第8話 魔王軍より町内会の方が強かった
「ピンポーン」
誰だ?
俺たちの家に来るようなやつ、いたか?
……あ。
隣のおじさんたちか。
昨日、インターホンを直してやったから、その件かな。
「はいはーい」
扉を開ける。
そこにいたのは、部下のガルディアだった。
「……」
「詐欺は困るんで」
そう言って、扉を閉めた。
「ヴェリシス様、待ってください! ガルディアです!」
「いや、詐欺は間に合ってるから」
「俺、ヴェリシスじゃねぇよ!」
扉の向こうで揉めていた。
すると、隣のおじさんとおばさんがやってきた。
「大丈夫?」
完全に、ご近所トラブルを見る目だった。
「俺達が困ってる」
「いえ、私は部下です」
「いや、部下じゃねぇよ」
「ヴェイルさんが困ってるじゃない」
「今日のところは、やめておいたら?」
隣のおばさんが、完全に不審者を見る目で言った。
「あなた、お名前は?」
「私は隣に住んでいるクレアです」
「ガルディアです」
ガルディアは真面目に答えた。
「ヴェイルさんは本当に良い方なの」
「私達のインターホンも直してくださいましたし、街の人達にも結構人気なんです」
「だから、迷惑行為はやめてくださらないかしら」
「いえ、会社を急に辞めていかれたので、私達も少々困惑しておりまして」
「ヴェイル様がいらっしゃらないと、会社が回らないものですから」
ガルディアは即座に話を合わせていた。
さすが有能秘書だった。
「ヴェイル様、お願いです。少しだけでも、お話を聞いてください」
「ヴェイルさんも、話くらい聞いてあげたらいいんじゃないかしら」
そして。
俺は、ガルディアを家に上げることになった。
……ちっ。
「ヴェイル様、ありがとうございます」
「ガルディアさんも、いい人じゃない」
……町内会。
ガルディアの真面目そうな見た目に、完全にやられたか。
しかも、後ろの方に待機しているやつらまでいた。
完全に待機している。
ゼクスとグレインだ。
……そのうち、ロメオまで来るんじゃねぇだろうな。
すると、ゼクスとグレインがこちらへ歩いてきた。
見た目だけは、妙にエリートっぽく整えてやがる。
くそっ。
ガルディアが言った。
「ヴェイル様がお話を聞いてくださるようです」
「それはよかったです」
「皆様、ありがとうございます」
ゼクスまで、爽やかに頭を下げた。
ゼクスめ。
やわらか好青年モードに入りやがった。
「僕達、ヴェイル様をずっと探していたんです」
その時だった。
「どうしたの? ヴェイ?」
眠そうな顔で、さっきまで昼寝をしていたリシェが出てきた。
「どうなってるの? これ」
「いや、出てこなくていいから」
面倒くさいことになる。
絶対に面倒くさい。
「リシェは中に入ってて。な?」
「うん、わかったー」
その瞬間。
三人が、やっぱりという顔をした。
互いに視線を合わせる。
……魔王様は、やはり勇者を口説いたのか。
ゼクスの言葉が止まる。
リシェを見ていた。
「……急にいらっしゃらなくなりましたから。本当に心配していました」
「ヴェイルさんって、いいところの会社に勤めてたの?」
「うちの会社の社長です」
「「「え?」」」
「いや、俺そんな大したことないです」
「その辺にいる普通の人ですから」
「何も大したことはしてません」
「何をされていたんですか?」
クレアさんが興味深そうに聞いた。
「ヴェイル様は、癒し魔道具を販売されていました」
本当は違法魔道具だけどな。
今は“癒し魔道具”だ。
「さすがですね。インターホンも、すぐに直してくださいましたし」
「そういうことだったんですね」
「はい。ヴェイル様は、とても素晴らしいお方なのです」
「やめろ。盛るな」
「盛ってませんよ。本当のことです」
ゼクスが真顔で言った。
「やっぱり、すごい方だったんですね」
クレアさん達が感心したように頷く。
やめろ。
普通に暮らしにくくなるだろ。
「とりあえず……入れよ」
こいつら、完全に詐欺師の手口じゃねぇか。
今回は、元魔王の平和な住宅街ライフに、ついに魔王軍が突撃してきました。
ただし、最強だったのは町内会でした。
ガルディア達はかなり真面目に迎えに来ているのですが、ヴェイル側からすると「怪しい集団」でしかないのがひどいところです。
そして、リシェが出てきた瞬間に、
「あ、やっぱり勇者口説いてる」
となる部下達。
多分、魔界では周知の事実になりそうです。
あと、ヴェイルがリシェ仕様の魔王城改装計画を始めたので、魔界の威厳が危険です。
次回もよろしくお願いします。




