第八十四話
ローブ姿の男女二名が、大量のサファイアウルフに囲まれていた。
女の方は杖を、男の方はナイフを握りしめている。徐々に追い詰められている彼らは、武器を闇雲に振り回している。
「あれは『結社・ウィッチャー』ですか⋯⋯」
ロッドウィグが走りながらプレイヤーたちの姿を見て呟いた。
「聞いたことあるチームっす」
「中規模攻略チームだぜぃ。ほかチームとの連携は薄いが、仲間との連携は厚いところだな」
つまり、彼らは『クロス・オーソード』と並ぶ攻略勢ということになる。しかし、彼らの姿を見て、ミサキはどこか違和感あると眉根を寄せる。
「見た限り、前衛職がいないですね」
その違和感の正体を、ロッドウィグが解説してくれた。
このゲームにおいて、ヘイトを管理する役というのはかなり大事になってくる。特に大規模や強敵を相手にするときは、攻撃を一手に引き受ける存在が必要だ。
ヒカルでさえ、窮地にはロッドウィグの盾に助けられていた。
しかし、彼らはどう見ても後衛職とテクニカル職というアンバランスな組み合わせ。こんなところでサファイアウルフに囲まれたら一溜りもないだろう。
「何があったんですか!?」
ロッドウィグが近くの狼を斬り裂いた。彼の脇から噛みつこうとした仲間の狼の喉元を、ミサキは振り絞った矢で射抜く。
矢筒に入ったあと数本の矢を、大事につがえ直した。
「あ、あんたら『クロス・オーソード』か!? た、助けてくれ!」
「装備をこんなところでロストするなんて真っ平ゴメンだわ!」
二人の言葉を聞いて、ロッドウィグがルーフェルに視線を合わせた。お互い頷き合い、同時に突っ込み始める。
「助けてあげましょう! ですが、なぜこんな無謀なことをしたんですか!?」
「あんたらも攻略チームなら、パーティーメンバーの重要性は分かってるだろぉ!?」
二人の声に、男のほうがナイフを闇雲に振りながら答える。
「わ、わかってるさ! だけど、仲間がヘイトを取るだけ取って逃げたんだ!」
その言葉に、ミサキの眉がピクリと動いた。
先ほど、ルーフェルからの説明で『結社・ウィッチャー』は仲間との信頼が厚いと言っていた。しかし、早速のおかしな展開に、思わずルーフェルの方を見てしまう。
彼も思うところはあるのか、両手斧を振り回しながらも眉根をひそませていた。
「普段からそいつはよく逃げるのかぃ!?」
ルーフェルの言葉に、女のほうが首を横に振る。
「彼はそんなことしない! いや、そんなことする人じゃなかった!」
「でも今は逃げたと⋯⋯何かありそうですね」
「だなぁ。だけど、今は助けるのが最優先だぜぃ」
「そうですね。ミサキさんは危険と思った敵だけ処理してください」
「わかったっす」
確認をすると、ロッドウィグが大きな声を上げて盾を構えて突進する。サファイアウルフの群れは、ロッドウィグの方を向いた。
盾に弾かれた狼たちは、悲鳴を上げて宙を舞う。その処理をするのは、斧を振り回すルーフェルだ。
ミサキは少しでも高い場所に陣取って、弓を引く。死角からロッドウィグを攻撃しようとした狼に対して、的確に狙撃する。
一体、二体、三体と処理していくうちについに矢を撃ちきってしまった。
「もう次弾ないっす!」
「充分ですよ! ミサキさんの弓が的確で助かりました!」
ロッドウィグは最後に振り返って剣を地面に突き立てる。その彼を、ルーフェルが追い越した。
ルーフェルが二人のプレイヤーを庇うことを確認すると、突き刺した剣の前に盾を構える。そのまま勢いよく引き抜くと、盾から大きな音が発せられる。
耳を塞ぎたくなるほどの爆音。当然間近で受けたサファイアウルフたちは一溜まりもなく、逃げ出し始める。
役目を終えた盾は、そのまま割れて砕け散った。
「この盾買ったばかりなんですが⋯⋯仕方ないですね」
諦めるように息をついてから、彼はくるりとプレイヤーの方を向く。
ミサキも少ししてから彼らと合流した。
「大丈夫……では無さそうですね」
「は、ははは。まさかほかのチームに助けられるとはな」
「はぁー……もうあいつなんでこんなことしたのよ」
二人は腰が抜けたようで、地面に項垂れている。その表情は、どこかやるせないといった感じだ。
ミサキはなんて声をかけたらいいかわからず、顔を伏せた。
このゲームは普通のゲームではない。生死に関わっているのだ。そんなゲームで仲間に裏切られるのは相当心に来るだろう。例えそこに何か事情があってもだ。
近寄ろうと足の裏が地面を擦る。しかし、耳に飛び込んできたのは、狼たちの遠吠えである。
「とりあえず、盾がもうありません。ミサキさんも弾切れですし、一旦町に戻りましょう」
「俺の斧ももうヒビが入ってるぜぃ」
項垂れる二人のプレイヤーに、ロッドウィグは「立てますか」と尋ねていた。




