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第43話 再会

 翔は教室へと続く扉を開けた。教室内はどうやったのか机や椅子でバリケードが作られており、教室が前後の半分に区切られていた。そして、後方の中腹あたりに扇子と神楽鈴を持った朔夜がいた。何故か真剣な瞳でバリケードの向こう側を見ており、扉が開いたことすら気付いていない。

 しかし、翔にとってそれはどうでもいい事だった。朔夜の姿を見た瞬間、気付いたら走り出していた。


 そして迷わずに朔夜に飛びつく。


「チカ! 無事だったか!?」


 朔夜が驚いたように方を震わせ、翔を見た。飛びつかれた勢いに負けて後方にバランスを崩し、尻もちをつくように座り込む。しかし、翔は気にしない。目を見開いている朔夜の瞳を翔は覗き込む。

 そして、視線は身体の隅々を観察して怪我がないことを確認して安堵する。


「いきなり……何?」


 朔夜が戸惑っている気配を感じた。でも、翔は無事な朔夜を確認した事で達成感を覚えて言葉が紡げない。ただ、朔夜の背中に回した腕に力を入れて強く抱きしめた。


「本当に、何? ……というか、離して」


 朔夜は視線を翔の背後に移した。きっと翔の後に続いて教室に入ってきて、浮いているゆうに事情を聞こうとしたのだろう。朔夜の言っている言葉の意味は理解できた。しかし、翔は従う必要性を感じず、さらに力を込める。


 ゆうとコウの話から、一歩間違えれば危険だったことを理解していた。だからこそ、そんな危険な場所に自分と同い年の少女がいた。その事実だけで、世界が赤く染まる以上の非日常を感じた。さっきまで話していた人物がもしかしたら――。そう考えるだけで身体が震え出しそうだ。


 確かな朔夜の体温と声が聞こえたその事実以外、翔にとってはもはやどうでも良かった。同じ教室内に天邪鬼がいる。その事実は翔の頭から消え去っていた。ただ、無事がわかった。それだけが全てになっていた。それ以外の真実はこの時は本当にどうでも良かった。


『おーい、少年。感動の再会? かもしれないけど、今こんな呑気にしていていい状況じゃないからな?』

「本当に、そう! いいから離して」


 ゆうと朔夜の抗議も無視する。

 その時教室前方より大きな音が聞こえた。翔は驚いて音のした方を見る。天邪鬼の危険をこのタイミングで思い出したのだ。

 朔夜を庇うように抱きしめなおし、翔は音のした方を向く。腕の中から朔夜の抗議の声が聞こえたが、気にも留めなかった。


 いや、目の前で起こっていた事実の不可解さに気を取られたといった方が正しいだろう。


 先程まで教室中央に鎮座するようにあった机や椅子のバリケードが崩れだ。そして、それぞれが意思を持ったように動いて、綺麗に教室の各方向、きっと元戻った場所へと散っていく。

 何かいる。しかし、反対の扉からはコウが室内に入っていった気がする。だからきっと大丈夫だと翔は自分を鼓舞した。


 その時、動き回る机の間から見慣れたコウが走りながら近づいてきていることに気付く。

 翔は安堵からか、身体の力が一気に抜けた。朔夜を抱きしめる腕も脱力する。

 その瞬間を狙ったように、朔夜が翔の肩を力強く押した。力が抜けたタイミングだった為、翔の体は簡単に朔夜から離れる。


「おわっ……」


 間抜けな悲鳴をあげながら翔は軽く尻もちをつく。朔夜は立ち上がり、翔から距離を置いた。既にいつもの不服そうな、機嫌の悪そうなそんな感情を内包した、無表情に体温や声を確認した時以上の安堵を覚える。

 いつも通りの朔夜だ。その事実がこの非日常を照らす光に思えた。


「君、本当に何? 鬱陶しいんだけど」

『さやは変わらず、通常運転だなー』


 朔夜の無事を確認したからか、ゆうの軽快な空気が戻る。


「どこからどう考えても、それどころじゃないだろ!? というか、天童」


 朔夜は、誰かを探すように教室前方を見る。


「おい、大丈夫か!?」


 コウが朔夜の前まで到着し、朔夜の両肩に手を置く。


「僕は大丈夫。それより、天邪鬼は……?」


 朔夜はコウに答えながら、コウの後ろからゆっくりと歩いてくる赤髪の浴衣姿の男に声をかける。

 その時、初めてその男の存在に気づきいた翔は一瞬警戒した。


「おう。そこの空気の読めねぇ、神獣のせいで逃げられた」

「……は?」

「ふざけんじゃねぇ、テメェの慢心もあんだろう」


 朔夜は知り合いのように話しかけ、男も気軽に答えていた。


『おー、酒呑童子来てたのか。それなら空間の破壊も納得だ』


 ゆうはスーと翔の横から朔夜達の方へと移動して、赤髪の男に気軽に話しかける。それにより、敵ではないとわかり翔は警戒を解いた。

 そして、少し悩んでから朔夜達に近づく。

 

 しかし、酒呑童子達は翔が近づいたことに気付かずに責任の所在を押し付け合っていた。


「ふざけんな。捕まえとこうと思ったら、間抜けにもお前が入ってきて、気が散ったんだよ」

「テメェの実力は癪だが知ってる。それでも鬼の首魁が取り逃したってことは俺が入る前から慢心して逃しかけてたってことだろ」

「は? 俺がそんなミスするわけないだろ」

『おーい、お前ら2人一旦落ち着けー』


 ヒートアップしてきたからか、ゆうが二人の間に割って入る。朔夜は目の前のやり取りを呆れたように見ている。そして、ため息をつきながら、扇子を閉じる。そして扇子と神楽鈴をそれぞれスカートに刺し直して、両手を開けていた。


「今は責任転嫁よりも先に、天邪鬼をなんとかするのが先だ。天童、何かわかったか?」


 朔夜は二人の言い合いを止めると言うよりは事態を早く収集させたい。そんな気持ちが言葉の端から溢れている。

 何があっても朔夜は朔夜なんだなと翔は短い付き合いだが、思った。そして気付く。いけすかねえ女と思っていた朔夜もクラスメイトの朔夜もどっちも話し方が違うだけで考え方も芯も何も変わっていなかった事に。

 何故、既視感まで感じていたのに気付けなかったんだろう? と翔は疑問に思ってしまった。


 しかし、今は天邪鬼だ。それをなんとかしない限り、この空間からも出れない。日常にも勿論戻れない。

 翔は自覚している。何も知らない自分が口を出しても説明で時間を食うだけだ。それどころか、自分が全貌を理解できるとも思わない。

 だから、今は少しでも邪魔にならないように、足手纏いにならないようにする。それしか翔に出来ることはない。

 握りしめたままだった銃の存在を思い出し、翔は両手でしっかりと握る。


 こちらの世界に関わるのなら、自分も何かを変えないといけない。それだけは痛いほどわかっていた。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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