第18話 これで確実に歪みから少年も空間に入れるな!
翔はコウと名乗った目の前の神秘的な青年にいいしれない恐怖を感じていた。怒らせたら自分はただじゃ済まないそう思わせる雰囲気があった。
「……」
翔はなかなか自分の名を名乗る事ができない。何かを察したのかゆうが手のひらをぽんっと打つ。
『おっ、神獣に対してちゃんと恐怖を感じているのか! やっぱりさやが特殊なだけだな』
「あいつは管理人だ。それぐらいの度胸がなけりゃ、務まらねぇだろ」
『それもそうだな! コウもチラッとみてたかもしれないが、この少年が俺が乗っ取って霊が見えるようになった稲荷翔だ』
「……あんた、俺の名前を知っていたのか?」
ゆうがコウに自分のことを紹介するのを聞き、翔は目を見開いた。少年少年とゆうはずっと、翔を呼んでいた。名前は知らないと思っていた。
『? そりゃ、迷惑かけてるんだ。知ってるに決まってるだろ?』
何を当たり前のことを聞いてくるんだと不思議そうなゆうに翔は訳がわからなくなる。なんでこんな常識はあるのに人を不審者にしようとしたんだ? 頭の中に疑問が駆け巡る。
「おい、ゆう。あまりガキで遊ぶんじゃねぇ。それに久遠のやつを待たせている。行くぞ」
チラリと翔を確認し、コウはゆうを嗜める。それは面倒見のいい兄のような安堵感を覚えさせる。もしかして、雰囲気が怖いだけでいい人なのか? と翔は少しコウへの恐怖が軽減していくのを感じる。
「えっと、コウ……さん? ありがとうございます」
「別に礼を言われることじゃねぇ。それにコウでいい。愛称みたいなものでコウは真名じゃねぇしな」
「そうなんですか?」
「ああ。今回の契約者がめんどくさがってつけた愛称だ。それに長い付き合いになる予感がある。敬語じゃなくていい」
コウはぶっきらぼうに翔にそういうと、森に向かって歩き出す。
『さぁ、少年! 俺たちも行くぞ』
ゆうの声に動かされるようにして、翔も森へと足を踏み入れた。
♢♢♢♢
どれぐらい森を歩いただろう。もう30分も足場の悪い森の中を歩いている気が翔はした。
「あと、どれぐらいなんだ?」
「もう少しだ」
「さっきから、ずっとそれだよな!?」
疲れからかコウに対してもいつも通りに会話を返す。周りの景色が木ばかりで変わらないせいで、進んでるかどうかもわからない。
『がんばれ、少年! 若いんだからまだいけるだろ!』
宙を飛んでいるゆうの合いの手に翔は苛立つ。しかし、触る事ができないのは一度鬱陶しさから殴ろうとして把握していた。殴ろうとした瞬間に届かない位置に移動するのだ。飛んでいるだけのやつが偉そうに。翔は握った拳を震わせる。
「ガキ、止まれ」
ゆうに苛立っていた翔にコウは指示を出す。そして、周りを見まわし、近くの木のウロに近づく。そこには人1人が入れそうな大きな穴が空いている。
「今回はここか」
『おおー、今回は結構通りやすいところに歪みがあったな』
ゆうもコウの隣に飛んでいき、穴を覗き込む。そしてニカっと笑いながら翔に向き直る。
『入口を発見したから、今から久遠の空間に行くぞ』
そう言って、コウと顔を見合わせて頷きあう。翔が不思議に思っていると、ゆうが徐に翔に触った。
その途端、体の中に何かが入ってくる気持ちの悪い感覚がした。
「!?」
意識があるのに体が自分の意思で動かせない。翔は焦る。すると勝手に翔の口が開いた。
「よし、これで確実に歪みから少年も空間に入れるな!」
「説明をしてから入ってやれよ」
翔の体を乗っ取ったゆうが楽しげに笑い声をあげ、それにコウが呆れる。状況がわからない体が自由に動かせない翔は混乱した。するとコウが見つめていることに気づく。
「人の子が空間の狭間に入れるかは試した事がなくわからねぇ。だからゆうが取り憑いて安全に行くことになった。今、ゆうが体を乗っ取ってるから、体の自由が効かねぇ、わかったか?」
魂を見据えているような瞳に射抜かれ翔は震えた。少し慣れてきたが、やはりコウは生きている次元が違う。そう思わせるには十分だった。
「そういうことだ、少年! とりあえずとっとと行くか」
ゆうは当たり前のように翔の体を動かして、ウロの中には入っていく。後ろからコウが付いてくる気配を感じ、翔の意識は歪んだ。
♢♢♢♢
「ここは……?」
意識が歪んだと思ったら、先ほどまで森にいたはずが道路の真ん中にいた。すぐにゆうは翔の体から出たようで口や体が自由に動く。それに安堵しながら翔は周りを見まわした。
『ここが現世と隠世の狭間にある久遠の家のある空間だ。境界とはまた別のな』
ゆうは混乱している翔に笑いかけてくる。しかし、一切意味がわからない。すると、後ろからコウのため息が聞こえてきた。
「ゆう、説明する気がねぇならやめろ。逆に混乱させてどうする。……ガキ、もう少し先だ」
コウは、先導するように翔の前を歩き出した。すぐに翔とゆうはついていく。少し歩くと急に立派な日本家屋が見えてきた。玄関口を長身の女性が箒で掃除している。
「あれ? 黄竜様にゆうさん。久遠様にご用ですか?」
「久遠から聞いてねぇか、知世」
「久遠様からですか? 昨日から工房に篭られており、会ってないのです」
知世と呼ばれた女性は、両耳に瞳の色と同じ青い石のついたピアスを光らせながら微笑んだ。
そして翔はここが本日の目的の場所だと理解した。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、木曜日の20時に更新予定です。
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