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第41話 千年前の――

 朔夜が教室の後方で神楽を舞い始めた時刻と同じ頃。教室の前方では酒呑童子が、朔夜の顔をした天邪鬼と対峙していた。


「何故、貴方様ほどの方が人間如きの味方をするのですか!」

「別に俺は人の味方じゃねぇ、朔夜の味方だ。それとさっきも言ったが、不愉快だ。その顔をやめろ」


 教壇に埋まっていた天邪鬼が、抜け出しながら吠える。

 しかし、酒呑童子はその様子は気にせず、抜け出そうとした天邪鬼の顔の横を足で踏み抜き、凄む。

 先程唯華に向けていた笑顔は形をひそめ、無表情で朔夜の顔をした天邪鬼を見下す。


「いいか、もう一度だけ忠告してやる。その顔をやめろ」

「なんで、こんな弱い人間に――」


 天邪鬼が姿を変える気がないとわかると酒呑童子は迷わずに朔夜の顔をした天邪鬼の顔を踏み潰した。


「おい、俺は喋れとはいってねぇぞ? 顔を潰されたくなけりゃ、すぐに姿を変えろ、簡単だろ?」

「――っ!」


 天邪鬼の周りが一瞬光る。そして次に現れたのは長髪の髪を一つに結び、昔ながらの袴を履いた少年がいた。

 

「悪趣味なことだな」


 関わったことはない。しかし、その少年は見覚えがあった。千年前に天邪鬼と相討ちになった管理人がそんな顔だった気がする。

 そして酒呑童子は一つの事実に気づいた。


「なるほど。お前は新たに生まれたわけじゃねぇ、千年前に仕損じられた奴か」

「だったらなんだ。力が戻るまで千年もかかった! だから管理人に復讐するんだ。そのためなら、いくら貴方様といえども……!!」


 天邪鬼はそう吠えながら、空間を殴った。そして、空間の割れ目から刀を取り出して、切先を酒呑童子に向けた。


「これは鬼殺しとも言われている刀だ。いくら、貴方様といえども、タダじゃ済まない!」

「ふっ、言ってることが小物だな。それよりも音が聞こえないか?」


 酒呑童子は天邪鬼から視線を逸らさずにニヤリと笑う。その耳には微かに教室後方より鈴の音が届いていた。以前、ゆうが朔夜の神楽は綺麗だと言ってたから見たかったなと残念に思う。

 しかし、朔夜と約束した。制圧するのは簡単だ。しかし、人の手で終わらせたいという朔夜の願いを酒呑童子は確かに聞き届けた。


 そこに鬼殺しの刀が出てきたのは厄介だ。しかし、天邪鬼は所詮、対人に特化しているだけの小鬼だ。酒呑童子は負ける気がしなかった。


「は? 音だと? いくら鬼の首魁とはいえ、あまりにも舐めすぎではないか!」


 天邪鬼はそう叫ぶと、酒呑童子に斬りかかろうとする。しかし

軌道が甘い。酒呑童子はヒョイっとスキップをするように避ける。


「刀で切り結ぶのがお望みってか!」


 酒呑童子はそう笑うと、横に手を振ると鬼火が刀の形を作る。そして、鬼火で出来た刀を慣れた様子で天邪鬼へと振り落とす。天邪鬼はなんとか刀で受け止めるも明らかに刀を扱い慣れていない様子が手に取るようにわかった。

 

「思ったよりも、弱いなお前」


 酒呑童子は刀に込める力をさらに強くする。そして、天邪鬼の疎かになっている足元に蹴りをお見舞いする。バランスを崩し後ろに倒れ込んだ天邪鬼の顔に肘鉄を喰らわせようとした、その時だ。


 パリンッ。


 境界が壊れる音がした。そして透明なヒビが空間に入る。


「ほぉ、終わったか」


 酒呑童子は慢心から天邪鬼から視線を外し、朔夜のいるバリケードの奥を見ようとする。その一瞬の隙をついて天邪鬼が酒呑童子から、距離を取る。


「あ?」

「まだ、復讐は終えてないからな。貴方様とは分が悪い。これで失礼させてもらう」

「はっ、逃がすかよ」


 窓から逃げようとした天邪鬼を酒呑童子が追いかけようとした瞬間、教室の扉が勢いよく開く。


「おい、無事か!?」

「あ?」


 前の扉から焦った様子で中に飛び込んできたコウに酒呑童子は呆れた声を出した。そしてその隙をついて天邪鬼は窓から逃げていった。


「お前、少し空気読めよ」

「は? ……なんで、アンタがここにいるんだ」

「そりゃ、朔夜に呼ばれたからさ。役立たずの神獣とは違ってな」


 鬼火で作った刀を消して酒呑童子は煽るようにコウを見る。そして、手を振り酒瓶を取り出して、当たり前のように酒を呑む。


「それより、あいつは?」

「朔夜ならあっちだ」


 そう言って、酒呑童子は机のバリケードを指さした。そして、そうだったというように腕を振り上げる。そして、机のバリケードを崩して、机や椅子を元の位置へと戻していった。


 コウはその様子を呆れたように見ていたが、視界が開けるとすぐに朔夜の元に走っていく。普段の仏頂面に安堵の色が差していて、酒呑童子は笑った。


「そんなに心配なら、名前を呼びゃいいのになぁ」


 そうしてまた酒を煽る。

 ブレザー姿の少年が後ろの扉から中に転がるように入ってきて、朔夜に抱きついている。その後ろには安堵した表情のゆうもいた。朔夜は迷惑そうに少年から離れようとしているが、力が強くて抜け出せないようだ。


「なんだ、現世にもちゃんと心配してくれる奴がいるじゃねぇか」


 酒呑童子は笑いながら酒を煽る。そしてゆっくりとした足取りで再会を喜ぶ人間達に近づいていった。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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