第42話 空間の破壊
時は、朔夜が教室内に引き摺り込まれた時まで戻る。
コウは前の扉をなんとか開けれないか確かめると翔達から離れた。
翔は教室後方の扉を開けようとしたり、扉を叩いたりするもびくともしない。
『油断していたな……』
珍しく後ろからゆうが真剣な声で呟く。振り向くと腕を組んで真剣に考え込んでいる様子だった。
普段ふざけているからこそ、その真面目さが事態の深刻さを伝える。翔は無意識に唾液を飲み込んでいた。
「なぁ、チカは!?」
『多分、この中のもう一段隔離された空間に閉じ込めらている。さやは空間に介入はできるかが、中に天邪鬼がいたんじゃ、神楽ができない。なんとか、外から介入できればいいんだけど』
「――っ、つまり!?」
ゆうが回りくどい言い方をし、翔は何が言いたいか分からず、怒鳴るように聞き返す。
ゆうは真剣な表情で翔の隣に降りると扉を触ろうとする。しかし、ゆうの指が扉に触れようとした瞬間、ゆうと扉の間に稲妻が走り、弾かれていた。
入れない事を再確認した扉の中を睨みながら、ゆうは簡潔に答えた。
『俺らが中に入れないと、さやが危ない』
「――っ、どうにかできないのか!?」
翔はゆうに掴みかかろうとしたが、幽霊のゆうに触れるわけもなく、体を通り過ぎる。
『できるなら、やってる! おい、コウ。そっちはどうだ!?』
ゆうはそう言いながら、反対の入り口を破壊しようと水球をぶつけているコウに声をかけた。
翔も思わず期待するようにコウを見る。神聖な雰囲気を持つコウならなんとかできるんじゃないかと。
翔はコウの正体を知らない。でも翔の直感がそう告げていた。
「ダメだ。考えられることは全部やってるがまったく手応えがねぇ。こういう空間系はリンのが強い」
『そうだよな。だけど、結界を解かせるわけにもいかない。さやに中でなんとかしてもらうしかないのか』
コウが舌打ちする。それだけで苛立ちとともに本当に何も出来ないんだろうというもどかしさが伝わってくる。
自分が足手纏いの自覚は最初から翔にはあった。自分は何も知らないのだから。それでも力になれるかもしれない。そう思ったのも本当だ。
しかし、蓋を開けたらどうだ。何もできない。朔夜が危険な目に遭ってるかもしれないのに、みてることしかできない。
翔は歯痒さを感じる。無意識に手を握りしめた。その際に、自分が朔夜から渡された銃を握っていることに気づいた。
意味はないのかもしれない。それでも唯一自分に出来ることはあったと気付いた。翔は扉に向けて銃口を向ける。
銃の引き方なんて知らない。アニメやドラマで観たことはあるが、そこまで意識して確認したことはない。それでも関係ない。
翔は引き金に指をかける。緊張から腕が震え、上手く照準を合わせられない。不意に後ろから視線を感じた。しかし、翔は後ろを振り向く気にもならない。意識を自分の握っている銃と引き金にかかった指。この2つだけに集中させる。
『少年、流石に安全装置は外さないといけない。やり方わかるか?』
後ろからゆうの落ち着いた声が聞こえてきた。先程までは確かに翔と同様に焦っていた。しかし、今は冷静だ。その冷静さに翔は恐怖を覚える。今まで軽快なやり取りをしていたが、相手は何千年も存在している幽霊だ。普通の人間と考え方が違っても仕方がない。
それでも、この短い時間でゆうが朔夜を気にかけていたのは事実だ。だから、翔は口腔内に溜まった唾液を一気に飲み込んだ。そして短く答える。
「安全装置? わからない」
『そうか、やったことないし、やれるかどうかもわからないが、ひとつやってみたいことがある。少年の体を借りるがいいか?』
あまりにもゆうの真剣そうな声に翔は振り返る。そこには普段の軽快さが嘘のように真剣な表情をしたゆうがいた。あまりにもいつもと違う為、こんな表情ができるのかと驚いた。
「おい、ゆう! 何をする気だ」
離れた位置から、ゆうが何かをやろうとしているのを気付いたようでコウが叫ぶ。
ゆうは翔から目を離さずに疑問の答えを口にする。
『境界は、現世と隠世の狭間だ。なら、上手く少年の意識を残し、身体の主導権だけ俺に移せたら、簡易的な境界にならないかと思ってさ。生と死の狭間。それもまた境界だろ?』
「やったことねぇだろ! それでお前ら2人に何か影響が出たらどうするつもりだ。ここは隔離されてんだぞ!? 久遠に投げて終わりにはできねぇ」
翔にはゆうが何を言ってるのかイマイチ理解できなかった。しかし、コウの反応から危険を伴う可能性があることだけは理解した。それでも翔は迷わなかった。
一度、銃を下ろして身体ごと後ろにいたゆうに向き直る。そして真っ直ぐにゆうを見つめる。
「ゆう、頼む」
初めて、ゆうの名前を呼んだ。危険が伴うなら信頼関係が必要だ。今まで、ゆうに心までは許す気は翔にはなかった。しかし、今は違う。朔夜が危険な目に遭ってるかもしれない。取れる手段がまだ残っている。
そして、ゆうと翔の目的も願いも全て一緒だ。今なら何かやれるんじゃないか。素直にそう思った。
だから翔は迷わない。一瞬だけ、ゆうが探るような目で翔を見た。しかし目が合ってお互いの本気が伝わる。
それが同じ方向を向いているからか、魂に縁ができたからかはわからない。それでも今なら翔はゆうの全てがわかる気がした。
『わかった、少年――いや、翔!』
ニカリと翔は笑った。この全てが赤く染まった世界に不釣り合いなその笑顔に翔は安心した。腕の震えが止まっていること気にづく。きっともう大丈夫だ。
翔はさっきと同じように扉に向き合い、銃を構える。
「どうなっても知らねぇからな!!」
コウが怒鳴るように叫ぶが、不思議と人ごとのように思えた。どうすればいいかは何故かわかった。だから翔は迷わずに口を開く。
「ゆう、こい!」
『おう!』
ゆうの答える声を聞いた瞬間、身体の中に何かが入ってきた感覚がある。以前も感じたことがあるが、何かが違う。
「大丈夫か?」
口が勝手に開く。ゆうが翔の身体を乗っ取ってるからだろ。しかし、今回はそれだけではない。
「ああ」
翔の意思でも口は動き、言葉を紡げた。前回は考えることは出来ても声は出せなかった。
理由はわからない。しかし、きっとゆうの推測通りに進んでいるのだろう。
翔は自分から身体の操縦権を手放した。ゆうに全てを任せることにした。恐怖は感じない。ただ、閉じ込められている朔夜を救う、それだけを考える。
翔の身体をゆうは迷わずに動かす。銃を触り、安全装置を外したようだ。そして、銃の照準を合わせる。
その時だ。
パリン。
教室の中から何かひび割れるような音が聞こえた。そしてその音と同時にゆうが引き金を引いた。
パンっと音が鳴ったと同時に、透明な何かがひび割れる。それを確認すると、ゆうは翔から出た。
『空間が壊れた……?』
かなり神経を使ったのだろう。疲れ切っている様子のゆうに思わず翔は声をかけようとした。
その時、反対の扉にいたコウが扉を勢いよく開ける音がした。
「おい、無事か!?」
教室の中に入れる。そう気付いた瞬間、翔はゆうに声をかけることも忘れて、扉に手をかけた。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
続きが気になりましたら、ブックマークで応援していただけると非常に励みになります! ぜひ、よろしくお願いします!




