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第47話 対峙

 翔は朔夜とほぼ横並びに階段をのぼる。その前には酒呑童子が相変わらず緊張感なく酒を呑みながら進んでいる。

 隣を歩く朔夜は変わらず無言だ。翔も3階に近付くにつれて、身体に力が入る。拳銃を握る手は汗ばんでおり、少し気持ち悪い。


「もうじき、着くな」


 酒呑童子は後ろを振り返り、楽しそうに笑う。校庭から確認した教室にもうすぐ辿り着く。

 翔は思わず固唾を飲み込み、拳を握る。

 まだ、実際にその教室にいるかはわからない。それでも天邪鬼はこの校舎のどこかにいる。今更ながら翔は緊張してきた。


 朔夜はスカートから扇子を抜き出す。神楽鈴はそのまま刺しっぱなしだ。その違いはなんなんだろうと、こんな時だけど少し翔は気になった。しかし、翔の考えをわからないであろう朔夜は一切横を見ずに、警戒するように前だけを見つめていた。

 あまりにも前だけしか見ていないのが心配になり、翔は後ろを振り返る。しかし、そこには見慣れた階段があるだけだった。


「よし、じゃあ乗り込むか!」


 相変わらず1人だけ緊張感のない酒呑童子が、教室の扉に手をかける。そして、躊躇わずにパーンと扉を開けた。


「は?」


 翔の口から無意識に声が溢れる。そして隣を見ると朔夜が頭を抑えていた。流石に、この行動は予想外だったようだ。

 というか、予想がつくはずがないかと翔もすぐに考えを改める。


「へぇ! 雑魚のくせに余裕な顔で嫌がるのか」


 しかし、酒呑童子は全く気にした様子もなく教室内に入っていった。しかも、口調から多分教室内に天邪鬼はいる。

 なら、なんでこんなに豪快なんだ? 翔は考えようとしたが、すぐに考えるまでもなかったと思い直す。

 最初から酒呑童子はずっと天邪鬼は雑魚だと言っていた。舐めているというよりは、事実なんだろう。

 だから、緊張感もなければ、状況を他人事のように楽しんでいる。


 思わず、朔夜を見ると朔夜も翔を見ていた。なんで? と翔は疑問に思う。


「君、あの緊張感のなさ真似しないでよ。今は異常事態なんだから」

「は? 真似できるわけねーだろ」


 朔夜の発言に翔はつい言い返してしまった。それが異常の起きる前の日常のようで一瞬、気が抜けそうになるが拳銃の存在を思い出し、慌てて気を引き締める。拳銃は握ったまま、両頬を手で叩く。


「……何やってるの?」


 朔夜が引いたような顔で翔を見ている。心外だと思いながらも拳銃を握った手でやったのは良くなかったか? と若干反省する。しかし、そのおかげか悪い緊張が抜けた。

 先程までの手汗は消え、銃を持つ手が軽く感じた。


「俺達も行くぞ」

「……君が仕切るのはやめてくれない」


 翔が朔夜に声をかける。朔夜は嫌そうな顔で、翔の前へと進む。


「とりあえず、君は教室に入らずに入口で待機。何かあったら、体育館まで走って、ゆう達と合流しろ」

「……わかりたくないけど、わかった」


 翔は不服だったが了承した。足手纏いなことはわかっていた。しかし、頷きながらも考える。もし何か出来ることがあるのなら、自分はきっと行動に起こすだろう。朔夜にバレないように心の中で決意する。

 朔夜は疑うような目で翔を見るも、すぐに視線を教室の方へ向けた。


 教室内からは微かに金属がぶつかり合う音がした。きっと、酒呑童子と天邪鬼が戦っているのだろう。朔夜は翔に背を向けると教室に向かい、中に入って行った。

 翔は少し悩んでから、扉の入口まで近づく。


 教室内は爆発してたよな? と疑問に思うほど普通の様子だった。整列するように並んでいる机に椅子。黒板の前の教壇。全てがどこにでもある教室の風景だった。

 先程爆発したのも1階で見た異界の中で、校舎自体は爆発していなかったのか? と考えるも、翔は自分でもよくわからなくなる。理解する事を脳が拒否していると感じ、諦めた。


 教室の現状を無視し、中の様子を確認すると刀で切り結ぶ、酒呑童子と少年がいた。少年が、人に化けてる天邪鬼なのだろうと当たりをつける。天邪鬼はかなり劣勢の様子だ。酒呑童子の刀が天邪鬼の刀を下から弾きながら、腹に蹴りを入れる。

 天邪鬼が吹き飛び、教壇にぶつかる。


「天童」


 朔夜が酒呑童子に声をかけている。いつのまにか扇子を持っていない左手にはお札を携えていた。


「わかってるって。かなり手加減してるんだぜ? こっちは」

「……それはわかってる。でも」


 朔夜が何かを言おうとした瞬間、天邪鬼が体を起こした。そして、朔夜に向けて持っていた刀を投げつけた。


 危ない!


 翔は思わず走り出そうとした。しかし、翔の体が動くよりも酒呑童子の行動の方が早かった。朔夜目掛けて飛んできた刀を一歩前に出て、自分の刀で弾き飛ばした。

 飛んだ刀は校庭側の窓の上に刺さる。


「すげぇ」


 あまりにも鮮やかな様子に自然と口から声がこぼれ落ちる。余裕そうな様子はずっとあったが、酒呑童子はこんなに強かったんだと感動した。少し、格闘技の大会を見に来てるんじゃないかという気持ちになる。

 

 その為、教壇にいた天邪鬼が翔を見ているどころか、向かってきていたことにも気づくのが遅れた。


「ちょっ、稲荷!?」


 珍しく朔夜の焦った声が聞こえた。そして、スローモーションで視界に映った出来事が再生される。目の前には少年の姿をした天邪鬼。どういう仕組みか、長くなった爪が翔に襲いかかろうとしていた。天邪鬼の肩越しに、お札を構えて焦った様子の朔夜と、虚を突かれたような顔をした酒呑童子が見える。

2人とも天邪鬼を追いかけるように走り出そうとしている。


 その様子を見ながら、翔は迷わずに持っていた拳銃を胸の高さまで上げて、引き金を引く。

 銃口から弾が発射されて、少年の眉間を貫いた。


「は?」


 翔以外の3人の声が静かな教室にこだまする。翔の持つ拳銃からは硝煙が立ち込めていた。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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