第八話
「あ、あの……ヒカルさんは女の子ですよね?」
道端で石ころを見つけては拾うヒカルを不思議そうに見つめながら、彼女が尋ねてきた。
手ごろな石を探しながら、そのまま所持品に入れていく。
アイテム名石ころのテキスト説明は『投げる以外には価値はない』と書かれている
「どうしてそんなこと聞くんだ?」
「えっと……喋り方が女の子っぽくないです」
「そりゃそうだよ、だって中身男だもん」
「……え?」
その言葉に、彼女は不思議そうに言葉を詰まらせていた。
「何かおかしいことあったか?」
「い、いえ……」
その言葉にこれまた彼女のネットゲームへの認識のズレが見て取れた。大方サクラと言う名前も、彼女の名前から取られているのではないのだろうか。
そこまで考えて、ヒカル自身も本名を使ってるから人のことは言えないなと心の中で苦笑する。最も、すでに決められたアカウントではあったので、選択権はなかったのだが。
手ごろな石がたくさん集まったことを所持品で確認する。満足したように頷いてから、歩き始める。
「そ、それで、何をしていたです?」
下水道の入口に向かう最中、意を決したようにサクラが尋ねてきた。
「見て分からない? 石集めだよ」
「……うん」
彼女は黙っていてしまった。聞きたいことはそれじゃなかったと言う視線が背中にぶつかる。
肩をすくめてから、一個石を所持品から取り出した。
「まぁ、石はどこでも手軽に手にはいる“投擲武器”だけど、あまりの弱さに誰も見向きもしないよね?」
プレイヤーに対して嫌がらせにぶつけることはできるが、魔物に対してはダメージ1しか与えられない。
しかし、ヒカルが注目したのはその部分ではない。
「このゲームのモンスターや動物がプレイヤーを認識する条件って何か知ってるか?」
「……目ですか?」
「それだけじゃない。目と耳とあと臭いもだな」
言われた彼女がわかってないとでもいうように小首を傾げている。
説明してやるとヒカルが指を差した先には、農家の家があった。そこには鶏が囲いの中で飼われている。
彼女はその鶏たちに向かって石を投げつけた。音に驚いたように、大きく羽ばたいている。
すぐ後に家から村人が飛び出してきて、怒鳴っていた。ヤバとヒカルは慌ててその場なら離れる。追いかけてきていないことを確認してから、大きく息をつく。
「今みたいに、音に反応させることでモンスターの気をそらすこともできる」
普通の上級プレイヤーなら、きっと注目しなかった効果だろうけどと心の中で付け加えた。
ある程度レベルと人数がいれば、どれだけ多くの魔物や強い魔物に襲われようとも何とかなる。しかし、どのゲームにも必ずボッチプレイヤーというものは存在する。
高レベル層のボッチは、圧倒的な火力や知識を駆使して。低レベル層のボッチは、システムを利用して生き残るものだ。ましてや魔物を誘導する釣り戦法は、古くから使われているものである。
問題は臭いの方だ。今ヒカルが着ているのは臭いシャツである。もし臭いに敏感な魔物なら、嗅ぎつけるだろう。しかし、それも大丈夫だと踏んでいる。
第一に、自分より臭い下水道のため、ヒカルの臭いは気にならないレベル。第二にあのネズミの行動は、完全にテリトリー内に入ってきた異物を視認するように狙ってきた行動に見えること。
まぁ失敗してもあと一回は生き返れる。どうにもならなければ、明日から復活ポイント回復を待ちながら、レベル上げの日々が待っているだけだ。
「……ゲームにも色々あるですね?」
感心したような彼女の瞳に、ヒカルはまぁなと答えた。
ゲームと侮るなかれ。最近では地形演算が正確なものも現れて、工事のための事前計算に取り入れられているほど緻密なものもある。まさしく、ゲームは文化と言えるだろう。
皮肉にもそのゲームに多くの人間の命が囚われてしまったのだが。
話していると、下水道の入口へと着いた。ドアに手を伸ばすして見ると鍵がかかっている。どうやらクエスト受注者とそのパーティー以外が入れないように、鍵は閉まってしまうらしい。
内部の敵の強さに比べて、厳重さの矛盾がやはり気になってくる。
ただの低レベルの隠しクエストだと一瞬思ってい始めていた。しかし、やはりこれは何かしらの重要なものに繋がっているのではないかと考えてしまう。
しかし困ったな、頭を捻る。開いてるものだとばかり思っていたが、閉まっていたのはかなりの想定外だ。鍵も死んだ時に一緒にロストしてしまったのだから、これでは入れない。
もう一度メイド長に貰いに行くのかと考えながら所持品を眺めていると、先ほどまで入っていなかった鍵が復活していることに気がついた。
「……やはり」
口に出しかけてサクラが見ているのでやめる。
ただのクエストにしては特殊すぎると、心の奥底で零した。




