第20話:魔導核
発表は昼の水晶板放映で行われた。
帝都全土の主要な広場に設置された水晶板が、同時に光った。神官庁の紋章ではなかった。皇帝の紋章だった。皇帝自身が直接、民衆に向けて話すのは異例だった。
カールたちは農家の中で水晶板の映像を確認できなかったが、ゲンツが情報網から内容を取り寄せた。
「皇帝が発表した」とゲンツは言った。「兵器の公開だ」
「何を」
「魔導核、と呼ばれている。魔術と化学を融合した兵器だという。魔力を触媒として使い、物質の崩壊を加速させる装置だとされている。帝都の外縁部で実験を行い、小さな丘一つを消滅させたという映像が放映された」
カールは黙って聞いた。
「皇帝の言葉も伝わっている」とゲンツは続けた。「『科学は我らの道具に過ぎぬ。加護なき者どもが広めようとした知識は、帝国がすでに支配している。爆炎師よ、お前が持つものを、帝国はより大きく、より強く、より完全な形で持っている』と言ったそうだ」
スーケリーが言った。「示威だ。飛行艇が落とされ、奇跡の証拠が広まった。民衆の動揺を抑えるために、別の圧倒的な力を見せた」
「そうだ」とカールは言った。「しかし」
「しかし」
「その兵器を作るために、誰かの知識が使われた。誰かが研究した。誰かが設計した。その人間がどうなったかは分からないが、帝国は知識だけを取り上げて使った。研究者を不要と言いながら、研究の成果は使う。それがこれまでと変わらない」
「もう一つ情報がある」とゲンツは言った。声が少し低くなった。
カールとスーケリーがゲンツを見た。
「魔導核の製造に、聖女の加護が使われたという」
部屋が静かになった。
「エレンの加護か」とカールは言った。
「そう伝わっている。魔導核の安定化に、特定の風属性の加護が必要だったらしい。聖女の加護がなければ制御できない兵器だという説明だったようだ」
カールは壁を見た。
エレンが頭に装置を埋め込まれている。意識を管理されている。人格を必要とせず、外見と加護だけを使われている。その加護が、世界を脅すための兵器に使われた。
「エレンが知っているかどうかは分からない」とゲンツが言った。「制御装置があれば、本人には何も分からない状態で使われる可能性がある」
スーケリーが言った。「知らないまま、兵器の一部にされている」
誰も何も言わなかった。
カールは窓の外を見た。農地が広がっていた。風が葦を揺らしていた。
「皇帝に会いに行く」とカールは言った。
翌日、接触があった。
伝令が来た。帝国情報部の人間ではなかった。皇帝の側近が直接送った伝令だった。
「皇帝陛下が爆炎師と直接話したいと仰せです。場所と時間を指定します。単独で来るなら、安全を保証する」
ゲンツが伝令を確認した後、三人で話し合った。
「罠だ」とスーケリーが言った。
「罠の可能性は高い」とカールは言った。「しかし行く」
「なぜ」
「皇帝が直接話したいと言っている。これまで皇帝は命令を出すだけで、直接動かなかった。それが動いた。何かを確認したい、あるいは伝えたいことがある」
「確認してどうする」
「皇帝がどういう人間か、直接見たい。最後の相手だ。顔を見ておく必要がある」
ゲンツが言った。「単独ではなく、三人で行く。安全の保証がないなら、俺たちなりの安全を用意する」
「俺が指定の場所に入る。お前たちは外で待機しろ。問題が起きれば動け」
「問題が起きた時点で遅い場合がある」
「分かっている。それでも行く」
指定された場所は帝都外縁部の廃神殿だった。
かつて使われていた神殿で、新しい大神殿が建設されてからは放棄されていた。石造りの建物が残っていたが、内部は空だった。
カールは単独で入った。
内部は暗かった。しかし奥に灯りがあった。
進んだ。
奥の広間に出た。
皇帝がいた。
護衛が二人いたが、距離を置いていた。皇帝自身は椅子に座っていた。椅子は簡素だった。帝国の玉座とは全く違った。
皇帝は五十代だった。白髪交じりの黒髪、整った顔立ち。威圧感はあったが、それは体格からではなく、目から来ていた。計算している目だった。何かを常に評価している目だった。
「来たか」と皇帝は言った。
「来た」とカールは答えた。
「単独だと聞いたが」
「外に二人いる」
皇帝は少し笑った。「正直だな」
「嘘をつく理由がない」
「座れ」
「立っている」
皇帝は続けた。「魔導核の発表を聞いたか」
「聞いた」
「どう思った」
カールは答えた。「道具を作った人間を処刑台に送った。その道具で世界を脅している。笑えない話だ」
皇帝の目が動いた。「笑えないとは思わない。それが帝国だ。有用なものは使う。不要なものは排除する。それが秩序だ」
「有用なものを作った人間も排除した」
「人間と知識は別物だ。知識だけあれば十分だ。人間は制御が難しい。知識は制御できる」
カールは皇帝を見た。
「エレンも同じか」とカールは言った。
皇帝は表情を変えなかった。「聖女のことを言っているのか」
「加護だけが必要で、人間は不要だと思っているか」
「聖女は帝国の象徴だ。象徴には外見と力が必要だ。人格は必要ない。人格があれば、制御が複雑になる」
「あいつは俺の幼馴染だ」
「知っている」皇帝は言った。「だから会いに来たのか。復讐ではなく、救出のために」
「どちらもだ」
「どちらも叶わない」皇帝は立ち上がった。「魔導核は聖女の加護がなければ制御できない。聖女を解放すれば、魔導核が暴走する。帝都が消える。民衆が死ぬ。お前はそれを望むか」
カールは黙った。
「望まないだろう」皇帝は続けた。「お前は帝国の秩序に反対しているが、民衆を殺したいわけではない。だから聖女には手を出せない」
「今はな」カールは言った。
「今は、か」皇帝は繰り返した。
「では、いつなら手を出せると思っている」
「魔導核を無効化すれば」
「無効化できるか」
「分からない。しかし方法を考える。それだけのことだ」
皇帝は少しの間、カールを見た。
「帰れ」と皇帝は言った。「今日は話したかっただけだ」
「俺を捕縛しないのか」
「お前は今日、私を見に来た。私も今日、お前を見るために待っていた。それだけだ。次に会う時は違う状況になる」
カールは踵を返した。
廃神殿を出た。
外でゲンツとスーケリーが待っていた。
「どうだった」とゲンツが聞いた。
カールは少しの間黙った。
「皇帝だ」と言った。「全部が繋がっている。グレッグの処刑も、村が燃えたことも、エレンの装置も、魔導核も、全部皇帝一人の思想から来ている。個人が組み立てた帝国だ」
「確信したか」
カールは黙って頷いた。
スーケリーが言った。「私も同じだ。神官長もドレスも判事も、全員皇帝の命令で動いていた。根を断てば全部終わる」
ゲンツが言った。「そういうことだな。わかりやすい構造だ」
三人は廃神殿から離れた。
夜風が吹いていた。
カールは歩きながら、皇帝の目を思い出した。計算している目だった。評価している目だった。しかしその目の奥に、何か別のものがあった気がした。
何だったか、言葉にできなかった。
「エレンの件は」とスーケリーが歩きながら言った。「魔導核を無効化しなければ動けない」
「そうだ」カールは答えた。
「方法があるか」
「考える」カールは言った。「今夜から考える」
三人は農家への道を歩いた。
帝都の灯りが遠くに見えた。




