第26話 もしかしてナル先生はその一族なのか?
休日に図書館で伝承を漁った翔は元気に月曜日に学校に登校する。鳴海はいつもギリギリに来るから、話を聞くのは放課後だなと思いながら自分の席に着く。
そして図書館で借りた比較的新しい郷土史の本を鞄から取り出した。古いものを借りたかったが、それらは貸出不可だったのだ。
『一昨日から精が出るな、少年』
翔の背後から顔を出しながら、ゆうは興味深そうに本を読む。自分で本に触れることができないゆうはこうして本を読む。その瞳が嬉しそうで翔は家や図書館ではゆうに読み終えたか確認してからページをめくっていた。
しかし学校ではそれが出来ない。やめておくべきだったかなと翔が思っていると背後からゆうとは違う声がかけられた。
「学校で本読むなんて珍しいな、翔」
和也はそう言って、翔に近づいてくる。翔は本を閉じて、和也を見る。ゆうが『あっ……』と悲しそうな声をあげていたが、無視をした。
「ちょっと、前の神隠し事件からこの村の伝承に興味持ってさ、調べてた」
持っていた"葦原村の郷土史"と書かれた本を和也に向ける。和也はタイトルを見て「ふーん」と興味なさそうにしている。和也は少し前の翔以上に非科学的なものを信じていないのだ。
「華奈ちゃん達にあった日からお前少し変だぞ? お前も俺と一緒でそういうの信じてなかっただろ」
ジトっとした目で和也に見られ、翔は言葉に詰まる。突然幽霊が見えるようになったんだ! と言ったらきっと頭が大丈夫か心配される。どうしたものかと考えてるとまさかの助言が上から聞こえてくる。
『この村がなんで神隠しを信じてるのか気になってとかはどうだ?』
ゆうだ。翔はナイス! と思いながら、口を開く。
「なんでこの村はこんなに神隠しを信じるようになったか気になってさ、何か理由があるんじゃないかって」
「……そうか、まぁ確かに気になるな。数十年に一度本当に神隠しが起こるのか。今回はみんな無事だったけど、それでも色々謎は残ってるしな」
「謎?」
和也の言葉に翔は首を傾げる。その様子に和也がため息をつく。そして頭を抑えながら、口を開く。
「あのな、行方不明になってた人の1人は1ヶ月以上行方がわからなかったんだ。記憶が混濁して何も覚えてないからって、どうやって生き繋いでいたか、これは不思議だろ」
「たっ、確かに……」
言われてみればと翔は思った。幽霊が見えるようになり、狭間の不思議な空間に行った。そんな非現実的なことが起こりまくっていたおかげで感覚が麻痺していた。
『それにしても、前も思ったがこいつ……』
反省していると斜め上の方からゆうの怪訝そうな声が聞こえてくる。どうしたのか気になったが、ここでそちらを見ると和也に怪しまれる。翔はなんとか衝動を堪えた。
あとでゆうに聞こうそう決意して、本を鞄に戻す。
「伝承か、確かにそこを調べたらこの村の異常な信心深さの理由がわかるかもしれないな」
和也は何かを考え込む。そのタイミングで教室の扉が開き、やる気のない様子の鳴海が入って来る。時計を確認するとそろそろチャイムが鳴る。和也もそれに気づいたようで、「じゃあな」と自分の席へと戻っていった。
最後の授業が終わり、ホームルームが終わると今だ! と翔は鳴海に郷土史の本を持って近寄った。
「ナル先生!」
「ん?」
教室から出て行こうとした鳴海は気怠そうに後ろを振り返った。そして、呼び止めたのが翔だと気付くと不思議そうに首を傾げる。
「どうした? 稲荷」
「ナル先生に聞きたいことがあってさ」
そう言うと翔は持っていた本を鳴海の前に掲げた。
「この本に狭霧神社は鳴海の一族が管理してるって書いてあったけど、もしかしてナル先生はその一族なのか?」
「……」
鳴海は驚いた顔をした後、一瞬教室の後ろの方を見た。しかしすぐに視線を翔に戻す。そして少し考えてから小さな声で翔に話しかける。
「稲荷、この後時間あるなら数学準備室に来れるか?」
普段とは違う真剣な声に翔はドキッとした。普段は気怠げでやる気がないからギャップがすごい。翔はこくりと頷く。
それを見て、「行くぞ」と鳴海は歩き出す。置いてかれないように翔は追いかける。
数学準備室の場所を翔は知らないのだ。
♢♢♢♢
(嫌な予感がするな)
その様子を一部始終見ていた朔夜の表情は暗い。鳴海と一瞬目があったのも気になる。教室を出て、人気のない空き教室に迷わずに入り、鍵をかける。そして窓を開けた。
「リン、コウいる?」
すると窓から2つの影が風のように教室の中に入ってきて人型を取る。
「どうしましたか、主様」
リンは朔夜に呼ばれたのが嬉しいのかニコニコしながら問いかける。一方のコウは表情が硬い。嫌そうな顔をしている。しかし、自分も同じ顔をしているのだろうと朔夜は思った。
「鳴海と稲荷翔が接触した。理由はわからないが」
『あっ、それは少年が鳴海の坊主に神社の関係者か聞いたからだぞ』
閉まった扉を通過してゆうが教室に入って来る。
「どういうこと?」
朔夜は眼鏡を取りゆうを瞳に映す。ゆうは少し居心地が悪そうに視線を逸らしながら白状した。
「久しぶりに本が読めると思ってな、少年に図書館の郷土史の本棚教えちゃった」
アハっと笑いながらゆうは言う。その瞬間、朔夜は絶望した顔をした。
「待て、知らなければ認知できないように久遠がしていたじゃないか。隠世や境界について書いてあるものすらあるんだぞ、僕の仕事を増やしたいのか?」
『いやぁ、誠に申し訳ありません。つい、出来心で』
「どこまで読んだ」
朔夜は表情を険しくしながら上に逃げようとしたゆうを捕まえる。そして襟首を掴むと、鋭い目で睨む。
『狭霧神社の成り立ちとか……?』
「ーーっ、てことは君の正体は」
『本名以外はバレたな!!』
「……境界の管理人については……?」
『概要は知った感じだな!』
開き直ったように言うゆうを掴む朔夜の手は怒りで震えている。なんて事をしやがった。朔夜は叫び出したい気持ちを抑えた。
「多分、鳴海は話すよ。神社の跡取りである事も先代が霊を見える事も……」
朔夜は絶望した表情で呟く。
「知られる前に処しますか?」
「リン、処せねぇんだから、いちいち聞いてんじゃねぇ」
好戦的に微笑むリンをコウが止める。その様子を見ながら朔夜はゆうに命じた。
「もうこの際、鳴海の一族とあいつの縁が繋がるのは諦める。ゆう、何があっても僕のことをバラすなよ!?」
『それはわかってるよ、さや』
それを聞き、朔夜が手を離すとゆうは手を振りながら扉に向かう。
『なら、俺はいつも通り少年の様子見てるな。また夜に報告に行くよ』
扉を通過するゆうを見送りながら朔夜は大きなため息をつき、眼鏡を掛け直した。
「そういうことだから、君達にはしばらく迷惑かけるかもしれない」
「迷惑なんてそんなの関係ありません。主様の命が私の全てです」
「まぁ、そうなるだろうな」
リンとコウの返事を聞き、朔夜は頷く。そして2人は入ってきた時と同様に窓から外に出た。朔夜は窓を閉めると、空き教室を後にした。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、明日20時に更新予定です。
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