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第19話 稲荷……狐くんですね

 知世の案内で、屋敷に入り座敷に通させる。座敷に入ると畳のイグサのいい匂いが鼻腔をくすぐる。翔は知世に促されるまま、机の前に置いてある座布団の上に座る。

 ゆうとコウは2人とも定位置があるようで、コウは入口とは反対にある壁に背中を預けるようにして座り目を閉じていた。ゆうに関しては宙をぷかぷかと浮きながら翔の斜め前の席のあたりを漂っている。


「改めて自己紹介いたします。私は久遠様の側付きのような事をしております、知世(ともよ)といいます」

「あっ、俺は稲荷翔です」


 丁寧に頭を下げられ、翔はしどろもどろしたように自分も名を名乗る。


「稲荷……狐くんですね」

「えっ?」


 知世の発言に目を見開く翔だが、気にした様子もなく彼女は「お茶を淹れてきます」と退室していった。


「なんで、狐?」

「昔から、お稲荷様と狐は神の使いとされてる。それでだろ」


 翔の問いにぶっきらぼうにコウは答える。


「いや、それはわかるけど、なんで?」

「それは知るか、知世に直接聞け」

「いやいやいや、聞ける雰囲気じゃなかったぞ!?」

『流石、知世。マイペースだなぁ』

「知世もテメェにだけは言われたくねぇだろうな」


 翔の質問にコウは吐き捨てるように言う。それに対してゆうは楽しそうに笑い、コウが呆れたようにため息をつく。この世のものではないもの達と同じ部屋にいるという事実に翔は2人に慣れてきたとは思っていたが、緊張が走る。

 そもそも考えてみると、昨日まで幽霊の存在どころか非科学的な物は信じていなかった。しかし、昨日の今日でこんなにも非科学的な事が自分の身に起きている。翔はなんだか長い夢を見ているのではないかと現実逃避したくなる。

 しかし、森を歩いた時のあの疲れが夢だとは思えない。

 落ち着く時間ができたことにより、翔はまた混乱しそうになった。すると、奥側の扉が開き、白銀の髪を持つ1人の少年が座敷に入ってきた。


「来たか」

『おー、久遠。昨日ぶりだな』


 入ってきた人物ーー久遠にコウとゆうが声をかける。翔より明らかに年下に見えるが、立ち姿には威圧感がある。どこかコウに初めて会った時と同じ神聖な空気を少年から感じる。

 彼は迷わずに翔の前まで歩いてくると、白い瞳で見つめてくる。


「ゆう、隣に並べ」


 そして後ろでぷかぷか浮いているゆうに指示を出す。


『おー。あっ、久遠の予想通り、今日は簡単に少年に取り憑けたぜ』

「そうか……まぁ、そうだろうな」


 どこか年寄りのような喋り方をする久遠に翔は混乱する。しかし、久遠はそんな翔を気にする様子もなく一つの事実を伝えた。


「ゆうの魂が、こやつの魂と綿密に絡み合っている。ゆう、こやつに触れたら多分、簡単に体を乗っ取れるじゃろうよ」

『……まじかぁー』

「は!? どう言う事だ?」


 ある程度予測していたのかゆうがあちゃーと言うように頭を抱えている。しかし混乱している翔は久遠の言葉の意味が理解できない。ただ見ただけでなんでわかるんだ? と疑問も尽きない。頭がこんがらがる。


「お前とゆうの魂に縁が出来たと言う事だ。ゆうは幽霊だが、ある陰陽師の魂のカケラであり、実際の幽霊とはそもそもが違う。だから今までは人に取り憑くこともできなかった」


 そこで久遠が一度言葉を切る。翔の混乱はピークに達した。自己紹介で幽霊と名乗った奴が陰陽師?しかも魂のカケラってなんだ?理解ができない。それでも翔の混乱を知らない様に久遠は続ける。


「しかし、そなた達がお互い同じ思いを抱いたことにより、魂のパスが繋がった。解除するのはお勧めしないがな」

「魂同士の結びつきか。無理に解除しようとしたらどちらの魂も損害を受ける可能性があるってわけか」


 久遠の説明にコウが納得した様に頷き、ゆうはなんとも言えない表情をしている。翔はなんとか理解した中で1番気になった事を聞く。


「と言うことは、俺は今後も霊を見続けるって事か?」

「簡単に言うとそうだ。隠世の住人を今後は当たり前に見える様になるだろう。望むのなら見なくする事もできるがどうする?」

「いや、とりあえずはいい。まずはあのいけすかねぇ女に幽霊の存在を証明するのが先だ!」


 翔の発言に3人は固まった。それを不思議そうに見ながら翔は続ける。


「でも見ない様にするってどう言う事だ?」

「そういう道具がある。それを使用すれば物理的に見ることは防げる。道具によっては声を遮断するのも可能だ」

「そんな道具があるのか?」

「そうだ。ここで作っている」


 久遠はそういうと、自分が入ってきた扉の奥を見る。翔もそちらを見ると、そこには工房の様になっており、様々な見たことのない道具が置いてあった。


「あんたが作ってるのか!?」

『そっ、久遠は道具作りの天才だからな!』


 何故か翔の質問に久遠より先にゆうが口を開く。


『で、久遠。それ以外で少年に何か影響はあるか?』

「霊感が目覚めたぐらいで、他は大丈夫だろう。少し隠世の住人に憑かれやすくなるだろうが、これを使えば普段と同じ生活が出来るだろう」


 そういって、久遠はシルバーのチェーンネックレスと指輪を翔に差し出す。いきなり出てきたアクセサリーに翔は目を白黒させる。


「一応、2つ作成しておいた。どちらか好きな方を身につけていれば問題ない」

「これがあんたの言っていた道具?」

「そうだ。普段使いできるもので作ったが気に入らなかったか?」

「いや、デザインは好きだけど……」


 状況が飲み込めない翔はとりあえず2つとも受け取る。そして、チェーンネックレスをつける。特に変わった様子はない。そして何も考えずに受け取ったから失くさない様にしないとなと指輪も指につける。すると指輪のサイズが勝手に調節された。


「……は?」

「取れるといけないからな。サイズ合わせ機能をつけておいた」


 昨日までの常識を悉く覆され、翔は頭を抱えたくなってきた。すると、最初に入ってきた扉が開き、知世が御膳を持って入ってきた。


「お待たせしました、お茶をお持ちしましたよ。……あれ? 久遠様出てこられたんですか?」

「知世、遅かったな」


 そして、そのまま混乱する翔を挟んで和やかに話し始めていた。

今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

次回は、月曜日の20時に更新予定です。


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