表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
87/106

第八十七話

「良いように巻き込まれましたね」


 宿屋の中にある待合室で、ロッドウィグが大きなため息をつく。


「いやいやいや、うちが悪いみたいな言い方はやめてや。決めたのはヒカルやで?」


 ニヤけながら、アキがロッドウィグの肩をバンバンと叩いていた。ズレた眼鏡を、彼は迷惑そうな顔で掛け直す。

 そんな様子のアキをヒカルは半眼で見やる。大きくため息をついてから、背もたれに深くもたれかかった。


「ま、さすがにモルドレルドって聞いたらな」

「……手伝いたいのは山々ですが、僕は僕でチームメンバーたちを纏める役目があります」


 そう言えばロッドウィグはチーム『クロス・オーソード』で結構上の立場の人間らしい。

 あそこのチームは最大の人数を抱えているようだから、纏めるのもそれなりに大変そうだ。


「人間ってどうしてこうも争うんでしょうね?」

「真理やな」


 アキは面白そうに続ける。


「人より優れたい。人を守りたい。あいつを許せない。人間なんて争いの種はいくらでも持っとる」

「デスゲームの中でさえも争いなんて救えないですね」

「デスゲームだからやろ」


 恐怖と憎しみは両立する。緊張状態が続く中、それを扇動するものが現れれば容易く火がつく。

 そして、そういう奴らは、高みの見物を決め込んでいる。


 人間が関わっている以上、諍いは仕方ない。しかし、それをおもちゃのように扱うのは違う。しかも、楽しむはずのゲームの中で。


 イラつきで揺れる尻尾を隠すように、ヒカルは体勢を変えた。


「それでロッドウィグに頼みたいんだけど、サクラやミサキのことを見てくれないか?」

「そんなところだろうと思いましたよ」


 彼は深い溜め息をつきながら、眼鏡を掛け直す。


「僕は別に便利屋ではないんですけどね?」

「俺に関わったのが運の尽きってことで」


 その言葉に、彼の眼鏡の奥の瞳があきれたような光を宿しているように見えた。


「ものはいいようですね……」


 俯く。長い溜め息をついてから、ゆっくりと顔を上げる。


「本当にあなたに関わったのは運の尽きですね」


 了承が取れるような彼の言葉に安堵をする。そして、前の自分ならサクラやミサキのことを案じていなかったと、少し苦笑をした。

 

 タイミングよく、宿にサクラたちが帰ってくる。ミサキは元気に手を上げて、サクラは少し苦笑気味に並んでいる。

 護衛役を買ってでてくれていたベルは少し安堵のため息をついた。


「ただいま帰ったっす!」


 久しぶりにサクラと買い物を楽しんだミサキはとても満足げそうだ。


「……どうしたっすか?」

「少し次のクエストの予定でアキと町を回ることになった」

「ほほう、私も行っていいっすか?」

「ダメだ」

「えーーー!」


 即答に彼女は不服そうな声を漏らす。そのミサキをサクラがなだめていた。


「私もいきましょうか?」


 ベルが静かに尋ねてくる。彼女の表情には、どこか真剣なものがあった。


「……いや、それよりミサキとサクラをしっかり守ってくれ」

「分かりました」

「あと、ベルは死ぬような場面にあったらさっさと撤退すること」


 そのヒカルの言葉に、ベルは少し驚くように息を呑んだ。少し考えてから、「分かりました」と返答する。

 別にNPCのベルの命を案じているわけではない。彼女が物語には必要なキャラってだけだ。今も昔もNPCは死んでもいいと思っている。それは変わらない。

 

 なぜなら現実で生きている人間ではないからだ。


 心の中でどこか言い訳している自分がいて、思考を断ち切るように立ち上がった。

 アキとアイコンタクトをすると、彼女も立ち上がる。そのまま二人並んで、宿屋から出ようとした。


「おーう、お主待つのじゃ!」


 大きな声を出しながら、後ろから抱きつかれる。思わぬことで、ヒカルは少しよろけた。

 ルシが楽しそうな笑みを浮かべながら、頬を寄せてくる。


「うちも連れていくのじゃ!」

「なんでだよ!」

「面白そうなニオイがするからじゃ!」


 ルシを背中から引き剥がす。目の前におろして、彼女の瞳を真剣に見つめる。


「そ、そんなに見つめられると照れるのじゃ」


 少しも照れた様子もなく、棒読み気味で彼女はそう言い放った。

 相変わらずの自由奔放ぶりに困らさられる。


「連れていかない」


 絶対ややこしいことになるから。


 そう宣言すると、彼女は仰向けに寝転がりながら手足をバタつき始めた。


「ヤダー! 絶対についていくのじゃ!」


 その大きな駄々っ子は、当然のように周りの視線を一手に集めた。

 こちらが恥ずかしくなり、思わず彼女を起こす。


「なんや、楽しいそうなやつやな。ついてきてええで」


 一方のアキは、どこか楽しげだ。


「おお、お主は話のわかるやつだな!」

「当然やん!」


 二人が意気投合し始めて、ヒカルは大きく肩を落とす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ