表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
88/110

第八十八話

 町の雰囲気は、昨日と少しピリついていた。

 ルシはどこか興味深そうに見回っている。


「昨日も思ったが、中々人がいっぱいいるのぉ」


 そういう彼女の瞳はどこか輝いていた。放っておいたら今すぐにでも走り出しそうだ。


「ルシはこの世界の住人やんな?」


 そんな彼女にアキは話しかけ始めた。


「まぁ昔から住んでるって意味なら、そうじゃな。それともなんじゃ? この世界に住んでない住人っているのか?」


 どこか探るようなルシの瞳にアキは頬をかきながら目をそらす。


 NPCとプレイヤーの違いは、プレイヤーアイコンがあるかないかで見分けられる。しかし、それを抜きにすれば、ほとんど見分けがつかないほどの感情を持っている。

 ルシだけでなくベルにも感情があり、個性がある。そうなってくると、プレイヤーとNPCの違いは何かと言う疑問が湧いてくる。


 そう、元々彼らはこの世界に住んでいたのではないか。そして、ゲームのプレイヤーは別世界に飛ばされたんじゃないか。そう思えてしまうのだ。


 もしその仮説が本当ならば、ヒカルの姉は何に関わっていたのだろうと疑問が湧いてくる。


 そのヒカルの思考を削ぎ落とすように怒号が響いた。ギルド役場のすぐ近くにある酒場からだ。

 ドアをぶち破るように、一人のローブ姿の男が飛び出してくる。ふらふらと揺れて、その場で尻もちをついた。


 あとから出てきたローブの男には、どこか見覚えがあった。

 昨日、ミサキやロッドウィグの手によって助けられた男だ。彼の体は怒りで震えてるように見える。


「お、俺だって事情があったんだ!」

「事情でも何でも、人を置いて行っていい理由にならないだろ!」


 大きな声は周囲の住人たちの足をとめる。


 尻もちをついたプレイヤーを見ると、怒りそのままに胸ぐらをつかんだ。


「もうちょっとで俺たちは死ぬところだったんだぞ!」


 その言葉には怒りが込められていた。

 そのまま胸ぐらをつかんで、拳を振り上げる。それを振り下ろそうとしたところで、アキがその拳を掴んだ。


「なんで止めるんだ!?」


 その言葉に、アキは怯むことなく見やる。


「オレンジプレイヤーになりたいなら別やけどな」

「……っ!」


 拳を振り上げた男のプレイヤーアイコンはみるみるうちにオレンジ色に近づいていっている。周りのNPCが見ていることによってもカルマ値が溜まっていくのだ。

 そのことに気がついた彼は、悔しそうに舌打ちをしながら手を振りほどく。


「二度と顔を見せるな!」


 吐き捨ててから、酒場の中へと戻って行く。


 残された男は尻もちをついたまま、うなだれている。肩を震わせ、か細く泣いていた。よく聞いてみると「すまねぇ」と小さく呟いている。


「やっぱり人間って面白いのぅ」


 趣味悪く笑っているルシに対して、静かにするようにヒカルは口元に人差指を当てる。

 彼女はどこか不服そうに唇をとがらせた。


「それで……」


 切り替えるようにヒカルはアキへと視線を移す。


「こいつどうするんだ?」

「そりゃ、話を聞くに決まってるやろ! こんなチャンスまたとないんやから」

「はぁ、だろうなって思ったよ」


 いまだに尻もちをついているローブの男に向かって、ヒカルは手を伸ばした。

 伸ばされた手を見つめて、彼はどうするか迷うように顔を揺らす。それから手を振り払った。


「こんな俺なんかに手を貸すんじゃねぇよ」


 ひどい自己嫌悪に陥っているようだ。そんな彼に向けて、ヒカルは地面へ尻尾を叩きつける。

 目の前には、ここは安全圏内ですという旨のメッセージが出現した。


「な、なにすんだよ!?」

「勝手に手を貸すって勘違いしてるからだろうが、俺は別にお前に同情するために来たわけじゃない」

「じゃあ、何のために来たんだよ」

「お前が、なぜ仲間を裏切るような真似をしたか聞きたいからだ」


 その言葉に彼は動揺し、息を呑み、顔を俯ける。


「あかんであかんあかん。情報を聞き出すのに直球過ぎたら話さんやろ」


 それを見ていたアキが、誂うように耳や尻尾を揺らす。彼女はゆっくりと彼に近づいて、視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。


「なぁ、あんた。もしかして誰かに何か言われたりした?」

「何も言われてねぇよ……」

「何も言われてないのに、今までの仲間を裏切る真似はせんやろ?」

「……」


 黙りこくる彼に向かって、アキは顔を限界まで近づけた。


「そう言えば、あんたを誰かと一緒にいたところを見かけたって人がいたんやが、誰やったんかな?」

「ちが……っ! そいつは関係ない!」

「ふーん、うちはまだ誰かどうか聞いただけやで?」


 その言葉を聞いて目を見開き、諦めたように彼は息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ