表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理(ことわり)を焼く爆炎師~五元素の加護なき男、物理法則を武器にして魔導帝国へ復讐する~  作者: いわん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/30

第24話:殲滅詠唱

 城への侵入経路を確認した直後に、空が変わった。

 昼間だった。雲がなかった。青い空だった。

 その青さが失われた。

 白くなった。

 光だった。点光源ではない。空全体が発光していた。帝都の上空全体が、均一な白い光に満たされていた。

「何だ」ゲンツが言った。

 カールは空を見た。

 光の質が分かった。魔術の光だった。しかし規模が違った。これまで見てきた魔術の炎や雷とは、次元が違う規模だった。帝都全体を覆うような魔術を発動できる人間が、帝国に何人いるか。

「エレンだ」カールは言った。

 スーケリーが空を見た。「あの光は」

「殲滅魔法だ。帝都全域を対象にした燃焼魔術だろう。風属性の加護が増幅器になって、炎属性の魔力を帝都全体に展開している」

「帝都全体が燃えるのか」

「燃やすつもり、かな」とカールは言った。「皇帝が命令し、エレンを使って、帝都ごと焼き払う。俺たちごと。民衆ごと」

 三人は止まった。

 カールは手にしている装置を見た。酸素濃度制御装置の小型版だった。中央広場で使った装置より効果時間も短く、効果範囲は広場規模ではなかった。しかし原理は同じものだった。

「起動する」カールは言った。

「範囲が足りない」ゲンツが言った。「帝都全域の魔術に、この装置が対抗できるか」

「完全に止めることはできない。だが、俺たちの周囲だけでも直撃は避けられるだろう。それと」

「それと」スーケリーの問い。

「エレンの詠唱に干渉できるかもしれない。あの規模の魔術は、起動してから完成まで時間がかかる。完成する前に燃焼条件を不安定にさせれば、詠唱が崩れる可能性がある」

「可能性か」

「それしかない」

 カールは小型装置を起動した。


 空の白い光が揺らいだ。

 揺らぎは小さかった。しかし確実に揺らいだ。光の均一さが崩れた。一部が明るく、一部が暗くなった。燃焼条件が不安定になっている証拠だった。

 魔術師たちが混乱した。詠唱を補助していた魔術師たちが、自分の魔術が不安定になっていることに気づいた。

 しかし光は消えなかった。

 完全に止まらなかった。エレンの加護の規模が大きすぎた。装置の効果は、やはり空間全体に及ばなかった。部分的に崩れているが、他の部分では詠唱が続いていた。

「完全封印にはならない」ゲンツが言った。

「分かっている。だが、完成も遅れている。今のうちに動く」

 その言葉に応じるように、三人は城に向かって走った。


 城の北側の入り口に向かう途中で、視界が開けた。

 広場に繋がる道だった。

 エレンが見えた。

 広場の中央に立っていた。白いローブが光に照らされていた。両手を広げていた。空に向かって。詠唱が続いていた。声は聞こえなかった。しかし口が動いていた。

 カールは足を止めた。

 一秒だけ止まった。

 エレンの瞳が見えた。距離があった。しかし見えた。

 いつもと違った。

 光のない瞳ではなかった。焦点のない瞳でもなかった。何かが揺れていた。制御装置が干渉を受けて、エレンの意識に隙間が生まれていた。その隙間の中で、エレンが今自分が何をしているかを認識し始めていた。

 認識して、戸惑っていた。

 両手を広げたまま、動けない状態で。詠唱を止めようとして、止められない状態で。装置が制御し続けているから、体は動き続ける。しかし意識は戻りかけている。その状態で、自分が帝都全体を焼こうとしていることを理解し始めていた。

 カールはその瞳を見た。

 頭の中で何かが動いた。

 エレンを助けに行く、という考えだった。今、装置への干渉が起きている。意識が戻りかけている。今なら何かできるかもしれない。装置を外すことはできないが、詠唱を物理的に止めることはできるかもしれない。エレンの体に近づいて、動きを止めれば、詠唱が中断するかもしれない。

 一秒の間に、その考えが来た。

 そしてカールは、その考えを捨てた。

 今エレンに近づけば、護衛の魔術師が動く。制圧されれば皇帝に辿り着けない。皇帝が生きている限り、次の命令が来る。エレンを一時的に止めても、皇帝が別の命令を出せば、また始まる。

 根を断つ必要がある。

 根は皇帝だ。

 カールは前を向いた。

 走り始めた。

 スーケリーが隣に来た。何も言わなかった。カールが止まったことも、動き始めたことも、見ていた。しかし何も言わなかった。

 ゲンツも走っていた。

 三人は城に向かって走った。


 空の光が揺れ続けていた。

 完成しかけて、崩れかけて、また完成に向かう。そのサイクルが続いていた。装置の干渉と、エレンの加護の力が拮抗していた。

 帝都の民衆は外に出られなかった。建物の中に留まっていた。空が白く光り、揺れていた。何が起きているか分からなかった。しかし外に出れば危険だということは分かった。


 城内では、皇帝が報告を受けていた。

「聖女の魔法が不安定です。完成しかけて崩れています」

 皇帝は立ち上がった。

「なぜだ」

「爆炎師が酸素制御装置を使用しているようです。燃焼条件を崩している可能性が」

「持ち運んでいるのなら、小型の装置のはずだ。帝都全域の魔術を止められるはずがない」

「完全には止まっていません。しかし詠唱が不安定になっています」

 皇帝は窓から空を見た。白い光が揺れていた。

「爆炎師はどこにいる」

「城に向かっているようです。北側から」

 皇帝の目が動いた。

「聖女の魔法が封じられた」とは言わなかった。封じられてはいない。しかし機能していない。「爆炎師を直接始末する」と言った。「城の内部に入れるな。北側の全ての経路を塞げ。魔術師を集中させろ」

「燃焼系の魔術師は」

「酸素制御の影響が及ばない経路を通れ。装置の効果範囲の外から攻めれば問題ない」

「はい」

 側近が走った。

 皇帝は窓から視線を外した。

 空の白い光が、また揺れた。

 エレンの加護が揺らいでいた。制御装置が不安定だった。魔導核もエレンの加護に依存していた。エレンが完全に制御を失えば、魔導核も不安定になる。

 しかし今はまだ保っている。

 保っている間に、爆炎師を止める。それだけだった。

 皇帝は机に向かった。

 次の命令を書いた。

 書きながら思った。爆炎師が城に入ることを止められなかった場合、最後の手段がある。魔導核を不完全な状態で起動する。エレンの加護が不安定でも、起動すれば何かが起きる。制御できない暴走になるかもしれない。しかしそれでも、爆炎師を止められれば。

 皇帝はその考えを持ちながら、命令書を書き続けた。

 空の光が揺れ続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ