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第九十五話

「嫌だなぁ、今は夜でもあるしロッドウィグさんは忙しいんだよ。だから代わりに俺たちが来たんだよ」


 カイザーが話している間に、彼の仲間はゆっくりと動く。

 皆きっちりと『クロス・オーソード』の紋章をつけているのを確認する。正規のチームメンバーということは間違いない。


「まぁ、その可能性は大いにあるわな」


 アキの言葉に、カイザーは安堵しながら肩をすくめる。


「そうだよ。だから、俺が代わりに遣わされたんだよ」

「だけど──!」


 彼の言葉を遮るように、アキは大きな声を出した。

 顎に指を当て、探るように猫の尻尾を動かしている。


「それなら、真正面から助ければいい話じゃないんか? 相手はオレンジプレイヤーや、遠慮することはない」

「それはほら、様子を見てたんだよ。余計な戦力を割きたくなかったから」

「まだ疑問はあるで? うちらはあそこに飛ばされて捕まってたんや。なんで、うちらの場所が分かったん?」


 アキの言葉に、困ったようにカイザーは笑顔を見せるだけだった。


「そんなに何を疑ってんだ? 俺は普通に『クロス・オーソード』のメンバーになったんだぞ? そんな風に裏切るようなことするわけないだろ?」

「それ、プリンが生き返ると聞いても同じこと言える?」


 ヒカルの言葉に、彼はたじろぐように足を後ろに下げた。

 瞳が揺れ、息を呑み、顔を合わせなくなる。肩が震え、呼吸が浅くなっている。


「右に、左に……後ろにも回りおったな。完全に逃さない人員の配置しておるが」


 円状に囲まれたことにルシが面白そうに笑みを作り、続ける。


「助けに来るだけなら、うちらを囲む必要はないはずじゃな」


 同時に、一人が剣を抜いた。ヒカルは反射的にその攻撃を避ける。しかし、少しかすったのか体力バーが削れた。

 緑色のアイコンだったプレイヤーは、一気にオレンジ色へと変わる。


「……やっぱりか」


 遅れて、ヒカルは『魂魄の剱』を抜いた。


 二撃目を入れてくるプレイヤーに対して、剣を返した。金属音が鳴り響き、火花が散る。


 アキは本当に残念そうに大きく肩を落とした。


「何の取引をされたんや?」

「……プリンが、プリンが生き返ったんだよ。俺の目の前に現れてくれたんだ……。お前たちを逃さないなら、もっと会わせてくれるって約束してくれたんだ……」


 カイザーはゆっくりと剣を抜いた。続いて残る『クロス・オーソード』のプレイヤーも剣を抜く。

 さすがに囲まれている状態ではいつものように見ているだけはできないと悟ったのか、アキは両刃の剣を取り出した。


「本当に残念や。そんな眉唾に惑わされるなんてな」

「眉唾じゃない! しっかりと見たんだ! ここにいるやつらもみんな、亡くなった人を見たって言ってる」

「それが本当だとしても、PKに手を貸す気が知れんわ!」


 アキの言葉を遮るように、カイザーが剣を振る。彼の剣を弾き返すしてから、肩に深く突き刺す。そのまま後方から狙ってくる相手へと振り返り、新たに出したナイフを投げつけた。


 だてに攻略チームの情報屋を名乗っているだけある。彼女の強さは未知数だったが、ヒカルはここで初めて頼もしさを感じた。


「二人とも頑張るんじゃ!」


 ルシは相も変わらず戦う気はないのか、相手の攻撃をギリギリ躱している。


 ルシの行動に大きく息を吐きながら、ヒカルは振り下ろして来る剣を受け止める。


 ヒビが入るような音が、相手の剣から聞こえてくる。どうやら『魂魄の剱』のスリップダメージは、剣の耐久力にも適用されるらしい。


 再び身を翻し、もう一度打ち合った。


 金属が割れる音が鳴る。相手の折れた剣は、遠くへと飛んでいき突き刺さる。

 眼前の相手は自身の剣が折れたことに、驚いた様子だ。


 ヒカルはそのまま彼の腹を蹴り飛ばす。体勢が崩れたのを合図に、左脇腹から右肩にかけて斬り上げた。

 赤いポリゴン片が、剣傷に沿って飛び散った。


「……くっ! 体力が削れていく!」

「今のうちに逃げたほうがいいぞ? そのスリップダメージは解除されないから」


 その言葉を聞いて、彼はフラフラと尻もちをついた。戦意喪失したのを確認すると、ヒカルはルシを狙っていたプレイヤーへと目標を変える。

 ルシの体の隙間を縫うようにして、剣を突いた。カウンター気味値攻撃を食らい、相手は腹部に剣が刺さる。


 二人目の戦意喪失を確認すると、アキの方へと視線を向ける。

 彼女は二人を相手取って勝っていた。カイザーは喉元に突きつけられ、身動きが取れなくなっている。


 彼女は不服そうに耳と尻尾を動かすと、武器をしまう。


「ほんま、アホやろ。自分の立場を棒に振りよって」


 その言葉には、どこか哀れむような感情がにじんでいた。

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