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第七十七話

 帰り道は実に楽であった。

 あれだけ襲ってきたサファイアウルフたちは、道案内するかのように並走してくれる。

 ヒカルはどこか落ち着かないように、尻尾を揺らしていた。


 サクラは一匹の狼に近寄って、そのモフモフ具合を堪能していた。撫でていると狼は嬉しそうに尻尾を揺らしてサクラのことを舐める。

 ここまで来るともはや犬扱いだなと苦笑する。


 ドワリンドの設置した結界が見えてきて、狼たちは名残惜しそうに離れていった。何回も振り返る姿は、どこか心配しているような印象が見える。


「共存ってできないです?」


 尋ねてきたので、結界の文字を見つめながらヒカルは言う。


「無理だろうな」


 メタ視点で言うならば、魔物とプレイヤーが仲良くするのは稀だ。そして物語的に言うならば、あのドワリンドでさえ結界を張って対処しているのだ。

 サファイアウルフたちは、フェンリアルによってある程度は理性的に抑えられている。それでも本能のようなもので襲ってしまうのだろう。


「魔物は殺せ⋯⋯ですか。なんだか悲しいです」


 サクラは思い出すように、視線を動かしていた。

 

「これはゲームだ。そんなに感情移入してたらやってられないぞ」


 吐き捨てるように言ったヒカルの言葉に、サクラはプクッと頬を膨らませた。


 ドワリンドの家の前に立ち、ドアをノックする。返事がないので、今度は強めに叩いた。

 少しして、勢いよくドアが開かれる。


「そんなに強く叩かなくても、わかってるわ!」


 いつも通り偏屈そうなドワリンドが出てくる。こちらを見上げて、片眉を上げていた。


「⋯⋯まさかフェンリアルを助けたのか?」

「そのまさかだ」

「は、はっはっは! そこまで行ったか! ほら、強化してほしい剣を見せろ、今すぐ仕事に取り掛かってやる」


 中に通される。カウンターには、ニヤニヤ顔のルシが座っていた。


「おかえりじゃ。あの犬っころと会ったか?」

「どころか助けたんだってよ!」

「かっかっ! そうかそうか! フェンリアルは自由になったか!」


 ルシはどこか嬉しそうに羽を揺らしていた。上機嫌に体を揺らし、飲み物に口をつけている。


 ソファに座ったヒカルは、そのまま机に『闇の剱』を置く。それを見て、ドワリンドは興味深そうにジロジロと見つめていた。


「ほう、さらにベルフェゴールの魔力を取り込んで力が溢れてる。しかし、このままだと器が未完成だから強くはならんな」

「つまり?」

「ワシが適切な形に整えてやる」


 その言葉を聞いて、ヒカルは安堵のため息をついた。


 ドワリンドが『闇の剱』を持って立ち去ろうとしたとき、ベルが立ち上がる。


「あの、ドワリンド様。私に何か剣を見繕っていただけませんか?」

「ほう⋯⋯いいぞ。ついてこい」


 彼の答えに、ベルは少し嬉しそうに微笑んでからついていく。二人は奥へと消えていった。


「それで、あのわんころはどうだった? 強かったであろう? 美しかったであろう?」


 ルシはとても嬉しそうにしている。


「まるで、自慢するようだな?」

「ん! ち、違う⋯⋯。ほら、フェンリアルは有名な犬っころだからだ。一見の価値はあるってことだ」


 明らかに動揺した様子で、彼女は顔をそらした。


 何か誤魔化されたなと、ヒカルはジーッと見つめる。しかし、ルシは顔を真っ赤にして怒るので、聞き出すことはできなかった。これ以上、何かを言うとルシの好感度が下がりそうなので、引き下がるしかなかった。


 しかし、彼女は何かを知っていそう。その気配が色濃くある。


 しばらく静かに待っていた。

 再び吹雪いてきたのか、窓が大きな音を立てる。ルシが退屈そうに、体を動かしていた。


 すると──


彼女は大きな笑みを急に漏らした。その表情が、何かヒカルの嫌な予感を駆り立てる。


「小娘、誰かに嫌われたようなことをしたか?」

「⋯⋯は?」

「外からひしひしと、怒りのオーラを感じるぞ?」


 その言葉の意味は、すぐにはわからなかった。吹雪の音が止んだことで、何かがやばいと察する。


「サクラ!」


 しゃがめと言う前に、ヒカルは動いていた。彼女に覆いかぶさるようにして庇う。


 轟音がなった。入口が半壊する。腕の中で、サクラが悲鳴を上げた。

 顔を上げると、雪煙がその場を舞う。吹雪く風が頬を撫でる。


「やっとだ。やっとやっと見つけたぜぇ⋯⋯?」


 その声に聞き覚えがある。

 聞こえた瞬間、顔を怒りで歪める。


「ユウェイル⋯⋯!」

「一々⋯⋯一々一々一々! 俺様の名前を気安く呼ぶな!」

「呼ばれたくなかったら、目の前に顔を出すなよクソ野郎が!」


 視界が晴れた先、赤い髪の巨漢が立っていた。

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