第28話 少しは現世で青春しろよ
数学準備室の扉を勢い任せに開けて、扉をピシャリと閉めて鍵もかける。そこまでしてから朔夜は怒鳴った。
「鳴海!!」
「おー、朔夜。やっぱり来たか」
お茶を飲みながらのんびりしている鳴海に朔夜は苛立ちを隠しもしない。
「あいつに何を話した」
「そう、心配するな。最低限のことだけだ」
鳴海は朔夜を妹を見る様な優しい目で見つめながら言う。
「信用できない。僕の事は話してないよね?」
「当たり前だろ。すでに知ってる事を補強しただけだ。まぁ、俺が神社の跡取りである事と、じーさんが霊感ある事、霊感を見る道具がある事は伝えたけどな」
「……十分余計な事、話してる」
朔夜は頭を抑えた。元々見えてはいるが、他にも霊を見える人がいると知ったらさらに翔は朔夜に証明しようと躍起になるだろう。それだけで頭が痛くなる。隠世の事だけを考えていたい、現世の些事に関わりたくない。
朔夜は大きくため息をついた。
「とりあえず、僕の事はバレてないんだね?」
「おお、ところで稲荷が幽霊の存在証明したいって言ってるのはお前か?」
「明らかに面倒そうだったから見えないふりしてる」
「……そんなことしてたのお前」
呆れた様に鳴海がため息をつき、髪をかき乱す。
「関わるのが面倒だと思ったんだ。こんな事になるとは思わなかった」
「あー、管理人としてのお前には霊の存在証明しようとして、学生のお前には何故かよく絡んでるもんな。……チカだったっけ?」
鳴海の言葉に朔夜のこめかみがピクリと動く。チカという名称に怒りで体が震えた。
「そもそもそれが意味がわからない」
「まぁ、俺が仲良くしてやってくれって言ったのも原因か。あそこまで絡むとは思わなかった、すまん」
「何、面倒事の原因作ってんの!?」
鳴海の言葉に朔夜は思わず絶叫する。まさかの原因が目の前にいるとは思わなかったからだ。はぁーと盛大に息を吐き、頭を抑える。
起こってしまった事はどうしようもできない。これからどうやってこの面倒事を収束させるかを考える方がいい。
「わかった、もう諦めたよ。それよりも霊が見える道具の話をしたって言ってたか?」
「おお、成り行きでな」
「……久遠に渡さない様に伝えないと」
必要な事だけ、聞き朔夜はため息と共に数学準備室を出た。
その後ろ姿を見て鳴海が呟いた言葉は朔夜の耳に入らなかった。
「せっかくの高校生活だ、少しは現世で青春しろよ」
♢♢♢♢
翔は人気のない道まで来ると周りを見回した。そして誰もいない事を確認するとゆうに声をかける。
「おい、前回行った久遠って奴がいる場所まではどうやっていくんだ?」
『……ん? 久遠のところに行きたいのか? なんで?』
翔の言葉にゆうが不思議そうに聞く。宙で胡座の姿勢で腕を組んでいる。
「さっき、ナル先生が幽霊を見る道具があるって言ってた! これを作れる久遠ならそういう道具作れるだろ!」
翔は自身がつけているチェーンネックレスをゆうに見せながら伝える。するとゆうは納得した様に手を打つ。
『なるほどー、確かに久遠なら作れるな! それで久遠の空間に行きたいのか』
うんうんと頷きながらゆうは翔の周りを飛び回る。そして笑いながら言う。
『久遠のところに行くなら、この近くだと公園だな!』
「公園?」
翔が不思議そうに首を傾げる。ゆうは得意げに笑うと答えを口にした。
『久遠の空間に行きたいと思いながら扉を開けるのがいく条件だ。この辺で扉があるのは公園だろ』
「なるほど、行くか!」
翔は納得すると近くの公園に向かった。そして公衆トイレの扉を久遠のところに行きたいと思いながら開けると、以前家に帰る時に入った蔵の前に立っていた。
「すげぇな、どうなってんだ?」
『空間の歪みを利用しているんだ。詳しくは難しくなるけど聞くか?』
「それは遠慮する……」
ゆうが楽しそうに話そうとしたが、翔は遠慮した。難しい事は聞いてもわからないし、頭が痛くなる。
「それより、玄関に回った方がいいのか?」
『いや、この空間に入った瞬間に久遠は来訪者がわかる。だから、普通にどこから入っても問題ないと思うぜ』
「いや、流石に1回しか会った事がない人の家でそれはやれないって」
翔はそういいながら、玄関の方にまわる。
『別に久遠は気にしねぇーぞ?』
そう言いながらも、ゆうも翔の後をついてくる気配がした。玄関に向かうとちょうど知世が中に入ろうとしていた。
『よぉ、知世』
「あっ、ゆうさんに狐君。いらっしゃいませ。久遠様は今来客中なので少しお待ちください」
知世はそう言って頭を下げる。
『へぇー、客って珍しいな。客間か?』
「いえ、工房で話しています」
『なら少年、客間で待たせてもらおう』
ゆうはそう言うと客間の方へと飛んでいく。知世は慣れている様にニコニコしていた。
翔は少し悩んでから、「お邪魔します」と声をかけて、屋敷へと足を踏み入れる。
そして、客間に適当に座っていると知世がお茶を持ってやってきた。翔とゆうの前にそれぞれ湯呑みを置く。ゆうは器用に机の前に座り、湯呑みを持ってお茶を飲んでいた。その様子に翔は驚く。
『ん? ああ、この空間の特異性と久遠の道具でここだと飲み食いできるんだ』
「そうなのか……」
幽霊が飲み食いしている違和感を覚えながら、翔も出されたお茶で喉を潤した。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
続きが気になりましたら、ブックマークで応援していただけると非常に励みになります! ぜひ、よろしくお願いします!




