第6話 癒やし魔道具を売りたいのに、夫の発想が全部犯罪寄りです
私達は、ネットを申し込むことにした。
放っておくと、ヴェイルがすぐ魔法で何とかしようとするからだ。
「それ駄目!」
「ここ、魔界じゃないんだから!」
「え? そうなの?」
常識が足りなかった。
「これくらい簡単だろ?」
ヴェイルは、さらっと魔道具を作ってしまう。
しかも早い。
でも。
「いや、それ違法魔道具だからね!?」
「え? そうなの?」
「やめてー!」
盗聴器とか普通に駄目だから。
ヴェイルは少し考え込んだ。
「あー……売れるかなとは思ったんだけど」
「駄目だったのか。知らなかった」
嫌な予感がした。
「……もしかして、あなた」
「裏でそういうの売って、お金稼いでなかったよね?」
「いや、魔王ですし」
何の答えにもなっていない。
「趣味でちょろっと、小遣い稼ぎしてた」
「小遣い稼ぎしなくても、あなたお金持ちだったよね?」
「まあ、そうだけど」
ヴェイルは悪びれもせず言った。
「ちょっとくらい自由にしたいじゃん」
「だからって、違法魔道具ばっかり作らないで!」
「こういうのを作るの!」
私は通販サイトを見せる。
「……は?」
「こんなのが売れるの?」
ヴェイルが真顔になった。
「――盲点」
「こんなのが売れるのか……」
何か変な方向に感動しないでほしい。
「謎の狂った魔道具ばっかり作るのやめて」
「家に置いておくのも嫌だから」
「わかりました」
ヴェイルは素直に頷いた。
「ヴェイ、あなた魔王に汚染されてるわ」
「魔王ですから」
そこは否定しなかった。
「……もしかして」
「あなたが作ってたサイトとか、あるわけ?」
「これだけど?」
ヴェイルが普通の顔で画面を見せてきた。
「うわぁ……」
めちゃくちゃ、いかがわしかった。
黒い背景。
紫色に光る文字。
怪しい紋章。
どう見ても合法サイトには見えない。
しかも。
「やたら売れてる……」
「人気だったぞ?」
「人気じゃないの! そういう問題じゃないの!」
並んでいるのも、やばい魔道具ばかりだった。
遠距離盗聴。
透明化。
鍵開け。
呪い防止と言いながら、ほぼ呪いの魔道具。
「さすが魔王……」
「魔界の王様なだけあって、発想が全部違法寄りなんだけど」
「いや、魔界では普通だったし」
「怖いこと言わないで」
しかもレビュー評価が高い。
『性能が素晴らしい』
『王都の警備でも見破れませんでした』
『逃走成功しました』
「レビューも終わってる!」
「高評価だな」
「感心しないで!」
「元勇者が、違法サイトの主と結婚したなんて……ありえないわ」
私は頭を抱えた。
しかも、ヴェイルは反省していない。
「私がサイトのデザインは決めるから」
「黒バックとか紫バックとかで良くない?」
「駄目に決まってるでしょ!」
何で悪の組織みたいな配色にしたがるのよ。
「そんなの、勇者が許さないわ」
「もっと爽やかな感じにして!」
「爽やか……?」
ヴェイルが難しい顔をした。
「名前だって、“アークライト”になったのに」
「呪いの道具とかやめてー!」
「もう少し平和そうな物を売るの!」
「まったく……何考えてるのかしら」
すると、ヴェイルがじっとこちらを見る。
「お前こそ、何かそういうの売ってないの?」
「私ができると思って?」
「いや」
ヴェイルは即答した。
「どんくさそうだから……無理だな」
「当たり前でしょ!」
「できるわけないわ!」
何で少し納得してしまったのか。
悔しい。
「癒やしの魔道具とかにしてよ」
「癒やし!?」
ヴェイルが衝撃を受けた顔をした。
「そんなもの売れるのか?」
「それより、透明化とかの方が楽しくないか?」
「覗けるしさ」
「やめて」
「覗かないでくれる?」
ヴェイルは首を傾げる。
「でも便利だぞ?」
「便利の方向がおかしいの!」
私は呆れながら言った。
「それに……私、覗かれても困るし」
「……」
「……」
ヴェイルの動きが止まった。
「私も、あなたも覗かれるのよ?」
「駄目だ」
真顔だった。
「絶対に駄目だ」
「俺が許さない」
「急に常識側に来たわね」
「いや、それは普通に嫌だろ」
さっきまで売ろうとしてた人の発言とは思えない。
ヴェイルは腕を組んで考え込む。
「……つまり」
「他人を覗くのはいいけど、俺達が覗かれるのは駄目ってことか?」
「違うわよ!」
「全部駄目なの!」
「最低なのよ、その発想!」
「難しい世界だな……」
「難しくないから!」
私はため息をついた。
「もう、素敵な魔道具にしよう?」
「もっと平和で、安心できるやつ」
「ふむ……」
ヴェイルは少し考えてから言った。
「勝手にパンが温まる魔道具とか?」
「いい!」
「それ!」
「初めて勇者っぽい方向に来た!」
「勝手に調理してくれるやつとかか」
「そういう気楽なやつな」
「そうよ。それ!」
「あなた、得意なんでしょ?」
「そんなの、ちょろいが?」
ヴェイルが得意げに笑う。
「俺を誰だと思ってるんだ?」
「元魔王のヴェイル様だけど」
「ヴェイなら、何でもできると思う」
「まあな」
即答だった。
でも実際、できてしまうから困る。
「それに、手先も器用だし」
「格好いいし」
「……」
ヴェイルがぴたりと止まった。
「仕方ねぇな」
「俺が作ってやるよ」
機嫌がいい。
ものすごくいい。
さっきまで違法魔道具を量産しかけていた人とは思えないくらい素直だった。
……ヴェイ。
ちょろかった。
今回は、ヴェイルの「元魔王らしさ」がかなり出た回でした。
本人に悪気がないのが、一番困るタイプです。
魔界では普通だったと言われると、リシェも強く言い切れない部分があるのですが、それでも現代で盗聴器や透明化は駄目です。
でも、最後はちゃんと「便利で平和な魔道具」を作る方向へ行きそうなので、たぶん大丈夫……だと思います。
褒められると機嫌が良くなるヴェイルは、思った以上に扱いやすいのかもしれません。
読んでくださってありがとうございました!




