第百一話
「やーったるぜぃ!」
ルーフェルの元気な声が響く。
あれからアキとベルとルシを交えて、またベルの故郷の村に戻ることになった。十万ルーンをドワリンドに返すためだ。それに彼から提示されたクエストも気になっていたからだ。
前にルーフェルが受けた村を復興するという未完のクエストもベルの村が対象だったという。大規模編成を組んだが、サファイアウルフの猛攻で撤退せざるを得なかったらしい。
「もっと大勢を組むかと思いましたが、まさか“称号前提”だとは思いませんでしたね。というより、一種の解といったほうが良いでしょうか?」
ロッドウィグが眼鏡をかけ直しながら『ツンドリア』の入口に立つ。その横に猫宮が立っていた。
「それでは、僕たちの見送りはここまでにさせてもらいます」
ロッドウィグは丁寧に頭を下げる。猫宮もその彼についていくことになったため、ここで別れることになる。
彼女は天使の羽を動かしながら、ロッドウィグに続いて深々と頭を下げていた。
二人の見送りを見ながら、ヒカルたちは歩き始める。
「その、冒険者しか持っていないインベントリって奴は本当に便利じゃのう」
ルシは軽口を言いながら、背中に飛び乗り肩越しにウィンドウを覗き込む。
「うちには何も見えないんじゃがの?」
ヒカルが操作しているウィンドウを覗き込みむが、彼女は小さく唸っていた。目を凝らし、大きくもたれかかってくる。
体重をかけられたヒカルは、俯きながら小さなうめきを漏らす。尻尾は苛立つように揺れた。
ベルの村を復興させるために必要な資材はみんなで分けて所持品に収納している。このクエストが完了すると、誰でも安全にベルの村へと行き来できるようになる。さらにNPCも住み着くようになり、安全圏にも変えられるということだ。
謝礼はないが、村での施設利用料が少なくなるためお得なクエストとなっている。何より、復活ポイントをただで利用できるのはありがたい。
ヒカルとサクラの持つ称号のおかげで、サファイアウルフは襲ってこない。自分たちにとって、受け得しかないクエストだ。
本来、こういった世界観拡張クエストは、大勢で挑むものだ。しかし、今回はあの騒動のあとということで新ためて受ける人はいなかったという。
「しっかし、本当に襲ってこないなぁ」
ルーフェルが斧を担ぎながら、森の中を見渡した。時たま狼が姿を現すが、ヒカルとサクラの姿を見るとそのまま穏やかに吠えてから奥に帰っていく。
「前なんて、大勢の人間で挑んで物量に押されちまったぜぃ! ガッハッハ、元攻略チームの名が廃るなぁ」
「そんなんしょうがないやろ? 攻略中にMPK騒動が起きて、実際は連携もガタガタやったんやから。サファイアウルフはどうも、ほぼ無尽蔵に沸いてきてたらしいしな」
ルーフェルとアキの言葉に、ヒカルの背中から飛び降りたルシが続く。
「ここの狼どもは漏れ出たフェンリアルの魔力に充てられて凶暴化しておったからな」
「そのフェンリアルってどんなやつなんや?」
「かっかっ! 少なくとも、お前らなんて一撃で葬り去るレベルの神獣じゃ」
その言葉に、アキとルーフェルがゴクリと喉を鳴らしていた。
「だ、大丈夫です。フェンリアルさんは、優しい狼さんなのです」
フォローするように口を挟んだのは、サクラである。
「サクラ知ってるっすか?」
「はい、ヒカルと一緒に助けたです」
「え、えぇ!? そんな、いつの間に!?」
驚愕の声を上げたのは、ミサキであった。
彼女は頭を抱えて、天を仰ぐ。
「うぅ……いつの間にかサクラが遠い人になったっすよ」
「そ、そんなことないです。私なんてまだまだダメダメで……実際ヒカルに迷惑ばかりかけていましたです」
そんな会話を聞きながら、面白そうな表情を浮かべながらアキが隣にやってきた。彼女はヒカルの脇腹をつついて、猫耳と尻尾を短く揺らす。
「だってよ。実際のところどうなん?」
「……何が言いたい?」
「あんたにぶちんやなぁ! こういうときは、フォローするのが筋ってもんやろ? それでも女か?」
彼女の言葉に、ヒカルは小さく息を漏らしてから尻尾を揺らす。
「悪いが、俺は男だ」
その言葉に、ルーフェルとアキが固まった。お互いに顔を見合わせて、大きな声を上げる。
唐突のことで、思わずヒカルは耳をふさぐ。
「なんだよ?」
「いや、いやいや。冗談やろ?」
「この世界のゲームは、現実と同じ性別しか選べなかったはずだぜぃ」
その言葉に、ヒカルの思考が止まる。そしてジワジワとその異様性が脳に浸透していく。




