第八十一話
ドワリンドが難しい顔をして唸っている。
「やっぱりよそ者を信用できんな」
ヒカルはその言葉に言い訳ができず、ただ黙るだけだった。
そんなとき、視界の端でユウェイルが落としていった所持品を見つける。それを取ってドワリンドへと手渡した。
「これ、全部やるから」
「⋯⋯こんな量産型の装備いらんわ!」
「ほ、本当に悪かったから」
尻尾を垂らし、彼に手を合わせる。
そんなとき、所持品の中から何かの鉱石のようなものが落ちた。それに真っ先に反応したのはルシだ。
「ちょっとそれを見せろ」
そういって半ばひったくるように、彼女が鉱石のようなものを確認した。フェンリアルが鼻を鳴らしながらルシに近づく。
「嫌な臭いがするな」
「当たり前じゃ、ベルフェゴールの魔力が漂ってる」
「あぁ⋯⋯納得だ」
そんな二人の会話の内容は、当然ヒカルにはわからない。サクラも首を傾けていた。
「ていうか、なんでここにフェンリアルがいるんだ!?」
遅れて気がついたドワリンドに、フェンリアルは大きなため息を漏らしていた。
「ずっとここにいたよ」
「⋯⋯何があった、話してみろ?」
フェンリアルを見かけたことで、ようやく怒りが収まってきたらしい。話を聞いて、小さく息を吐く。長い白髭をいじり、片眉をあげる。
「冒険者ってのは、本当野蛮な生き物だな」
「かっかっ! それをお主に言われたらおしまいじゃな」
「どういう意味だ? ルシ?」
二人が軽口を叩いている間に、ベルがドワリンドの家から出てきた。
彼女はメイド服の上から銀色の美しい軽装鎧をつけ、腰には白色の細剣を提げている。その剣には、蜘蛛と薔薇の装飾が施されていた。
ベルの手には、『闇の剱』らしきものが収まっていた。
「何が起こったのか知りませんが、とりあえずドワリンド様によって剱は完成しました」
手渡されて、確認する。剱からは青紫の光が柄から剣先まで伸びており、巻き付くように動いている。
『闇の劔は魂魄の剱に昇華しました』
『魂魄の剱:茨の剱を二段階強化した姿。相手のバフを二つ削り取ることができる。この効果は重複しない。削り取る効果は選べません。永続的なスリップダメージが強化されます。相手に確率で恐怖を与えることができます』
明らかに強化された内容に、ヒカルは満足そうに頷いた。
「ありがとう、ドワリンドさん」
礼を言うと、彼は手を伸ばしてくる。
「お代、10万ルーン」
「⋯⋯は? え、ただでやってくれるんじゃ?」
「ただなわけがないだろ?」
一気に空気が冷え上がる。所持金を確認するが、とてもじゃないが足りない。
みんなが口を閉じて静かになる。唯一、ルシだけは楽しそうに笑っていた。
「えっと⋯⋯ありません」
その言葉を聞くと、ドワリンドはわざとらしく息を漏らす。
「だろうな。だから、お前たちに少し頼みたい仕事がある」
ドワリンドはルシの方に手を伸ばす。彼女は意図を組んで、先程のベルフェゴール鉱石を投げ渡した。
受け取った彼は、それをヒカルへ見せた。
「この鉱石を取ってこい。場合によっては、その剱を更に強化できるかもしれん」
「かっかっ。偏屈ジジイが興味を示すなんてな」
「勘違いするな。ワシが興味あるのは、その剱を完成させることだけだ。七柱由来の武器なんぞ、滅多に作れんからな」
これは次のクエストへの導入になっている。もちろん、ヒカルは受けることに迷いはない。しかし、度重なる戦闘続きで、物資は不足気味だ。
ちょうど、サファイアウルフも襲ってくることがなくなった。ここらで一回町に変えるべきかもしれない。
提案すると、サクラとベルは了承した。
「うちもついていくぞ!」
そう目をキラキラさせて宣言するのは、ルシである。
「え、やだ」
「やだって言われてもついていく! 行くったら行く! のぅ、わんころも町に興味あるだろ?」
「いや、私が行ったら騒ぎになるだろ。それに、ドワリンドを護ったほうが良い」
その発言にドワリンドは鼻を鳴らし、ルシはつまんなさそうに唇を尖らせた。
「とにかく、行くからな!」
「やだよ、そんな痴女みたいな格好の女を連れ回したくない」
「不敬ぞ!」
「あ、私ローブ持ってるです。それなら、問題ないと思うです」
「サクラ、それうちのこと庇ってるようでフォローしきれてないからな!」
ドタバタ騒ぐルシ。このままでは埒が明かなかったので、サクラの持っていたローブを被せて連れて行くことにした。
暑いだの何だの言っていたが、連れて行かないと言ったら大人しくなる。
随分他の仲間たちを待たせてしまったなと、フレンドリストを開く。いまだにみんなの名前が表示されていることに、少し安堵した。




