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第32話 幸せの反対は、不幸せだから?

 朔夜が目を開けると周囲はうす暗かった。驚いてゆっくりと体を起こそうとすると静止する声が聞こえた。


「さやちゃん、大丈夫? 意識を失ったって聞いて」


 暗闇の中、心配そうに知世が覗き込んでいた。声を出そうとするも朔夜はうまく声が出せない。そこで口腔内がカラカラに乾いていることに気づいた。体を起こして唾で少しでも口腔を潤わせようとすると、電気がついて知世が水の入ったコップを朔夜に差し出している。


 目と仕草でお礼を伝えて、水を飲む。乾いた口や喉が潤い、少し頭がスッキリしてくる。朔夜はそこでコウと久遠の前で倒れた事を思い出した。心配をかけたなと朔夜は水を飲み干しながら思う。コップを机の上に置くと、知世が笑いかけた。


「顔色も良くなって、安心しました」

「心配かけてごめん、もう大丈夫」


 朔夜は立ち上がる。


「起きたか」


 久遠が部屋に入ってきた。朔夜は久遠を見て頭を下げる。


「迷惑かけたね、ごめん」

「大丈夫か? コウも心配していたが、隠世に協力者を集いに行っている」

「ありがと、大丈夫」


 久遠は気にしてない様子で、朔夜に話しかけてきた。それが朔夜にとってはとても心地よかった。そろそろ家に帰らないといけないと、扉に向かおうとした朔夜を久遠が呼び止めた。


「朔夜、もしもの時のために、これを渡しておく」

「何……イヤーカフ?」


 久遠に渡されたのはピンクゴールドの小さなイヤーカフだった。不思議そうに見ている朔夜に久遠は説明する。


「これは、眼鏡と同じように認識阻害の効果がある。仮に制服姿で眼鏡を取る可能性がある時に役に立つ。ちなみにイヤーカフの裏のボタンを押したら認識阻害は解除されるから普段使いしてくれてよいぞ」


 天邪鬼の件で急遽作ってくれたのがその言葉だけでわかった。


「ありがとう」


 朔夜は受け取ると大切そうに右耳につける。その姿を見た知世が嬉しそうに笑う。


「似合ってるよ、さやちゃん。久遠様のお手製の耳飾り、お揃いだね」


 そう言って知世は自分のピアスに手を触れる。つられて朔夜も少し硬いが笑顔を作る。


「そうだね」


 この場所も守るために天邪鬼をなんとかしないといけないと朔夜は改めて決意する。


「無理はするなよ」


 優しい久遠の言葉に頷き、朔夜は家に帰った。ゆうは毎夜、翔が寝た後に報告にくる。その時にこの天邪鬼の件を共有しないといけない。

 きっとゆうは天邪鬼について知ってるはずと微かな期待を抱き、朔夜は家に帰るために蔵の扉を開けた。




♢♢♢♢




『まさかの天邪鬼かぁ』


 いつも通りの0時を少し回った頃、ゆうは朔夜の部屋を訪れて、今日わかった出来事を聞き、頭を抱えていた。

 その様子からゆうが天邪鬼の亜種について知っているのが伺えた。代々、境界の管理人に憑いているゆうが知らないはずがないのだが、その顔は幽霊を抜きにしても悪い。

 きっと、守れなかった後悔を思い出しているのだろうと朔夜はゆうが続きを語るのをベッドに腰掛けながら待った。


 しばらくして、ゆうは静かに口を開いた。


『もう千年ぐらい経つのか。時の流れは早いな』


 それは独り言のように聞こえた。朔夜は下手な事を言えない。そのまま、ゆうを見つめる。いつになく真剣な表情で語るゆうに事の重大さがありありと伝わる。


『当時の管理人はさ、さやと同い年ぐらいの少年だった。少年はさやと違って家族がいてさ、家族の幸せを境界の安寧と同様かそれ以上に祈っていた』


 そこでゆうは一度言葉を切る。朔夜は視線だけで先を促す。


『それが、偶然近くにいた天邪鬼に心を読まれた。そして、あいつの家族は皆殺しにされた』

「幸せの反対は、不幸せだから?」

『そうだ。そして、あいつは管理人の仕事を終えて家に戻ったらちょうど目撃したんだ、家族を食っている天邪鬼を。あいつは当然思った、そいつの死を』


 ゆうは視線を逸らしながら話す。朔夜はそれでこの先の結末が想像がついた。ベッドの隣に座っているゆうに固唾を飲み込みながら尋ねる。


「もしかして、それで天邪鬼が強くなった?」

『そうだ。まだ千年前は陰陽師が力を持っていた。だから協力して、徐々に弱らせた。そして最後は天邪鬼と相打ちという形で……』

「そっか」


 直接的な表現を避けたゆうの頭を朔夜は撫でた。ゆうは驚いたように朔夜を見る。

 幽霊になって誰かに触られることはなかったのだろう。朔夜も初めてゆうの頭を撫でた。髪のふさふさした感覚がわかり、少しくすぐったい。


『もー、俺がさやの保護者なのに逆みたいじゃん』

「僕は君が保護者なんて思ったことないよ」

『マジかー……』


 普段のような軽口を話すゆうに朔夜は合わせるようにして返した。嬉しそうにゆうが笑う。ゆうの過去は別れが多い。天寿を全うした管理人だけじゃなく、こうして道半ばで果てた管理人も見送ってきたのだろう。

 朔夜は少しでもゆうの気持ちが軽くなるように生き抜こうと、天邪鬼には負けないと改めて決意する。


「とりあえずそういうことだから、稲荷の事気にかけといて」

『そうだな、何も知らない少年も境界に片足突っ込んでるもんな? わかった』


 そして、少し湿った空気のまま恒例の情報交換は終わり、ゆうは翔の家に帰って行った。

 朔夜はゆうが帰るのを見送ってから、ため息を吐く。

 

 これからの行動が、隠世の未来を左右するかもしれない。朔夜は気持ちを改めた。明日から学校以外は自分もいつも以上に隠世の為に使おうと思った。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


続きが気になりましたら、ブックマークで応援していただけると非常に励みになります! ぜひ、よろしくお願いします!

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