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第九十九話

「本当につまらないね」


 モルドレルドは細剣を振り回し、剣先を地面に差した。中央の高台に登り、見下ろす。


 数人いたプレイヤーは、残り一人になっていた。


「複数人でリンチしようとしたくせに、僕に傷一つつけられない」


 どころか、オレンジに堕とすことさえできない。


「なのに、一丁前に僕に挑んできて……身を弁えたらどう?」

「……お前こそ、俺たちをなんだと思ってるんだ?」

「駒。使い道のない駒。それ以上でもそれ以下でもない」


 男の目はギラついていた。呼吸も荒く、肩が震えている。

 腹の底から怒ってるのが伺える。


「俺たちを、オレンジプレイヤーにした張本人が何を言ってる!」

「知らないよそんなの。君たちが勝手に良かれと思ってなった。甘い蜜が吸えると思って、使われた。だったら僕に楯突く筋合いはないけど?」

「黙れ! 一回お前をぶちのめさないと、気がすまない!」


 彼が深く踏み込んでくる。そのことに、モルドレルドは眉一つ動かさない。代わりに深い溜め息をつく。


「僕は言ったよね? やり直したいなら、善行積んでカルマ値を戻すほうが良いって」

「うるせぇ! 俺らが味わった屈辱を思い知れ!」

「はは、それこそ他責だね。自分のことしか考えてないから、他人に利用されるんじゃないの?」


 彼は剣を振り上げた。

 その光景を冷ややかな目で見つめ、モルドレルドは柄を握り直す。


 彼の利き手を斬り飛ばす。そのまま切り返して、腹部へと突き刺した。

 相手の体力がゴリゴリ削れていくのがわかる。


「お……まえ」


 男の瞳が揺れる。こちらを見つめる彼は、怒りに溢れていた。

 震える左手でモルドレルドの右手首を握ってくる。


「人の命を……なんだと思ってるんだ?」

「知らないよ。そっちから襲ってきたのに、今度は良心に訴えてくるの? 正直、君のしてること相当ズレてるよ?」


 モルドレルドは言い切り、剣を引き抜いた。そのまま軸足で回転するように剣を振る。

 的確に首を捉えて、頭を飛ばす。


 彼の体は膝を折り、そのままその場に倒れる。そこはちょうど中央の高台の部分だった。


 直後、大きな振動が起こる。唐突なことなのでモルドレルドは思わず体勢を崩しそうになる。

 何が起きたのかわからず、周囲を見回した。


 ボス部屋に続く通路のすぐ横の壁が、ゆっくりと開いていく。そのことに、やっとモルドレルドは理解する。


 あの中央の高台は台座だ。それも生贄を注ぐタイプの。


 彼は小さく吹き出した。

 やがて笑いは大爆笑に変わり、腹を抱える。


「そりゃ気づかないよ」


 現れた隠し通路を目に、モルドレルドは笑みを浮かべたままゆっくりと開いた隠し通路へと向かう。


「デスゲームで人を殺すこと前提の隠し扉を作るなんて、このゲームの製作者は相当頭が狂っているね」


 さすがこのゲームを設計するだけある。

 もしかしたらモルドレルドと話が合うかもしれない。だからといって、仲良くしたいとは思わないけど。


 隠し通路に入っていくと、違和感を覚える。その違和感がどこからやってくるのかすぐに理解する。


 今まで遺跡の光源は松明だった。しかし、今は薄いランプで照らされている。石の壁のすき間にも、何か機械らしき紫色の光が走る。


「古代文明の名残りか……まだ生きてるな」


 導かれるまま先に進むと、一つの巨大な扉が現れた。見上げるほどのそれは、無機質な印象を与えてくる。


 ゆっくりと手を触れると、扉は地響きを鳴らして開き始める。


『第五の柱が残したワープポータルが現れました』


 そのウィンドウが表示された瞬間、モルドレルドの瞳が輝く。やはり間違っていなかったと。

 ストーリーラインへの入り口は、別にも存在していたのだ。


 中に踏み込むと、そこにあったのは何やら機械式のもの。しかし、指が触れたところで動く気配は見えない。

 

『空の主、エンシェント・ドラゴン──レヴィアタンはとても腹が減っていて怒っています』


 再び現れるウィンドウ。読んでいると、続けざまに表示される。


『彼女を満足させてください。そうすれば、空の領域に連れて行ってくれるでしょう』

「満足? 一体どうやってすればいいのかな?」


 質問したところで答えてくれるわけがない。バカなことをしたと、鼻で笑う。

 取り敢えず、頬を指で叩きながら考える。


「このウィンドウはまだ全体通知で知らされていない。つまり、今は僕だけが知っているものだ」


 要するに、一番最初にその空の領域とやらに足を踏み入れられる可能性がある。

 当然、この秘密を漏らすような馬鹿な真似はしない。


「問題は、その条件の当てはめ方だけど……」


 この通路の見つけ方からして、とてもどす黒いものを感じる。しかし、モルドレルドはそれでこそだと満足気に笑う。

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