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多くの茂った木々に囲まれた小高い丘の上に、その学校はある。
都会から少し離れた場所にひっそりと存在する田舎町。人口は少ないが、面積はそれなりに広く、小・中・高の学校がそれぞれ1つずつ存在する。
その中で、最も古い歴史のある高校は、村の中心から、かなり離れたところにひっそりと佇んでいる。校庭も無駄に広く、東西に1ヶ所ずつ体育倉庫が設置されており、それぞれ授業用と部活用に分かれている。
葦原学園高校。
村のほとんどの高校生が通っているこの高校は時刻が放課後ということもあり、運動場ではサッカーや野球、陸上などの様々な部活動が活発に活動しており、賑わっている。
そんな運動部の活気とは真逆の雰囲気を醸し出している教室が1つあった。窓際の1番後ろの授業中ではオアシスの1つになる場所で頭を抑えながら、目の前の神の束を見てため息をつく少年―――藤原和也がいた。
黒に少し茶色の混じった癖のない髪は、前は黒瞳に少しかかっている。その表情には微かに疲れが浮かび上がっている。
「さっきからため息ばっかりで、全然進んでねぇーじゃんか」
椅子の背もたれに腕を組んで顎をのせて、本来の座り方とは逆向きに座る真っ黒な癖毛を持った少年―――稲荷翔は、面白そうに机を挟んで向かいの席に座っている疲労顔の親友にからかうように言う。その言葉にぴくりと疲労顔の少年のこめかみが動いた。
「誰のせいでこんな面倒な事を俺がやるはめになってると思ってるんだ、翔!」
紙の束から目を離さずにどこか疲れたように和也は言う。そのあいだも手は忙しなく動いていて、集計用紙のようなものに正の字を書き込んでいく。
「はっ、俺のせいって言うのかよ」
「100%お前のせいだろうが!」
唇を尖らせながら不服そうに言う翔に、手に持っていたシャーペンを離し和也は机を両手でバンっと叩いた。その拍子に机上のシャーペンが床に落ち、ガシャンと音を立て、教室内に響き渡る。
しかし、和也は落ちたシャーペンを全く気にかけず怒気を含んだ言葉を紡ぐ。
「お前が、勝手に、人を、学級委員長に、推薦したから、だろーが!!」
言葉を短く切りながら怒鳴る和也に、翔は全く詫びれた様子もなく笑った。
「別に良いじゃん。お前帰宅部だろー?」
「語尾を伸ばすな!!それに帰宅部はお前もだろ!!お前がやれよ」
落ちたシャーペンを拾いつつ、和也は翔を睨みつけながら言う。
だが、翔はどこ吹く風のように言葉の半分以上を聞き流しながら和也の怒りを爆発させる一言を何気なく言い放った。
無責任で紛れもない本音を。
「無理、めんどくさい」
きっとその場に2人以外の人間がいたら"ブチッ"と和也の堪忍袋の切れる音が聞こえた事だろう。
残念ながら教室には2人しかいなく、翔は気づかなかったのだが。
「翔!!お前、俺が部活入れない理由は知ってるよな!?ふざけんじゃねーぞ!?」
「や、なっちまったもんは仕方ねーだろ。冗談のつもりだったんだけどなー。まっ、カズは真面目だしいーじゃん」
どこまでも気楽に言う翔に、和也はとうとう怒りを通り越して呆れた。
和也の家ーー藤原家はこの田舎町でも屈指の歴史のある名家だ。しかも筆頭の。
さらに和也自身が真面目な為、部活動よりも家の手伝いなどを選んでおり、彼は帰宅部とは言っても暇なわけではない。
翔のように"なんとなく、めんどくさい"などというある意味ふざけた理由ではない。
今も和也は早く家に帰りたくて仕方がないのだ……が彼の事情を知っている上で委員長という仕事に推薦した挙句、作業を見ているだけで手伝おうともしない翔にイラついて、終わるものもなかなか終わらない。
「ってか、副委員長になった、えっと……ふちか?に手伝ってくださいもらったら良かっただろ。見栄を張ろうとするから、そーなるんだろ」
プリントに書いてある"不知火"という文字を見て、悩みながらもその文字を指で指しながら言う。
実際は"不知火"は"しらぬい"と読むのだが、和也はそれを正す余裕もなく、手を動かしながら最低限の事だけを口にする。
「毎日のクラス記録の方を頼んだし、それに用事があるって言ってたから仕方ないだろ。見栄なんか張ってない」
そう答えると、それから翔の存在を無視してアンケートの集計に集中した。




