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第30話 縁はすでに結ばれていたか

 翔は久遠の工房で、幽霊が見える仲間が増えた事に素直に喜んでいた。朔夜の目が死んでいるように見えたが、気のせいだと思う事にした。

 しばらく翔と朔夜のやり取りを見守っていた久遠が笑う。


「ミイラ取りがミイラになった感じじゃな、さや」

「……久遠」


 ある程度の事情を察したような久遠の言い方に、翔は首を傾げる。しかし、朔夜は分かったようで苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 学校では無表情だと思っていたが、朔夜は思ったよりも感情豊かのようだ。翔はそう思う。気になるのはゆうが訳知り顔で爆笑している事だ。


「クッキー持ってきました……が、皆様どうされました?」


 クッキーの入った皿を持って戻ってきた知世が不思議そうに首を傾げる。客間にいると思ってたゆうと翔が工房にいたので驚いたようだ。そして、知世は朔夜に気づくと笑いかけた。


「さやちゃんも久遠様への用事が終わりましたか? よければ一緒にクッキー食べませんか」


 邪気のない知世の笑顔に朔夜の視線は気まずそうに動く。しかし、ため息をつくと頭を掻きながら諦めたように言った。


「わかった。知世のクッキーは美味しいからもらうよ」

「ありがとうございます」


 そのやり取りから、2人は仲がいいんだなと翔は感じた。そんな翔をよそにゆうが朔夜の方に飛んでいく。そして小声で何かを話していた。しかし、翔には何を言っているのか聞こえなかった。


 その為、翔は知らなかった。今後の打ち合わせを2人がしていた事に。


「ゆう、管理人の仕事の時にあいつを近づけないようにしろ」

『了解、さや。とりあえず、俺らは顔見知り設定でいいよな? 久遠の家(ここ)であったって事にして』

「そうだね。これ以上面倒な事にならないように頼んだよ」


 という会話をしていた事を翔が知る事はなかった。

 ただ、仲良く話しているのを見て、知り合いなんだとのんびりと翔は思うだけだった。


 そして、久遠も発明がひと段落したとの事で全員で客間へと一緒に移動する。知世は追加のお茶を用意する為に一度その場を去っていった。

 部屋の中には翔、ゆう、久遠、朔夜の4人がいる。朔夜の周りからは話しかけるなオーラが出ているが、翔も他の2人も気にする様子がない。

翔の前にゆうと久遠が座っており、朔夜は少し離れた位置で壁に背中を預けて座っていた。関わりたくない意志が強固に感じられる。


「そういえば気になったのじゃが、さやと少年の制服の校章が一緒じゃが、同じ学校なのか?」


 空気を読まずに久遠が気になった事を聞いてきた。朔夜の不機嫌オーラがさらにました気がしたが、翔も気にしない。


「おう、同じ学校で、同じクラスだ」

「ほぉ、(えにし)はすでに結ばれていたのか」


 翔の言葉に久遠が納得したように頷く。それにギョッとした様子で朔夜が前のめりになり、抗議した。


「その言い方やめてくれない……ですか。ただ同じクラスなだけで縁は結ばれてない……です」

「無理に敬語で喋ろうとするから、おかしな話し方になっとるのう」


 朔夜の話し方に久遠がおかしそうに笑う。翔は朔夜のぎこちない敬語にどこか違和感を感じた。学校だと吃ることもなく敬語を話していた事と、敬語がない場合の話し方に親近感を覚えた。どこでだっけ? と考えている間にも久遠達の話は続いていた。喉元に魚の骨が刺さっているような気持ち悪さを感じながらも、翔は思い出す事ができない。


「お待たせしました。クッキーなので珈琲をお持ちしました。砂糖やミルクはお好きなだけどうぞ」


 それぞれの前にコーヒーを置き、真ん中に喫茶店であるような砂糖とミルクの入れ物が置かれる。久遠との会話を終えた朔夜がスルスルと近づいてきて、ゆうの近くの側面に座る。

 知世は少し考えてから、「失礼しますね」と翔の隣に腰をかけた。背筋を伸ばし、正座をしている姿が綺麗だと翔は思った。

 

 自分も正座をしようかと思ったが、足が痺れて立てなくなる未来しか見えなかった。諦めて胡座の姿勢のまま、砂糖とミルクを珈琲に入れてかき混ぜる。その様子を知世が微笑みながら見ており、少し照れ臭い。

 

 驚く事に、翔以外は珈琲に何も入れずに飲んでいる。子供の姿の久遠が当たり前のようにブラックコーヒーを飲んでいる様子があべこべに見えた。

 自分だけ子供のように感じながらも、クッキーに手を伸ばし、ひと口齧る。


「うめぇ」


 クッキーは程よい甘さが口腔内に広がりとても美味しかった。その事を伝えると知世は嬉しそうに笑う。


「料理とお菓子作りは何千年もやっているので、うまく作れるようになったんです。最初は消し炭を量産していました」


 その言葉に翔は驚いた。自分より年上だとは思っていたが、知世は人間だと思って疑っていなかった。しかし、彼女の話し方から彼女は人間ではないのだろう。


『そういえば、少年は知らなかったな。知世はキョンシー、死人だ。ついでに久遠も神獣で子供じゃないし、お前の何百倍も生きてるからな?』

「ーー!? それを先に言えよ!」


 そういえばというように言い出したゆうに翔は思わず怒鳴り返した。しかし、周知の事実なのか朔夜は驚いた様子がなかった。

 自分が気づいていなかっただけで、非現実はすぐに隣にあったのだという事を知った。

 朔夜に会ったことや久遠や知世の状態に驚いた翔は自分が何故久遠の家に来たのか忘れていた。そして、ある程度ギスギスした空気を出す朔夜はいたものの世間話をして、解散になった。


 自分の家に帰ってきて、夕食や風呂を済ませて寝ようとした翔はそこで思い出す。


「しまった! 久遠に道具をお願いしようとしてたんだった!」

『おー、やっと思い出したか少年。長かったな』

「気づいてたなら、言えよ!」


 悪戯っ子のような顔をしたゆうに翔は怒鳴った。しかし、もう遅い。今日尋ねては迷惑になると諦めて翔は眠りについた。

 またの機会にお願いしに行こうと翔は新たに決意した。そして夜は更けていく。


 

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、明日20時に更新予定です。


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