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元勇者の嫁が甘えん坊すぎて、元魔王の理性がもちません  作者: 月城琴晴


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第9話 インターホンくらいなら直せますから

 部下たちが帰り、ようやく落ち着いた。


 俺達はクレアさんに迷惑をかけたこともあり、お菓子を持って挨拶へ向かった。


「すみません、クレアさん。ご迷惑をおかけしました」


「いいのよ。困ったときはお互い様でしょう?」


 クレアさんは、いつものように笑った。


「何かあったの?」


「いえ……俺は、もうこっちでリシェと二人、ひっそり暮らそうと思ってたんです」


 少し肩をすくめる。


「弟もいますし、任せようかと」


「あ……そうだったのね」


 クレアさんが頷いた。


「でも、部下たちが戻ってきてほしいって言うので……どうしようかってところです」


「会社には、たまに顔を出すことにはなったんですけど」


 俺は苦笑した。


「色々心配で」


 少し言葉を選ぶ。


「それと……俺達、ここの人たちと仲良くなれて嬉しかったんです」


 クレアさんが少し目を丸くした。


「インターホンくらいなら直せますから」


「これからも、よろしくお願いします」


 リシェも頭を下げた。


「クレアさん、いつもありがとうございます」


「仲良くしていただいて……私達、全然常識とか分からないですし」


「困ってしまうことばかりで」


「これからもお願いします」


 そして、リシェは袋を差し出した。


「よかったらこれ……私が作ったんですが」


「それはよせ。やめろ」


「……」


「食べられないから」


「殺しちゃ駄目だ」


 リシェが固まる。


 俺はため息をついた。


「すみません。これは俺が責任をもって処理します」


「あとで俺が食べるから」


「クレアさんには渡さないでくれ」


「ヴェイ、酷いよ」


「酷くねぇよ」


 俺は真顔で言った。


「危険物だ」


 クレアさんが笑いを堪えていた。


 俺は説明する。


「リシェは料理が苦手なんです」


「でも、クレアさんのために作るってきかなかったので」


「すみません。まさか持ってくるとは」


「では、失礼します」


 扉がぱたんと閉まった。


 クレアさんは、しばらくその扉を見ていた。


 本当に仲良しなのよね。


 しかし、本当にヴェイルさんって……社長なのね。


 そのへんの新婚のお兄ちゃんだと思っていたわ。


 でも、来ていた人たち。


 本当に真面目そうで、有能そうな方ばかりだった。


 違うわね。


 あの人、思っていた人じゃない。


 ***


 本当は社長ではない。


 魔王である。


 そして、あの人たちは魔界の幹部である。


 かつて世界を破滅させようとしていた側だった。


 ただ現在は。


 癒し魔道具の社長ヴェイル。


 社員、リシェルのみ。


 実際は。


「魔道具作るか」


 リシェを膝に乗せる。


「できたね」


「ああ」


 片手で魔道具を作る。


 片手でリシェの髪を撫でる。


 イチャイチャしながら作っただけの魔道具。


 それが、すごい勢いで売れていた。


「これ最高だな」


「そう?」


「お仕事ってこんな感じで皆するのかしら」


「さあ?」


 俺は考えた。


「俺はこうやってしてるから……皆もそうなんじゃないか?」


「だよね」


「きっとそうなのよ」


 違う。


 絶対違う。


「人間界ってなかなかいいな」


「俺、やっぱりこっちで暮らすほうがいいよ」


「私も、ヴェイと二人で暮らすの好き」


「だよな」


 リシェが少し考える。


「でも、私働かなくていいの?」


「いっぱいお金入ってくるし」


「俺、イチャイチャしたいから働かなくていいよ」


「うん」


「それに一緒にいないと駄目だろ?」


「そうね」


 リシェが少し考えてから、俺を見る。


「でも……会社って皆もっと頑張るものじゃないの?」


「忙しそうだったわ」


「そうか?」


 俺は首をかしげた。


「別に魔界にいた時も、面倒くさい時はやらなかったけど」


「どうでもいいことは部下に回してたし」


「大事なことだけ俺が決めればよかったからな」


「まあ、忙しかったけど」


「こんなもんじゃねぇの?」


「趣味で暇だったから魔道具も出してただけだし」


 会議をして。


 必要なところだけ決める。


 終わったら部屋に戻る。


 あとは遊んだり、魔道具を作ったり。


 だいたいそんな感じだった。


 リシェが少し目を丸くした。


「魔王って、そんな感じなの?」


「知らん」


 俺は真顔で答えた。


「俺しかやったことないから」


「そろそろ面倒くさくなってきたから昼寝するか」


「いっぱい売ったしな」


「うん」


 平和だった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


今回は少し落ち着いた日常回でした。


部下達が来て、社長っぽい話もしていましたが、結局やっていることは近所へ挨拶に行って、インターホン直して、昼寝しているだけでした。


本人達は普通に暮らしているつもりですが、よく考えると元魔王と元勇者です。


でも、世界をどうこうするより、近所付き合いをして、お菓子を持って行って、平和に暮らしている方が本人達には向いているのかもしれません。


あと、リシェの料理は危険物認定されました。


ヴェイルは酷いように見えて、ちゃんと責任をもって食べるので優しいと思います。


……多分。


次回も、のんびり平和に進む予定です。


引き続きよろしくお願いします。

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