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第45話 天童

 翔達は、昇降口から外に出る。あえて靴は外履きに履き替えずに校舎外を捜索する。上履きで外に出るなんて、避難訓練以来だなと翔はぼんやりと思ったが、すぐに手元の銃の重みに気付き、気を引き締める。


「そう言えば、天童。ゆうに渡したあの腕輪なんだったの?」

「ああ、それは見てのお楽しみだ。俺はそれで肴にする気だしな」

「相変わらず、悪趣味だね」


 前では朔夜と酒呑童子が周りを警戒しながらも気の抜ける会話をしている。不意に気になり、翔は朔夜に尋ねた。


「なぁ、チカ。酒呑童子なんだろ? なんで、天童なんだ?」

「……別に深い意味はないよ。種族名を呼ぶのが嫌だったから、酒呑童子から名前を抜き出して天童」

「?」


 翔は頭の中でハテナマークを飛ばす。そして、考える。


 酒呑童子。しゅてんどうじ、しゅ"てんどう"じ。


 まさかと思った。しかし、それ以外に理由は思いつかない。翔は信じられないものを見るような顔で朔夜を見る。


「そのままじゃんか!」

「だから、抜き出しただけって言っただろ。本人に伝わればいいだけなんだし」

「面白いよな、この俺にその理論で名付けたやつなんて長い人生に朔夜以外、会ったことすらねぇよ」


 酒呑童子はカラカラと豪快に笑う。それだけで酒呑童子が朔夜の事を気に入っていることがわかる。

 しかし、翔が引っかかったのはそこではなかった。


「お前、俺がチカって言ったらいっつも嫌がってたじゃねぇか! チカだってあだ名つけてるんだから、文句言うなよ」

「僕が文句を言ったのは不知火を"ふちか"と呼んだことだ。知ってる上で文字るのと、知らないで変な名前で呼ぶのでは話が違う」


 朔夜はいつもの無表情で答える。しかし、翔は全く納得できない。確かに漢字を間違えて読んだのは悪かった。でも、あだ名をつける人間なら、あそこまで強く言うこともなかったんじゃないかと、朔夜との過去のやりとりを思い出す。

 そんな翔の様子など知らないとういように朔夜は続ける。


「それに僕がつけてるのはあだ名じゃなく、呼称だ。酒呑童子も、黄竜も麒麟も短く読んだ方が効率的」

「本当にお前は謎理論展開してるよな」


 笑いながら酒呑童子がいつのまにか持っていた酒を煽っている。翔も人のことは言えないが、イマイチ緊張感がない。

 考えてみると、さっきの教室での会議もどきでだいぶ緊張が解かれたように思う。

 

 心配していた朔夜が無事だとわかったことも大きいが、それ以上にゆうと酒呑童子のノリが軽かった。そこから緊張感が維持できてないのでは? と少し不安になってきた。

 油断は禁物。翔は銃を握りしめて、気持ちを入れ替える。


 別れる前にゆうより安全装置は外れているから、銃を使う時は、引き金を引くだけでいい。あとは、誤射しないようにだけ気をつけろと言われた事を思い出し、一度引き金から指を離した。


 それから3人で校舎を一周したが天邪鬼を見つけることは出来なかった。運動場に移動して、倉庫の中も探すが見つからない。

 校舎に戻ったのか? と3人で顔を見合わせる。


 その時、校舎から爆発音が聞こえた。それと同時に熱波を微かに感じる。驚いて振り返ると、3階の端の教室から火の手が見える。


「へぇ、わざわざ自分から居場所を教えるとは舐めたマネしてくれんなぁ」


 酒呑童子が酒を煽りながら、舌なめずりをした。朔夜は変わらず、無表情のまま爆発したと思われる教室を見つめている。

 翔は一瞬、駆け出そうとした。しかし、すぐに思いとどまる。自分が突っ走って何が出来る? ただ足手纏いになるだけなんじゃないのか? 翔はまだ天邪鬼に会ってすらいない。


 だから、本当の恐怖はいまだにわかっていない。ただ、ゆうもコウも警戒していた。だからそのレベルの敵ではあるのだろう。翔の認識はその程度なのだ。


「……陽動の可能性も否定できない。運動場(ここ)は見晴らしがいいから、すぐに襲撃がきても対処できる。でも、室内は? わざと誘っている罠の可能性もある。天邪鬼ら狡猾だ」

「確かにその可能性もあるな。もしくは俺と分断したいか、だな」


 目の前で朔夜と酒呑童子が周りを警戒しながら状況の分析をしている。翔は口を挟めない。諦めて、2人の話を聞きながら自分なりに理解しようと頑張る事にした。

 まだ千年前の因縁うんぬんの話よりは理解できる、翔はそんな気がした。


「なら、3人一緒に行動した方がいいか。できれば稲荷は体育館に行って欲しいんだけど」


 朔夜が面倒そうに翔を見てきた。その顔にはとっとと体育館に行けと書かれている。


「嫌だ! 俺はなんて言われてもついていく!」

「ほぉ、勢いだけはいいな。気に入った。危なくなったら助けてやるよ」


 即答する翔を初めて酒呑童子がまともに見た。そして、楽しそうに笑いながら、翔の背中をバシバシと叩く。その様子に朔夜の顔がさらに嫌そうに歪んだ。

 とりあえず、酒呑童子には同行を許可されて翔は内心で安堵する。


「ありがとう。えっと……」

「おうっ、天童でも酒呑童子でも好きに呼べ」


 酒呑童子は豪快に笑いながら酒を煽る。朔夜はもはや諦めたように、3階の教室から視線を離さない。それでも1人で動こうとはせずに立ち止まってはいた。

 翔は少し考える。早く動かないといけない。だから、翔は結論を出した。口馴染みがいい簡単な方を選ぶ。


「わかった。よろしくな、天童」

「おう、ガキ。お前の名は?」

「あっ、稲荷翔」

「へぇ、翔か」


 酒呑童子は笑いながらもう一度、翔の背中を力強く叩いた。なんだか、力を分けてもらえたみたいで翔は嬉しく思った。


「君達、今そんなことしてる場合じゃないのわかってる?」


 冷めたような朔夜の声を聞き、慌てて現実を思い出す。


「別に、相手は雑魚だ。これぐらい余裕でいいんだよ」

「その慢心で逃したんじゃないの?」

「お前まで、そう言うのかよ」


 朔夜と酒呑童子は軽口を叩き合いながら校舎に向かって歩いていく。翔も慌てて2人に続いた。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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