第九十七話
モルドレルドは一人でダンジョンを攻略していた。と言っても、すでに何回かクリアされているところなので道中は楽勝だ。
皆が雪マップに夢中になっているためか、人の出入りはとても少ない。
『猫宮圭:第一段階完了なのです』
個チャが飛んできて、彼は目を通す。
「これから、僕らのチームはヘイトの中心になるだろうね。君の思い通りかい?」
『猫宮圭:思い通りなのです。少なくとも、責任は私たちだけではなくなるから』
猫宮が誘発させた復活偽装を動機にしたMPK勧誘事件。それに乗ったプレイヤーは、攻略チームに限定して狙った。いくらこっちが悪いとしても、のったものへの不信感は募る。そして不信感は不信感を呼ぶ。
チームという枠組みは成立しなくなってくるかもしれない。
少なくとも、一つは崩壊寸前までいきそうなくらい内部分裂が起こり始めているらしい。
『ラインスロット:いいねぇ。俺好みの混沌でギスギスな世界になってきたヨ』
『猫宮圭:そんなことより、私の友達のカイザーをぶっ殺したのはあなたなのです? あんな長距離狙撃ができる人間はお前しか知らないのです』
『ラインスロット:はは! ちょっとちょっかいをかけたくなってネ』
チャット同士で喧嘩を始めたが、モルドレルドは気にすることなくただ眺めている。
『猫宮圭:お陰様で、カイザーをこのゲームから退場させるハメになったのです』
『ラインスロット:あのあとぶっ殺したのカイ?』
『猫宮圭:もう、不要だから。放っておいたら、逆に面倒くさいことになっていたのです』
カイザーとは彼女は現実でも友達だったらしい。
だからこそ、彼女はプリンという同一友達の死を利用し、カイザーをヒカルの確保に向かわせた。
しかし、聞いている限りその企みは失敗したようだ。
──まぁ、あの甘ちゃんが見抜いたわけじゃないだろうけどね。
報告を聞く限り、アキというプレイヤーが同行していたらしい。彼女は情報を扱ってるだけあって、基本的に自分が認めた相手しか信用しない。
今回の件も、彼女がカイザーのことを見抜いたのだろう。
『ラインスロット:で、モルドレルドはなにしてんダ? せっかく、これから面白くなるってところなんだゾ?』
「僕は別のストーリーラインがないか探してる。こんな大規模なデスゲームなんだ、本編に入る入り口は一つだけじゃないだろ?」
『ラインスロット:はぁ!? これは、デスゲームなんだゼ!? 人が醜く争うところを楽しまないと損ダロ?』
「その思想には一部同意するけどね、僕は殺しも醜い争いもゲームも楽しんでこそのデスゲームだと思ってるよ。こんな世界に閉じ込められるなんて中々できない体験だからね」
彼の返答に、信じられねぇというチャットが返ってきた。
顎に手を当てながら、モルドレルドは含み笑いをする。
『猫宮圭:つまり、今回は見物すらしないのです?』
「そうだね。いつまでも、ヒカルにストーリーを独り占めされてたら面白くないからさ。かといって、彼を殺すのは容易なことじゃないだろ?」
ヒカルの周りには、アキやロッドウィグがついている。圏外まで攫って三回殺すことは容易ではない。
そして、ヒカル自体をオレンジプレイヤーに堕とすことも骨が折れる。
そんなことに時間を費やすなら、他のことに時間を使ったほうが有意義である。
それにヒカルは一度叩きのめしている。次会ったときは、彼も心中穏やかではないだろう。
だからこそ、モルドレルドは彼よりもさらに上から押し潰す。そのためには、自分自身もこの世界を本格的に理解しとく必要があるだろう。
ゲームを楽しむ。ヒカルはそう言った。
モルドレルドもゲームは楽しむためにあると思っている。だからこそ、今まではデスゲームを楽しむためにその下地を作ってきた。
しかし、ヒカルは唐突に現れて物語を見つけ出した。誰もがデスゲームだけだと思って物語などないと考えていたこのゲームでだ。
最初の一人になれなかったことにモルドレルドは嫉妬したのかもしれない。だからこそ、彼にここまで執着するのかもしれない。
結局ゲーマーは、誰よりも強くありたいと思う生き物だからだ。
「しばらくは任せるので。好き勝手やっていいよ」
『ラインスロット:本当だナ!? 二言はないからナ!』
『猫宮圭:少なくとも、モルドレルドが舵を取ってくれないと収拾がつかなくなるのです。ユウェイルやラインスロットの手綱を握るだけでも精一杯なのに、他の連中まで放っておかれるのは無理なのですよ』
「猫宮、別に僕は纏めろとは言ってないよ?」
その言葉に、彼女からの返答はなかった。




