第九十三話
ヒカルはウィンドウを出してフレンドリストを見る。個チャを飛ばそうと試みた。
しかし、連絡を取ることはできない旨のメッセージが出てくる。
「チャットは無理か」
「相手が妨害してるやろうな」
「そんなことできるんだな」
「そりゃ、チーム毎に秘密にしたいことあるやろ。そんなん飛ばせるようにできたら、世の中スパイだらけやで」
やはりデスゲームだとしても、ゲームだと考えるものは多い。相手より優位に取りたいからこそ、チーム間で秘密にすることは大いにある。
脱出を優先するならば、そもそもチームを分ける理由がないからだ。
「でもまぁ、本来個チャでやり取りできんようにするシステムを、こんな風に悪用されるのはうちとしても腹立つけどな」
アキは大きなため息をつきながら、頬杖をついていた。彼女は貧乏ゆすりをしながら不満気にしている。
ヒカルは取り敢えず破れないかとドアを蹴り飛ばしてみる。しかし、びくともしなかった。
『うるせーぞ! 大人しくしてろ!』
そこで初めて外から人の声がする。
ヒカルはドアに耳を押しあてて、何か聞こえないか探ってみる。
『たくよぉ、なんで俺たちがこんな奴らの見張りなんてしないといけないんだ』
『仕方ないだろ。殺したら復活しちまうんだ、殺すわけにもいかねぇ』
『はぁ、殺せたら楽なのによぉ。こんな、魔物が近くにいるところにいつまでもいたくないぞ』
魔物が近くにいるということは、ここは安全圏内ではないということ。つまるところ、相手がオレンジプレイヤーなら、攻撃も許されるそういうことだ。
だからといって真正面から出るのは愚策といえる。こっちは圧倒的に戦力が少ない状態なのだから。
耳元をドアから離して、ヒカルは息をついた。
「なんかわかったんか?」
アキの問いに、肩をすくめる。
「正攻法じゃ出れないだろうな」
「そんなんわかってんねん……。まぁ、しばらく連絡取れんかったらうちのチームが動くとは思うけど」
「じゃあ、しばらく待ってみるか?」
その質問に彼女は頭を振る。
「いやや、うちはできる限り仲間に借りを作る主義ちゃうねん」
「わがままやな」
「わがままでも何でも、借りを作るっていうのは相手に弱みを見せるってことや。情報屋として、これほど沽券にかかわることはないで」
「もし俺のおかげでここから出れたら、俺に借りを作るってことになるけど?」
アキは目を見開き、考えるように口元に手を当てた。そして、意地の悪そうな笑みを浮かべる。
「そうやな、ここから出れたらしっかり借りを作るってことになるな」
その表情は、無理だろと言っているような気がする。
「ま、うちの沽券のために頼んだで。外にいるやつらも、放っておいたら町がどうなるか分かったもんやないしな。うちも、なんか考えるからさ」
そう言いながらアキは立ち上がり、物色を始める。
ヒカルは期待されていないことに大きくため息をつきながら、視線をルシのほうに移した。彼女は暇そうに木箱に腰掛けながら足をブラブラとさせている。
「ルシは手伝う気は?」
「ないに決まっておろう」
その答えに、心の中でわかっていたと返した。
部屋の中を調べると、本当に物置として使われているのか、空箱が多くある。中にはロープなどの道具があったが、使えそうにない。
壁に沿ってどこかひび割れていないかとも確認する。しかし、そんな定番の穴はどこにもなかった。
外の景色を見れるのは、少し高い位置にある窓替わりの穴だけ。しかしそれも、しっかりと鉄格子がはめられている。鉄格子を抜くことができれば一人ずつ出ることができそうだが……。
ヒカルは木箱を並び替えてそれに乗り、鉄格子を握った。冷たい感触が、手のひらに帰ってくる。
力を込めて引いたり押したりするがビ取れる気配はない。
「さすがにそこは無理やろ?」
下から見上げてくるアキが、呆れ顔で言ってくる。
「まぁ、数人くらいの力じゃ外れそうにないな」
「……やっぱり、待つしかないんか? その間に殺し合いが始まってしまうかもしれんのに」
「……いや、数人くらいの力なら外れないってことは、大勢で力合わせれば外れそうではあるってことだ」
その言葉遊びじみたヒカルの声に、アキは眉根を寄せた。
「そりゃそうやけど、その大勢はどこにおるん? まさか敵に頼むわけやないよな?」
「そんなわけないだろ」
ヒカルは答えながら、木箱から降りる。手ごろな石を拾って、また木箱へと登った。
圏外。
つまり魔物が普通に湧く場所。だったら勝算はあるかもしれない。
ヒカルは外を見ながら、あるものを探す。




