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第40話 最強の助っ人

 酒呑童子は朔夜と天邪鬼の間に現れた。朔夜は考える。今天邪鬼は自分に化けている。果たして酒呑童子は自分を認識してくれるのか? 朔夜は不安に思う。その不安を感じ取ったのか天邪鬼がニヤリと笑った。その瞬間だった。酒呑童子の不機嫌な声が教室にこだました。


「その顔で下品に笑うな、不愉快だ」


 酒呑童子はそういうと、天邪鬼に向けて手を伸ばす。その手のひらから青い炎が噴出し、天邪鬼に向かう。天邪鬼は舌打ちして、後ろに飛ぶ。人間には考えられない跳躍力に朔夜は目を見開く。


「おいおい、朔夜。まさか俺が負けると思ってんじゃねぇーだろうな」


 天邪鬼が距離を取ったのを確認して気怠そうに酒呑童子が朔夜に振り返る。どこか色気を感じさせる動作に相変わらずだなと朔夜は詰めていた息を吐く。


「よく僕がわかったね」

「はぁ? 舐めんなよ。俺はお前に呼ばれるのを夢にまで見てたんだぜ? 間違えるわけがねぇだろうが」


 天邪鬼は心外だと言うように肩をすくめる。しかし表情は緩んでおり、嬉しいのは本当のようだ。気のせいじゃなければ、以前会った時と比べて声が弾んでいるようにも聞こえた。

 酒呑童子は完全に朔夜の方を向き、天邪鬼には背中を見せている。いくらなんでも舐めすぎではないだろうかと朔夜は思った。


 その時、酒呑童子が無防備と感じたのか天邪鬼が彼に襲いかかろうとした。朔夜の姿の状態で手の爪が伸びる。そして、鉤爪のようになった手を酒呑童子の背中に突き刺そうとした。


「うざいな。楽しく話してるところを邪魔するんじゃねぇ」


 全く天邪鬼を見ずに酒呑童子は気怠げに腕を振る。その腕はしなやかに動き、まるで伸びたかのように感じさせた。そして、天邪鬼の首を絞める。


「ーーっ!」

「おい、雑魚。すぐに元の姿か他の姿になれ。その姿でいられるのは不愉快だ」


 朔夜の姿をした天邪鬼をまるで人形でも持ち上げているようだ。自分の姿形をした者が首を絞められている。朔夜は脳が息苦しいと勘違いして、息がしづらく感じた。無意識に、首を抑える。それを見た酒呑童子が、チラリと朔夜の姿をした天邪鬼を見ると、教卓に向かって投げる。


「大丈夫か? お前の首始めていないが、人間は貧弱だからな、この程度で死んだりするのか!?」


 酒呑童子が焦ったように頓珍漢なことを言い出して、朔夜は笑う。少し息がしやすくなった。新鮮な空気を肺に送り込むと、頭が冴えてくる。


「天童、天邪鬼の相手を頼んでいいか? 僕は神楽でこの教室の空間を破壊できないか試みる」

「まあ、雑魚相手ならいくらでも時間を稼げるが、俺が片付けるぞ?」


 酒呑童子はなんでもないことのように言う。朔夜は少し考えてから口を開く。視線は酒呑童子ではなく、教卓に投げ飛ばされた天邪鬼から離さない。


「……それは最終手段にしたい。未来に同じ事が起こった時に君の力を借りれるかわからないからな。どう対処できたのか、それを後世に残さないといけない」

「あー、人間は短命だからな。確かに俺も今回はお前だから来ただけで、他のやつだったら酒の肴にしていたな」


 酒呑童子はそこで右手を軽く振る。すると何も持っていなかったはずの右手に酒瓶が握られていた。そして迷わずに酒を煽る。その様子は余裕さえ感じさせ、朔夜は心強く感じ、少し気持ちに余裕が出てきた。


「スペースが欲しい。天童、机移動させて」


 朔夜は酒呑童子にそう告げる。頼られたからか酒呑童子は嬉しそうに顔を綻ばせて豪快に笑う。


「はははっ、俺を雑用で使うのはお前ぐらいだろうよ」


 そして酒瓶を持っていない左手を上にかざす。すると机や椅子が宙に浮く。全ての机達が浮いたのを確認すると左手を下におろす。そうすると机や椅子がまるでバリケードのように天邪鬼のいる教卓と朔夜達の間に設置された。

 酒呑童子は酒を呑みながら得意気に笑う。


「これでどうだ」

「上出来。ありがとう」


 朔夜は神楽を舞えるだけのスペースが出来たことを確認すると、口元を緩める。それを見ていた酒呑童子が少しだけ残念そうに眉を顰めた。


「朔夜の神楽見てみたかったが、邪魔しないようにアイツを引きつけておく必要があるだろ?」

「うん、助かる」


 朔夜が答えると酒呑童子はおうよと笑いながら、バリケードに手をかざして自分の通れる空間を一度開けて、教室の前方へと移動した。酒呑童子が移動するとすぐに机達は元の位置へともどりバリケードを作り直す。


 心強いな、朔夜はそう思いながらロケットペンダントの中にしまっていた神楽鈴を取り出す。そして、スカートの間に入れていた扇子を持つ。右手に扇子、左手に神楽鈴を持つとパンっと扇子を開く。


「管理人はこの境界(・・・・)を認めない」


 朔夜は小さくそう呟き、左手を上空にあげて鈴を鳴らす。鈴は魔除けの効果があるが、果たして天邪鬼に効くのだろうかと一瞬考えるもすぐに神楽に集中する。

 扇子は膝の辺りまでおろし、足を素早く捌く。神経を集中させた朔夜には鈴の音と自分の息遣い。扇子やその飾りが空を切る音しか聞こえない。


「空間の解除を、これは幻。本来の役目を持たぬ偽りの境界。管理人はここを境界とは見做さない」


 朔夜は鈴をまた鳴らす。そして体の上で鈴と扇子を交差させる。


「これはまやかし、本来あってはならぬもの。隠世と境界に仇なすもの」


 扇子を下におろし、また鈴を鳴らす。その音はまるで空間を清めているようにも聞こえた。


「亀裂はやがて大きくなり、崩壊へと誘う。これは平穏への第一歩であり、防衛となる」


 鈴を頭上でもう一度鳴らす。この空間には朔夜以外はいないような錯覚を覚える。そして、変化は唐突に現れた。


 パリンっと音を立てて教室の入り口の前に透明なヒビが入る。あと少しだと朔夜は願う。


「ただしき平和を乞い願う。全ては安寧のために」


 朔夜のその言葉に答えるように空間にヒビが広がり、砕け散った。

 

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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