第七十八話
サクラをかばい、ヒカルは前に出る。剣を出そうとして、今は預けていることを思い出した。
苦渋の表情を見たユウェイルは、自身の大剣にもたれかかりながらニヤけた顔を見せている。
「おいおいおいおい、安全地帯でもない場所で武器も携行してないとか、あまちゃんかよ!」
「お前のような奴がいるから抑止力ってなくならないんだな⋯⋯」
「⋯⋯は! 挑発のつもりか?」
大剣をさらに振り回す。ドワリンドの家はさらに壊れた。
風圧に煽られて、数センチ後方に下がる。
「乗ってやるよ!」
顔面を殴られた。あるはずのない痛みが体を突き抜ける。仰向けに倒れ、きれいに崩れた天井を見あげる。
サクラの悲鳴が聞こえた。視界の端では、ルシのニヤケ面が見える。
「小娘、手を貸してやろうか?」
「いや、いい⋯⋯」
鼻を抑えながらよろけて立ち上がる。
「俺の力でこいつの鼻っ柱をおらないと、俺の気が収まらん」
「強がりめ」
「強がりじゃない。ちゃんと勝算がある」
会話の途中で、ユウェイルは突っ込んでくる。彼は大剣を地面に突き刺したまま、素手で向かってきた。
「どこが勝算あるんだぁ? お前のレベルは今でも精々精々20くらいだろ!」
投げ飛ばされ、雪の上を転がる。雪の地面にはヒカルの跡がついた。
「かはっ!」
咳き込みながら、地面に手をつく。そのまま睨みつけるようにして、ユウェイルを見上げる。
「残念、まだ11だ」
「何が残念なんだ? なにが? てか、11? いくらなんでも遅すぎだろぉ! お前、かなりかなりかなりゲームが下手くそか?」
「⋯⋯かもな」
バエルの呪いで、必要経験値が五倍になっているが、そのことはユウェイルに教える必要がない。
顎に蹴りを食らう。体力バーが、二割を切った。
「口ほどにもねぇってこのことだよなぁ!? お前、よくそれで大口叩けるよな? 中々の馬鹿だよ。中々中々の大馬鹿だよ!」
「は、はは⋯⋯やすい挑発するくらいならさっさと殺せよ」
「簡単に殺すわけ無いだろぅがばーか!」
ぐるりとユウェイルは家の中にいるサクラを睨んだ。
「おい、お前ヒーラだよなぁ? 今すぐに今すぐにでもこいつを回復させろ」
「⋯⋯え?」
「早くしろ! 殺されてぇのか!」
大剣を構えられて、サクラが肩を跳ね上がらせる。彼女の瞳は、涙で揺れていた。
どうしようかとこちらを見てきたので、ヒカルは首を縦に振る。
サクラが近づいて杖を構えると、ヒカルの体力を回復させていく。
「一撃で殺さねぇのな。優しいじゃん」
「なぁに甘っちょろいこと言ってんだよ!」
「ぐっ!」
大剣の刃が、ヒカルの右足を切断した。ポリゴン片が散り、血のように流れる。
顔面を蹴り潰され、また体力バーが二割まで減っていく。
ヒカルの体は数メートル転がる。切断されたはずの足は、いつの間にか修復されていた。しかし、幻肢痛のようなものが、右足を襲う。
「俺様はよぉ? 俺様は俺様は俺様はよぉ? オレンジプレイヤーにされたことを許してないんだ。おかげで仲間に笑われる始末だ。緑アイコンの合法でぶっ殺すことが俺達の楽しみだっていうのにさぁ」
「⋯⋯ひどい悪趣味だ」
「はっ! 運営様が許してくれてるってことだろうがよぉ!」
腹部を蹴り飛ばされる。体力バーが寸前で止まり、明滅する。
サクラへ恫喝するように早く回復させろと命令する。
またヒカルの体力バーは満タンまで回復した。
「だからお前を徹底的に痛めつけることにした。俺様の気が済むまで、絶対に殺さん!」
「ちっさい男だな⋯⋯。モルドレルドなら、もうとっくに勝ってただろうよ?」
「心配いらねぇ。どうせお前は俺様には絶対に勝てねぇ」
襟首を捕まれ、起こされる。そのまま投げ飛ばされた。
地面に体を打ち付ける。肺が圧迫されて、空気が吐き出される。
震える手で、近くの木に手をついた。呼吸を荒くし、ゆっくり膝に力を入れる。
瞳が揺らぐ。尻尾が揺れる。それでも、敵意ある視線でヒカルはユウェイルを見る。
「臆病者が」
「⋯⋯あぁ?」
「いたぶることだけで自己満足に浸ろうとしてる臆病者が! お前なんて、モルドレルドの足元にも及ばねぇよ! あいつのほうがまだ、芯がある!」
もちろん、モルドレルドを肯定することはできない。それでも、目の前の男よりかは──
「ぶっ殺す!」
「最初っからぶっ殺せばよかったんだよバーカ!!」
ユウェイルは、ヒカルの挑発に乗るように大剣を抱え上げた。あれが振り下ろさられば、一発で殺されるだろう。
彼の動きの一挙手一投足見つめ、睨みつける。
「だからお前は格下に負けるんだ!」
「ピーチクピーチクほざいてろ!」
ユウェイルは、ヒカルへ無情に大剣を振り下ろす。サクラの悲鳴が最後に聞こえた気がした。




