第八十九話
「じゃあ、話してもらうで」
ギルド役場の一角で、アキは向かいに座る男に顔を向ける。彼女の手には、メモ用のノートが握られている。
男は落ち着かなさそうに周りを見てる。
「……こんなところで話すのか? 他の奴らに聞かれたら……」
「そんなん関係あらへん。あんたに選べる権利があると思ってるんか?」
「そ、そんな俺が話したってバレたら……!」
「もうすでにうちと座ってる時点で終わりや。このままあることないこと書かれるのと、真実を語るのどっちがええんや?」
アキは下がることなく、言葉を乱立した。
前にヒカルは彼女のチームが使っている秘密の場所へと連れて行ってもらったことがある。そのときは、彼女が持つユニークアイテムで転移してもらった記憶があった。
しかし、どうやらアキはこの男に転移アイテムを使う気はないようだ。彼を信用できないというのもあるだろうが、わざと危険に晒して不安を煽らせようとしているのだろう。
ヒカルはアキの肩に手を伸ばしてから耳元に口を寄せる。
「もしこれでこの男が死んだらどうするんだ?」
「そんなん知らん。元々こいつがMPK紛いなことをするほうが悪い」
彼女の言葉を聞きながら、男の方へと視線を向けた。彼は落ち着きなさげに視線を揺らしている。時たま周りを気にするように周囲を気にしている。
「明らかに動揺しているようじゃな」
ルシは面白そうに、彼のことをじーっと見つめていた。彼女と目が合うと耐えられないとでもいうように視線を下げる。
「仲間を見捨てたとしても、命には変わりないだろ? 警察だって、もっと秘密を厳守する」
「そんなん甘いから、モルドレルドにやられたんやろ?」
その名前を出されて、ヒカルは明らかに不服そうに唇を尖らせた。尻尾は不満を現すように左右に揺れている。
「第一にうちは警察やない。第二にここは法律が届かない。第三に他のプレイヤーを守るためにこいつの命を保証するつもりはない」
その彼女の言葉に言い返そうとしてやめた。長引かせること自体、愚策だと気がついたからだ。
ヒカルは納得できない表情を作ったまま、元の席に腰掛ける。
アキはノートを閉じて、男をゆっくりと見据えた。
「話さないなら、このまま別れてもええで? 他にも宛はあるしな。でも少なくとも、その裏にいる奴らは、お前を殺しに来るやろうな」
「そ、それは……」
「そうやな。話してくれたら私の伝で『クロス・オーソード』に繋いでやる。最低限の命は保証されるで?」
彼は迷うように低く唸る。顔を下に向けて、苦渋の表情を作る。肩は揺れ、拳は握りしめられる。
口を開きかけて、それでも閉じる。
その光景を見て、アキは椅子に深くもたれ直した。足を組み直し、呆れたような視線を向ける。
「強情な奴やな」
「い、言えるわけないだろ? 本当に殺される! 他のやつだって、話すわけがない!」
「かっかっかっ! あと一押しが足りないみたいじゃの」
そんな様子を見ていたルシが実に楽しそうに大きな笑い声をあげた。その声に反応するように、周りの人から一瞬だけ視線を集める。
彼女は机の上に足を乗せて、そのまま椅子の背もたれに体を大きく預けた。彼女の体重によって椅子は少しだけ傾く。
「一つお主に聞きたい」
後頭部で腕を組みながら、見下すようにルシは男のことを見る。
「今、ドアから外に出ていこうとしてる男たちは、お主の知り合いか?」
ルシの言葉に、ヒカルは視線を出入り口の方に向けた。確かに二人のプレイヤーが、外へと出ていった。
ヒカルにとっては変哲もない彼らだが、男にとっては違うらしい。目を見開き、明らかに動揺するように体の震えが大きくなった。
「し、知らない……」
「おかしいのぉ? ここに入ってから計十二回以上はこちらのことを見ておったぞ? もちろんうちはあんなやつらに知り合いはおらん」
「うちも知らんなぁ」
「俺も知らない」
アキ、ヒカルの言葉を聞いたあと、ルシは口の端を限界までつり上げた。何か悪いことでも考えているような表情を作る。
「となると、お主の知り合いとしか説明はつかんの?」
その言葉に、彼の肩は跳ね上がった。喉仏が上下し、貧乏ゆすりが始まる。右手の爪をかみながら、視線を左右に彷徨わせる。
「もしかしたら、お主が殺されるって言ったのはあの連中にかの? てことは、もう遅いかもしれんの?」
「……出てったということは、切り捨てられた可能性もあるなぁ。どうや、話す気になったか?」
しばらく沈黙をしてから、彼はゆっくりと口を開いた。
「ほ、本当に、俺の命を保証してくれるんだろうな?」
「……内容次第やな」
アキの返答に、彼は頭を落とす。




