第百話
翌日の昼時になると、『ツンドリア』の町からプレイヤーの数が減少した。ヒカルは、その様子を見ながら少し尻尾を揺らす。
アキのチーム『ブック・リスター』によって今回の騒動の真相が書かれたからだ。
すべて、モルドレルド率いるチーム、『ホーリー・ラウンド・ナイツ』によって仕掛けられたこと。
さすが情報専門だけあって、アキのチームが発行したニュースはまたたく間に広がった。そのおかげで、表向きは収束したように見える。
しかし、裏ではもう修復できない緊張状態となってしまった。
昨日の友だった人間が、目先の利益のために裏切る。そのことを知ったプレイヤーたちは疑心暗鬼に囚われるだろう。
特に被害が大きかったのは『結社・ウィッチャー』という攻略チームだという。あそこは他より結束が固かった分、一度瓦解すれば立ち直ることができなかったようだ。
他にも、分断したチームがちらほらいると聞く。
「許せないです」
隣りにいたサクラが、杖を固く握りしめながら言った。彼女の瞳は、怒りで少し揺らいでいた。
「死んだ人にもう一度会いたいっていう想いを踏みにじって、こんなことするなんて……許せないです」
「許せないから、どうしたいんだ?」
「それは……」
ヒカルの問いかけに考えるように瞳を閉じる。やがてゆっくりと目を開けてから、顔を俯かせた。
「私にできることはないです」
落ち込むような声は、ひどくか細かった。
ヒカルは尻尾を垂らしながら、彼女の顔を見ずに口を開く。
「俺にもできることはないよ」
「……え?」
「俺も弱いからさ。突っ走ったところで、あのモルドレルドたちには勝てない」
どころか、ユウェイルにも次会ったとき勝てるかわからない。あのときはたまたま状況が良かっただけなのだから。
大通りの柵に体重をかけながら眺めていると、ミサキが猫宮を連れてきた。
軽く手をあげると、ミサキは手をあげ返す。彼女にしては少し元気がない。
「それで、カイザーの痕跡は見つかったのか?」
親友である猫宮を連れて、ロッドウィグやルーフェルとともに周囲を探ってみたという。
「遠くからオレンジプレイヤーの復活ポイントを見てみたけど何もなかったっす」
「フレンドリストからは……もう消えたんだよな」
ヒカルの問いかけに猫宮は静かに頷いた。
「カイザーまで……本当に馬鹿なのです」
彼女は天使の羽が項垂れ、下唇を噛んでいた。
「一体、あいつらはなんなんすか?」
「さぁ、ロッドウィグ曰く、モルドレルドは最初からPKを推奨するようなことを公言してたらしいが」
「それがまかり通ると思ってるんすか!」
「普通のゲームならまかり通るだろうな」
プレイヤーを殺すことは、多くのオンラインゲームで容認されてきた遊び方だ。しかし、このゲームは人の命がかかっている。
「そんなの……そんなの信じられないっすよ」
ミサキもサクラも実に真っ直ぐな人間だと思う。そんな人間のほうが感情に苦しむのは、本当にゲームとして成り立っているのだろうか。
少なくとも、このデスゲームを仕掛けた人間はそれを是としているのだろう。
「……あのチームのメンバーは分かっているですか?」
サクラの質問に、ヒカルは首を横に振った。
「アキから聞いたけど、そもそもチームと名乗ってるだけで正式に組んでるわけではないらしい。分かってるのはモルドレルドとユウェイルを含めた数人くらいで何人いるかも不明……だそうだ」
その言葉に反応したのは猫宮だった。彼女は拳を固く握ってこちらを見つめてくる。天使の羽は興奮で忙しなく動いている。
「だとしたら、私が全員見つけてやるのです」
「気持ちは分かるけど、それでカイザーの二の舞になったらダメだろ」
「そうっすよ……。猫宮まで死んだら、カイザーとプリンが浮かばれないっすよ」
「でも……」
言いかけて、猫宮は曖昧な笑顔を見せた。
「分かったのです」
彼女はそのまま端っこへと寄って壁にもたれかかった。
少しすると、ロッドウィグとルーフェルが戻ってくる。
「おかえり」
静かに言うと、ロッドウィグは眼鏡をクイッと押し上げる。
「急な話ですが、僕はチームの本拠地に戻ることになりました」
「本当に急だな」
「今回の騒動で、オレンジプレイヤーになったものと離反者が我がチームでも多く出ました。態勢を立て直すため、チームの長から招集がかかったんですよ」
彼の言葉を聞いてヒカルは納得する。
「その代わりルーフェルをつけますので、彼をお守りとしてください」
「よろしくだぜぃ」
彼の挨拶に、ヒカルは「よろしく」と短く返す。
「あと引き続きアキもついてくるそうです。少し待っててやということですので……あれでも、ヒカルのことを気に入ってるようですので」
「……嬉しいような嫌なようなだな」
「まぁ気持ちは分かります」
ロッドウィグは眼鏡を掛け直してから、頭を下げる。
「この度は申し訳ありませんでした。カイザーのことを含めて……」
別にロッドウィグが謝る必要はない。しかし、素直に受け取ることにした。




