第35話 体育館への避難
時は少し巻き戻る。鳴海は帰りのホームルームを終えて、職員室に戻っていた。自分の席に座り仕事をしようとした瞬間に視界が歪み、気づいたら自分のいる空間が真っ赤に染まっていることに気づく。周りの教師も何事だと、騒ぎ窓から外の様子を見ている。
本来校庭の向こうには森が見えるはずだが、何も見えない。まるで学校だけが切り取られたようだ。
「ーーっ」
教師達は異変から生徒の保護のために動き始める。鳴海は机の引き出しにしまっていた、霊や隠世の住人が見えるようになる眼鏡を取り出すとかける。周りを見回すが、この世ならざるものはここにはいない。
鳴海は職員室を出て走り出した。目指す先は、朔夜が神獣との密会場として使っている空き教室だ。
この状態は一体どうなっているんだ。生徒達は無事なのか。何が起こっているかが全く把握できないまま、朔夜を探す。きっとあいつが状況を1番把握しているはずだ。
ここは昔祖父に聞いた境界なのではないかと鳴海は考えた。だとしたら、朔夜の管轄だ。下手に動くよりも朔夜に指示を仰いだほうがいい。
鳴海は年下の管理人の邪魔をしない為にも全力で走る。しかし、意識は周りを気にする。隠世の住人がいつ出て来てもいいように警戒をしながら。
そして空き教室に辿り着くと、扉を勢いよく開けて、叫ぶ。
「朔夜!」
その場にまさか翔までいるとは思わずに。
♢♢♢♢
鳴海は朔夜から体育館に全員集めるように言われて、職員室へ戻る。そして、状況判断を任されていた校長に歩み寄る。
「校長!」
「どっ、どうしたんだ鳴海先生」
いきなり声をかけられて校長は驚いたように肩をびくつかせる。ハンカチで額の汗を拭いながら、焦っている校長に本人にわからないように指示を出す。
「この状況がわかりません。生徒を1箇所に集めた方がいいんじゃないでしょうか? もしよかったら、自分が校内放送入れますよ」
「あっ、ああ、それがいい! そうしよう。皆んな、生徒を体育館に誘導してくれ。職員諸君も何が起きてるかわからない以上体育館に集まって話し合おう」
校長の許可を得て、鳴海はまたすぐ職員室を出る。そして、3階にある放送室へと向かった。階段を駆け上り、扉を壊す勢いで開ける。そして鳴海はマイクの電源を入れた。
《あー、聞こえてるか。校内に残ってる全生徒及び教師へ。現在非常事態だ。全員体育館に避難しろ。怪我とかされて責任問題になるのは面倒臭いんだ。繰り返す、全生徒及び教師は体育館に避難しろ。レアキャラ校長も待ちわびてるぞー》
わざと緊張感を抜いて鳴海はマイクで話す。生徒のパニックを防ぐ為だ。すでにパニックは起きてるだろう。しかし普段通りのやる気のない自分の声を聞けば少しは冷静になれるかもしれない。鳴海はそう判断した。
放送を終えるとすぐに放送室から出る。ちょうど生徒数人が放送室の前を通る。
「おー、お前ら迷わずに体育館に行けよー」
「ナル先生、気が抜けるって。でもわかった!」
普段通りの鳴海に生徒達の表情が少し和らぐ。鳴海は表情に出さずに安堵する。緊張を表面には出さずに、生徒達と別れる。
そして3階の各教室を巡り、他に生徒がいないか確認する。3階の全ての教室の確認を終え、2階に降りる。2階もすでに人の気配はしない。
鳴海は安心して各教室を回る。その時、誰かが1階から2階に駆け上がってくる音が聞こえた。鳴海は驚き、警戒しながら階段を見る。そこには肩で息をした和也がいた。
「藤原?」
「はっ、はっ……えっ、鳴海先生? なんで眼鏡?」
和也が鳴海の元に駆け寄り息を整える。鳴海は和也の息が整うまで待った。そして、息が整って出た疑問にどうやって答えるか一瞬考える。
「ちょっと、コンタクトを落としてな……。それより体育館に向かうように放送入れただろ?」
「翔のやつがいなくて、今1階の全教室見てきたけど姿がない。多分あいつまだ帰ってないと思うし、性格から体育館に向かってないと思う」
どうやら和也は翔が心配で探し回っていたらしい。翔の性格から朔夜と行動を共にしている可能性が高いだろう。鳴海は少しの嘘を混ぜながら和也に笑いかける。
「さっき不知火と一緒にいたから体育館に行くように伝えておいたぞ」
「そうですか……なら俺も体育館に行きます」
安心したような和也の顔に鳴海の良心が少し傷む。しかし、今は和也の安全が第一だ。翔の近くには朔夜も狭霧様もいる。きっと大丈夫だと鳴海は信じることしか出来ない。
「それより1階の教室には誰いなかったんだな?」
「はい」
「それなら俺も体育館に向かう。一緒に行くぞ」
校庭は他の教師が確認しているのを放送室に向かいながらも窓から確認していた。それにコウが外は見守っているはずと朔夜の指示を思い出す。
鳴海は和也と共に翔がいないとわかっている体育館に向かった。
♢♢♢♢
コウは神獣の姿で空を飛び、怖いもの知らずの逃げない奴らを見つけては人型になり片っ端から体育館に運ぶ。そして外に人の姿が見えなくなると体育館の上に待機しているリンの元に降り立った。
「首尾はどうだ?」
「問題ありません。ちょうど人間から合図が来ました。コウもここに来たということは外に人はいないのですね?」
「あぁ」
コウの返答を聞き、リンは人型から神獣の姿へと戻る。そして、光を纏いながら体育館の周りをぐるぐると回る。徐々に透明な膜のようなものが体育館の周りを円柱上に包む。これで結界は完成した。
中の者には外の様子を見せず、外の者の侵入を拒む。
「終わりました」
リンは人型に戻りコウの隣に着地する。そして真剣な表情でコウを見る。
「私はこの場を動けません。動けば結界は綻びます。なので主様をお願いいたします」
そう言ってリンは頭を下げる。コウはその様子を見て小さいく笑うとリンの頭に手を乗せる。そして一言だけ告げた。
「任せろ」
コウはそのまま神獣の姿へと変化して朔夜の元へと向かった。校舎内、校外のどちらでもまだ天邪鬼が見つかっていないことに嫌な予感を覚えながら。少しでも早く主に合流できるように急いだ。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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