなと言われた事を思い出して、思考を止める。


「とりあえず、翔。お前は何も考えずに天邪鬼に攻撃をし続けろ」

「おっ、おう?」


 酒呑童子の言いたい事は一切わからないが翔は返事をして銃を構え直す。考えるなって事は照準も合わせない方がいいよな? 弾数に制限はないっていってたよな? とそこまで思い出して、これも考えているのかと翔は気付いた。


「やってみる」


 翔は酒呑童子にそう答える。しかし、頭の中を空っぽにするのは存外難しい。翔はこの空間から出たらどうするかを考えることにした。そして、思考とは違うタイミングで引き金を引いていく。


 俺、これ得意かもしれない。


 そう思いながら翔は狙いも定めずにただ天邪鬼に向けて引き金を引き続けていた。

 隣の酒呑童子の軽快な笑い声が翔の鼓膜を揺らしていた。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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