第34話 不本意な共闘
朔夜を追って教室にはいるとそこには眼鏡を外した朔夜と以前久遠のもとに行った時に会ったコウもいた。
そして朔夜だと思われる女の顔に翔は見覚えがありすぎた。
「は? チカ……? ってかあのいけすかねぇ女!?」
思わず朔夜を指さして叫んでしまった。翔の方を向いた朔夜はとても嫌そうな顔をしていた。その表情の変化は最近見慣れた朔夜の者と一緒だった。
「はっ? あの女がチカ? ……って事はお前最初っから幽霊見えてたんじゃねぇか!!」
頭の中で朔夜といけすかねぇ女がイコールで結ばれる。確かにどちらに会った時も親近感を感じていたと後々思う。
「悪いけど、今はそんなくだらない事にさいてる時間はない」
朔夜はそう言いながら、右耳につけていたイヤーカフを触っていた。不思議に思って見ていると、朔夜の隣にいたコウがため息をついた。
「テメェにしては、やらかしたなぁ」
「コウ、うるさいよ」
「主様処しますか?」
「リン、今はそんなことしている場合じゃない」
慣れた様子でこの世のものと思えない美貌の男女が朔夜と共に並んでいる事に違和感を覚える。
「くだらないってどう言う事だ!?」
『少年、本当に今かなりの緊急事態だからちょっと黙ろうか』
普段はふざけているゆうも真剣な口調で翔を止める。そこで、翔も現在の異変を思い出し、そうだったと思った。
いけすかない女の正体がわかり、混乱していた事を反省する。この異変が収まったら問い詰めると決意しながら、翔は状況を見守る事にした。
「朔夜!」
そうした瞬間に空き教室の扉が勢いよく開いた。そして見慣れない眼鏡をした鳴海が入ってきた。
「ナル先生!?」
「はっ? なんでここに稲荷が……いや、今はそれよりどうなってるんだ」
鳴海が翔を見て驚いた顔がしたが、すぐに真顔になり朔夜に問い詰める。朔夜は真剣な顔で鳴海を見ている。
「状況は悪い。妖の領域に学校ごと引き入れられた。今この場は境界の中と大差ない」
朔夜はそこで一度言葉を切り、隣に控えているリンをチラリと見る。
「鳴海、残っている全生徒と教師を体育館に集められるか?」
「この状況下だ、可能だ。校内放送は使ってもいいか?」
朔夜の発言に鳴海は頷く。翔は口を挟めず、話の成り行きを見守っていることしかできない。
「問題ない。全員集まったらリンに合図を出せ。リンは合図を見たら結界を張って現世の住人を守れ」
「……主様のそばを離れるのは心配ですが、ご命令とあらば」
少し不服そうにリンが頷く。朔夜の指示は続く。
「コウはとりあえず取りこぼしの生徒がいないかの確認をしてくれ。それが終わったら、僕に合流」
「わかった」
指示を受けた3人はそれぞれ行動を開始した。それを確認した朔夜は翔を見る。初めて見る真剣な表情に翔はドキッとした。
「お互い思うところはあるが、非常事態だ。君も体育館に避難してくれ」
「……チカはどうするんだ?」
自然と疑問が口から溢れる。朔夜は真剣な顔をしている。その瞳は翔を映しているが、違うところを見ているように感じた。いつの間にか後ろをついてきていたゆうが朔夜の隣に移動していた。
「これは僕の領分だ。境界の安寧を守るために僕は僕の仕事をするだけ」
「俺も手伝う!」
「は?」
『少年、これは遊びじゃないぞ?』
自然と手伝いたいと翔は思った。自分の平穏を守るために、それもあるが真剣な同い年の少女を1人だけで危険な目に遭わせるのは違うと本能が告げたのだ。
しかし、朔夜もゆうも理解できない事を聞いたような顔をする。
「遊びじゃないのはわかってる。でも、チカとお前だけだとできることも限られてるだろ!」
「隠世や境界の事を知らない奴が来ても足手纏いだ」
『少年、危険を伴う。一般人は関わるべきじゃない』
翔の発言に朔夜もゆうも反対する。翔も反対される理由はわかっていた。しかし、何か役に立てる事はあるかもしれない。朔夜1人に全てを任せて、自分は安全地帯にいるのは嫌だった。
「駄目と言われても俺はついて行くぞ!」
「……はぁ」
異変の中でも翔は普段と変わらない。その様子に朔夜はため息をつく。そして、翔から視線を外してゆうを見る。
「ゆう、君の判断で危険だと判断したら体を乗っ取って体育館に向かってくれ」
『まぁ、そうなるよな。この状況でバラバラに動くのはよくないしな』
どうやら朔夜達は翔がついて来ることを諦めたようだ。翔は内心ガッツポーズをする。これで朔夜を1人で行かせることはない。そう思ったことに疑問に思う。
何故、自分はここまで朔夜の事を気にするのだろうか? 考えたが理由はわからない。でもそうしないといけないと思った。
「一応、敵について憶測だけど説明する」
そんな事を考えていると朔夜が口を開いた。翔よりも小柄だが、頼もしく見える。いつの間にか喋り方が敬語から初めて会った時と同じようなぶっきらぼうなものになっていることに気づく。
気を許してもらえたようで、何故か嬉しく感じた。
「敵は、隠世の住人である天邪鬼の亜種」
「天邪鬼?」
「性質については人間と相性が悪い。意識しない方がいいからあえて伝えない」
朔夜はそこで言葉を切り、髪を首の後ろでひとつ結びにする。初めて会った時と同じ姿を見て、あの時も誰かを守るためにあんな言い方をしていたのかと気づいた。
雛乃が怯えていたものが朔夜にも見えていた。危険から逃すためにあんな言い方をしたのだと思うと、不器用だなと感じる。
「何?」
思わずまじまじと朔夜を見つめてしまい、嫌そうな顔で見られる。翔は慌てて目線を逸らす。逸らした先にいたゆうがなんとも言えない表情で2人を見ていた。
『なんつーか、お前らどっちも不器用だな。今はそれどころじゃないから何も言わないけど』
「すでに言ってるよね? 何?」
『なんでもない。それより、さや。その格好は動きづらいだろう?』
「ああ、教室に戻ってジャージでも履く。扇子も教室に置きっぱなしにしてしまったしな」
そして翔達は空き教室から自分達の教室に戻ることになった。
途中で校内放送で鳴海が非常事態のため、体育館に集まるように言っている声が聞こえて、翔は自分が普段日常を過ごしている場所で非日常に足を突っ込んでいる事を自覚した。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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