第七話
二回目の教会内の水浴び場での目覚め。裸になったヒカルは大きくため息をついた。
命の残り数を報せるメッセージを流し読みしながら、彼女はゆっくりと水から上がる。
笑顔でシスターにお金を求められて、彼女にキッチリと払う。素寒貧寸前の所持金を見て、深いため息が漏れそうだ。
再び臭いシャツを貰って、教会から出る。天高く昇る太陽が、とても眩しくて笑みを漏らしてしまう。
うん、やはり簡単にオンラインゲームで他人を信じるもんじゃないなと、遠い目になる。
しかし、まだあと一回は挑戦できる。それに初見攻略とは違い、少しはダンジョンの情報が頭にある。少し工夫すれば魔物の攻撃力的にはクリアできないわけではない。
やはり、初期村想定ということなのだろうか。それほど理不尽というわけではなさそうだ。
だったら、報酬もあまり期待はできないかもしれない。それでもクリアを目指したいと思ってしまうのは、ゲーマーの性ってものだろう。
今回は本当に倉庫を利用しといてよかった。
ギルド役場に寄って、受付に倉庫利用を伝えた。中から手ごろな片手剣を取り出して、装備する。
「あ、あの!」
再び準備が整ったところで、後ろからサクラに声をかけられた。顔をしかめて、ヒカルは振り返る。
杖を握りしめた彼女は、深々と頭を下げてきた。
ヒカルの嫌そうな顔を見て、罪悪感が芽生えたのか彼女の瞳は揺れる。視線を合わそうとはしない。
しばらく何をいうか迷うように口を開閉させていた。
「げ、下水道で置いていってごめんなさいです!」
その大きな声に、ヒカルはビクリと心臓が跳ねる。
ヤバいと周囲を見回した。
「まさかあそこにあんな気持ち悪い魔物が──」
ベラベラと情報を喋ろうとする彼女の口を抑えて、手を引っ張る。外に出て、ギルド役場の裏へと連れて行った。
困惑する彼女に、シーッと静かにするように促す。
「人前であまり言うな」
注意されたことによって、彼女は慌てて口を手で覆った。
「……それで、自分が何したか分かってるか?」
「はい……置き去りにしてしまったです」
しょんぼりしているサクラ。しかし、彼女のしでかした本当の罪を自覚してないようなので、ヒカルはキッチリと口にする。
「置き去りにした……だけじゃなくて、お前はMPKをしたんだよ」
「え、えむぴーけー?」
聞き慣れない単語だったのか、彼女は首を傾げていた。このゲームに参加していてその名前を知らないことにヒカルは驚く。
「もしかして、MMORPG初心者?」
「え、えむえむおーあーるぴーじー?」
あ、これはダメだと大きくため息をついた。基礎中の基礎の単語すら理解できないということは、彼女は本当に初心者なのだろう。
しゃがみ込みながら、頬杖をつく。ヒカルの尻尾は不満げに揺れていた。
「あ、あの……?」
不思議そうに見つめるサクラを、ヒカルは見上げる。
「サクラはなんでこのゲーム始めたんだ?」
「え、えっと……友達に抽選に当たったから一緒にやろうと誘われて……それで出られなくなってしまってです」
彼女が杖を持つ手は震えていた。まるで思い出したくないことを思い出すような仕草だ。
このゲームが世界初の完全体験型VRゲームとして発表されてニュースにも取り上げられていた。完全初心者の人間が混じっていてもおかしくないかと言う結論に至った。
「MMORPGはゲームのジャンル。MPKは敵魔物を使って他のプレイヤーを殺す行為のこと」
数あるPKの中でも特に悪質な行為である。敵魔物を大量におびき寄せる。または巻き込まれた仲間を見捨てて敵魔物に殺させる。PKしたプレイヤーは、相手の死に直接関わっていないから、ペナルティを受けないというもの。
普通のネットゲームなら、一回しただけでも悪意の有無関係なしにSNSに晒されるような行為である。
「そ、そんなつもりはなかったです! ほ、本当にごめんなさいです!」
彼女は涙目になって、何回も頭を下げてくる。
悪意がないことはわかり、ヒカルは後頭部をかいた。
「……それで、もう一回ついてくるの?」
「で、できればお願いしたいです」
「そんなにその友達が大事だったの?」
ヒカルの言葉に涙目になりながら彼女はコクコクと頷く。
これはダメと言ってもついてくるやつだなと、諦めるように頭を項垂れた。
さすがに喋った人間を一人にして、見捨てるのは夢見が悪い。仕方ないから今度こそ離れるなよと伝える。
彼女は再び強く頷く。その姿を見て、ヒカルは彼女の回復魔法には期待を寄せるのは止めようと結論づけた。




