第九十八話
仲間とのチャットを終えると、ウィンドウを閉じる。
モルドレルドはゆっくりと息をつきながら、見回した。
このダンジョンで倒した魔物が倒れている。ほかのダンジョンと違って、ここの敵は少し特殊だったりする。『汚染された古代の残骸』と書かれている、ゴーレムのような敵である。
汚染されたは第七の柱の影響を受けた魔物だということは、最近のプレイヤーたちの間ではもう当たり前に伝わっている。
モルドレルドが注目したのは、古代の残骸といったところだ。
別にゴーレムの敵はRPGの魔物としては珍しくない。しかし、その敵をわざわざ言い換えたのはなぜなのか。
ダンジョンの形は遺跡の残骸をただ突き進んでいくだけ。
時たま矢やギロチンなどの罠が発動するといったよくあるものだ。
マップを確認しながら、進んでいく。
他にも壁や地面を触ってみるが、特に変哲もない。
「古代のものでもあると思ったけど……」
例えばユニークアイテムはこういったダンジョンで拾える。それは、もうすでに掘り尽くされているだろう。
この遺跡にも、かつてはそういったアイテムを求めて日夜プレイヤーが潜り込んでいたのだから。
「……やはり、僕の勘は外れたか?」
だからこそ、隅々まで探し尽くされている可能性のほうが高い。
隠し通路などあれば、もうすでに見つかっている。
「何かフラグがないと開かないのか、それとも本当にストーリーラインは一つしかないのか」
呟きながら歩いていると、空気が張り詰めたのを感じた。
モルドレルドの口の端が一気に吊り上がる。一歩下がると、彼が立っていたところに槍が突き刺さった。
槍の柄は、勢いを示すように小刻みに揺れている。
「……ちっ!」
「避けるなモルドレルド!」
遠くからプレイヤーが数人やってくるのが見えた。その表情には、どこか怒りが混ざっている。
「これはこれは、どこのどなたたちかな?」
「ふざけやがって! 人を散々利用したあげく見捨てたくせに、知らないとは言わせないぞ!」
「……はて? 思い当たるやつが多すぎて覚えてないな」
モルドレルドの馬鹿にするような発言に、プレイヤーたちは武器を構えて追いかけてくる。
モルドレルドの顔は笑顔を貼り付けたままだったが、心の中で「つまらないね」と独りごちた。
彼は振り返ると、ダンジョンの奥に走り出す。
「やろう、逃げる気か!?」
「待ちやがれ!」
背中にぶつかる怒号を無視する。肩越しに振り返りながら、舌を軽く出した。
「鬼ごっこだ。せめて、楽しくやろうよ」
「楽しくだと!? ふざけんな!」
ダンジョンのトラップを避けながら、駆け抜ける。一つ一つを素早く躱し、モルドレルドの体力が削れることはない。比べて、後ろから追いかけてくる人間たちは微かなうめき声が聞こえてくる。
「はは! そんなもんかい?」
「調子に乗るな!」
さらに奥へと進むと、広場に出た。覚えている限り、ボス部屋一つ前の部屋だ。
このダンジョンの中で一番大きいのに、魔物が一体も出てこない場所である。
多くの人間がここを捜索して、結局は何もなかった。出された結論は、ボス部屋前の休憩室だった。
広場の真ん中には、お立ち台のように盛り上がった台座がある。
「もう逃さねぇからな」
背後からはしつこいことにプレイヤーたちが迫ってきていた。
さすがにこのままボス部屋へ一緒に入ってしまうと、出入り口を閉じられてこいつらと一緒に過ごすことになってしまう。それは嫌だなと、細剣を取り出した。
「光栄に思いなよ? わざわざ僕が相手してあげるんだ」
挑発するような声に、彼らは青筋を浮かべる。
追いかけてきているプレイヤーは、全員オレンジプレイヤーだった。もしかしたらいつの日かモルドレルドが使い潰したうちの数人かもしれない。
まったくもって逆恨みも良いところだ。自分は有意義に駒として使ってやっただけだというのに。
その過程でオレンジプレイヤーになろうとも、モルドレルドを恨むのは筋違いである。それに、オレンジプレイヤーだとしても救済処置としてカルマ値を戻すクエストが存在する。
例えば教会の奉仕活動。あれ一つこなせば善ポイントを少し上げられる。時間はかかるが、それで元通りになれるのだ。
逆恨みでモルドレルドを狙うより、そっちの方がよっぽど有意義だろう。
「俺たちは、お前をぶっ殺さないと気がすまないんだよ!」
「ぶっ殺したとしても、追撃はできないだろ? 僕が復活するのは町の中、君たちオレンジプレイヤーには追いかけてこれないところだよ」
「うるせぇ! 覚悟しやがれ!」
「……まったく短絡的だね」
首を振りながら、いくつか撃ってきた矢をモルドレルドは撃ち落とした。




