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第八十三話

ルーフェルの気合の入った声がミサキの耳朶を打った。彼は両手斧を振り回し、集まってくるサファイアウルフを蹴散らしていた。


「どんなもんだぜぃ!」


 血のついた両手斧を振り回して、そのまま止まる。周囲には、大量のサファイアウルフの死体が転がっている。


「格好つけないでください」


 影から飛び出したロッドウィグが、剣で残った狼を蹴散らす。彼は盾で一匹を弾き飛ばした。

 木の上で体勢を整えていたミサキは、弓を引いていた。宙を飛ぶ狼の急所を、矢で射抜く。


 地面に転がる狼の数は更に増えた。


「ナイスアシストだぜぃ! 二人とも!」

「⋯⋯あなたがいつも不注意すぎるんですよ」


 ロッドウィグが眼鏡をかけ直す。その奥の瞳は、さらなる森の先を見つめていた。


「⋯⋯しかし、キリがありませんね。こんなにも魔物が湧いてくるなんて」

「しかも一体一体がそれなりだぜぃ? 他の攻略チームにも聞いたが、中々前に進めないって言ってたなぁ」

「これはクエストどころか、ヒカルやサクラさんを探すこともままなりませんね」


 その言葉を聞いて、ミサキの手がピクリと動いた。弓の弦をイジっていた彼女は、顔を上げる。


「それは駄目っす!」


 弓を引き、新たに駆けてくるサファイアウルフを何体か射抜く。

 ロッドウィグとルーフェルも武器を構え直して続いての敵の襲撃に備えた。


「二人のことが心配なのはわかります。しかし、焦って孤立するほうがだめでしょう?」

「前線は少しずつ押し上げてる。更に人が集まれば、クエストの場所までは開拓できるぜぃ」


 二人の言葉を聞いて歯噛みする。

 そりゃミサキにだってわかる。このまま飛び出したところで犬死するだけだってことは。それでも、見つからないという焦りが、彼女の心の中に蓄積されていく。


「それにそう悲観する場面でもありません」


 ロッドウィグの言葉に、ミサキの手が止まった。


「⋯⋯どういうことっすか?」

「二時間、三時間行方不明になっているなら焦るのもわかります。しかし、もう一日以上経っているのですよ。それでもフレンドリストから名前が消えていないということは、僕達が思っている以上に安定しているのでしょう」


 確かに、ロッドウィグの言葉には一理あった。

 いまだに二人は町の教会からは復活してこない。それなのに、名前は表示されたまま。

 もしかしたら、ミサキの知らないところで何かしらをクリアしているのかもしれない。


 サクラの運とヒカルのゲーム脳ならありそうだなと苦笑した。


 だったら、ミサキが集中することは一つ。フィールド探索を進めること。そして、町などの安全圏を増やすこと。そのためにゆっくり着実に足を進めることである。


 深く呼吸をする。自分の心臓の鼓動が耳につくほど、静寂に包まれる。矢を五本つがえて、引いた。

 そのまま放つと、三匹のサファイアウルフを射止める。できれば一矢一殺をこなしたかったが、やはりまだ熟練度が足りないようだ。


「ふむ、一体どれほど湧いてくるんでしょうか?」


 ロッドウィグが眼鏡をかけ直しながら、観察する。


「まだまだ止みそうにありませんね」

「最初のエリアもこんな感じだったっけ?」

「どうですかね? 少なくとも、狩り場として機能はしていましたが、ここまでの密度はなかったですね」


 話しながらも二人は的確に攻撃を加えていく。

 平野にはすっかりサファイアウルフの死体の道が連なっていた。それでもドンドン湧き上がる状況に、さすがのロッドウィグも辟易してきたようだ。


「ここらで一旦下がったほうが良さそうですね⋯⋯他のパーティーに変わりましょう」

「賛成だぜぃ。さすがに俺の斧も刃こぼれを起こし始めたぜぃ⋯⋯」

「ミサキさんもそれでいいですか?」


 ロッドウィグに尋ねられて、何かを言おうとした。無意識に矢筒に伸ばした手が空を切る。

 あれだけ潤沢にあった矢が、すでに切れかけていることに今気がついた。


「⋯⋯仕方ないっす」


 肩を落としながら、木から降りる。


「殺したサファイアウルフは、素材をいくつか剥いでから帰りましょう。また再度挑戦すればいい」


 ロッドウィグの言葉に、肩を落としながら頷いた。


 そんなとき、別の場所から誰かの悲鳴が聞こえてきた。

 初め、サクラかヒカルのものかと思い鼓動が飛び跳ねた。しかし、すぐに男の声だということに気がついて落ち着かせる。

 ロッドウィグの方を見ると、彼は考えるように顎に指を置いている。


「放っておくわけにもいきませんか」


 彼は体の向きを変えて、叫び声のした方に走り出す。


「少し確認します! 危険だった場合は、すぐに撤退しましょう!」

「分かったぜぃ!」


 二人についていくように、ミサキは無言で頷く。

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