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第九十話

「ほ、本当に命の保証はしてくれるんだな?」

「しつこいなぁ。ちゃんと保証したる言うてるやん」


 アキの一言に男は渋るような表情を見せた。それでも、ゆっくりと口を開き始める。


「このゲームに閉じ込められた初期のこと、かなりのプレイヤーが死んだ騒動があっただろ?」


 尋ねられ、ヒカルは首をひねる。それもそのはず、ヒカルは初期からここにいたわけではない。この世界で唯一途中参加のプレイヤーだ。

 そしてルシもどこか分からなさそうな表情を作っている。


 唯一アキは、思い出すように遠い目をしていた。


「アキ、その初期の騒動ってなんじゃ?」


 NPCであるルシからしたら、プレイヤーの出来事がわからない。そのことをアキも悟ったのか、簡潔に説明してくれた。

 ヒカルは心の中でルシにナイスと称賛を送る。


 アキ曰く、初期には二段階の混乱があった。

 まず第一に、これは普通のゲームだと思っていた時期。多くの人がライフ制はゲームの何かだと思ってあまり気にしなかった。そうなれば無茶する人間も現れる。

 つまりそのことによって、死んで帰ってこなくなったプレイヤーが多く現れた。


 第二に、混乱期。

 ようやく自体を飲み込み、この世界から出れないことに気づいたということだ。

 死んだら出れるという迷信まで生まれ、その時にも死んだプレイヤーが多く現れた。そして何より、混乱による殺し合いも発生した。


 開始から二週間位は本当に地獄だったらしい。ヒカルがこの世界にやってきた一ヶ月後は、丁度収まり攻略チームもいくつかに別れ始めた時期というわけだ。


 ちなみに、ヒカルが知っている中で、現実世界に帰ってきたというプレイヤーはいない。


「その時に、大切な人間が死んでる奴は多くいる。恋人、友人、家族。一緒にゲームをやってた奴を亡くしてる」

「つまり、あんたもその一人やと?」

「俺の場合は、恋人。あいつのために、せめてこのゲームをクリアしようと思ってたんだ」


 彼の力のこもった発言に、アキはノートを取りながら小さくため息をついた。


「それが、仲間をMPKすることと何が関係あるんや?」

「言うとおりにしたら蘇らしてくれるって約束してくれたんだよ」


 その言葉に、アキはあんぐりと口を開けた。ルシは面白そうに笑っている。


「死んだ人を蘇らせる? かっかっ、そんなこと七柱でさえできんことぞ?」

「……そんな馬鹿な話を信じたのか?」

「実際にできたんだ! 俺のほかに亡くした人間を蘇らしてくれたやつがいる! そりゃ、ずっとはいれなかったけど少し話を振るくらいはできたんだ!」


 アキは側頭部をかきながら、にわかには信じられんなと呟いた。


「俺は、俺は謝りたいんだ。あいつに、あいつを置き去りにしたことを! ライフが一個だったのに、無理やり連れ回したことを! 一言だけでも!」


 彼が俯きながら泣く姿を見て、アキは困ったようにため息をついた。

 彼女はこちらを見つめてくる。


「ヒカルならどう見る?」

「俺は嘘だと思うな」


 チラリと泣いている男を見ながら、続ける。


「そもそも、少しでも生き返れるとしたらデスゲームの根底が崩れる」

「その少しだけっていうのが肝かもしれんぞ? 戦わせる動機にはなるやろ」


 現に彼は凶行に走ったわけだ。そうやって動機をつけられたプレイヤーは少しずつ他のプレイヤーを巻き込もうとしている。

 自分の願いを叶えるために。


「うーむ、やっぱり信じられんことじゃな」


 ルシは腕を組みながら、唸っていた。


「第一の柱バエルでさえそんなことはなし得たということは聞かん」


 彼女の言葉は説得力がある。

 今のところ運営にほど近い存在ができないことを、一介のプレイヤーができるだろうか。できたとしたら、そのプレイヤーは確実にゲーム運営とつながっている可能性がある。


 もしかしたらこの案件はモルドレルドどころの話ではないのではないか。


「それで、その話はどこで聞けるのか分かってるんか?」


 アキが男へと話を戻した。


「この『ツンドリア』の裏通り。そこらで勧誘している。ただ、会えるかどうかは運だ。俺もたまたま勧誘されただけだから」

「勧誘ね……相手は選んでる可能性が強いってわけやな」


 アキはノートを閉じながら立ち上がる。


「あの出てった男たちが関係あるなら、この話をしたことが伝わってそうやな。早めに覗いてみるのが吉か……」

「……え? 俺の命を保証してくれるって」

「知らん。お前がしでかしたことを自分で反省せえや」


 アキはこちらに顔を合わせると、振り返ってさっさと出入り口に向かってしまった。ヒカルは項垂れる彼を見つめてから、仕方ないかと無視して立ち上がる。

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