第七十一話
「はっはっはっ!」
「かっかっかっ!」
家の中に響き渡るのは、ドワリンドとルシの笑い声。お互い腹を抱えて大声を上げている。
しばらく笑ったあと、ドワリンドはピタリと声を止めた。
「お前、頭沸いたか?」
「かっかっ! 随分の言いようじゃのう? 純粋純然全力で大真面目じゃ」
「ベルフェゴールを殺すことがどういうことか──」
「だからこそ面白いんじゃろ? 動かぬ玩具を見るほうがつまらん」
その一言に、彼は非常に大きくため息をついた。
「お前は本当にお前だな⋯⋯で、こいつらはその重さを理解してるのか?」
「そこのアラクネの小娘は理解しておるじゃろうな。ただ、そっちの冒険者の小娘たちはわかっておらんじゃろ」
「冒険者⋯⋯? あぁ、数ヶ月前に現れた奴らか。ここにも来るようになったんだな。つまり、その悪魔族の奴も」
「純粋な血統ではないだろうよ」
ルシの言葉に、ドワリンドはふむと小さく頷いた。白いひげをいじりながら、顔をヒカルへ極限まで近づけてくる。
思わず身を引いた。じろじろ見られるのが落ち着かず、ヒカルの尻尾が揺れた。
「ふん、まだ半端者じゃないか」
その言い切りに、思わずカチンとくる。
立ち上がり、噛みつこうとした。しかし、そのヒカルの服の裾を、ベルが掴む。
「⋯⋯殺されますよ」
その彼女の瞳は真剣そのものだ。
「鍛冶師ドワリンド。狙われていても生きてる理由くらい想像つくでしょう?」
言われ、考え、ゆっくりと座った。
「ふん、あいつらに生かされてるだけだがな⋯⋯。非常に不本意だが」
ドワリンドは不服そうに表情を歪めてから、椅子に座る。短い足が組まれた。
「ルシファーとベルフェゴールが彼を放っておくほうが良いと判断した時点でどんな人間かは想像つくでしょう?」
ベルに言われて、ヒカルは無言で頷く。
「ま、厄介者扱いされてるだけだ」
「よく言う。お主をのせいでどれだけの血が流れたか忘れとらんか?」
「……忘れとりゃせん。だからワシはここにいる」
その一言には、どこかドワリンドの悲しみが混じっているような気がした。
「それで、ベルフェゴールを倒すというのなら、それなりの根拠があるんだろうな?」
その質問を受けたルシは、こちらに視線を合わせた。どうやら、『闇の剱』を見せろということらしい。ヒカルは無言で提げていた剣を取って、机の上に置く。
その剱を見た瞬間、ドワリンドの隠れていた目が露わになるほど見開かれる。
「ベルフェゴールの臭いだと?」
「やはりお主も気づいたか」
「おい、悪魔族の娘! これをどこで手に入れた!」
急にドワリンドに詰め寄られて、ヒカルは大きく身を引いた。緊張で思わず尻尾が立つ。
「最初はベルが作った異変をもとに、次はベルフェゴールの影を吸収して」
「⋯⋯なるほどそのものか」
ヒカルの説明に、彼は髭をいじりながら考え始める。深く唸っているドワリンドに、ルシは頬杖をつきながら楽しそうに体を揺らした。
「それで強化はできるか?」
「できる。しかし、付け焼き刃にしかならん」
何だよそれと、ヒカルの心が愕然とする。ここまで期待を持たせてそれはないだろと、口をついて出そうになった。
しかし、ちらりとサクラのほうを見て、その言葉を飲み込む。
目があった彼女は首を傾げていた。
「ほう? お主ほどの名匠でも付け焼き刃にしかならんと申すか?」
「⋯⋯ルシ、やっぱり性格悪いぞ」
ドワリンドは、三対の羽を動かすルシに対して、大きく肩を落とした。
「分かって言っておるだろ?」
「かっかっ! 今のお主じゃ解決できないのは知っておる。でも、解決策を知ってることも知っておる」
「⋯⋯やっぱり性格悪いぞ」
彼は『闇の剱』を、ヒカルに放り投げて返す。思わず取り落としそうになりながらも受け取った。
相変わらずぞんざいに扱われることに、ムッとする。
「この地はルシファーとベルフェゴールが戦ったのは何回も言っておるな?」
彼の問いに、全員が頷いた。
「その戦いの名残が何箇所かある。そこにある魔力を集めてこい。そしたら強化してやる」
「⋯⋯簡単な話じゃないな?」
「ふん、悪魔族のくせによくわかってるじゃないか」
ドワリンドは一拍おいてから続ける。
「この地域の気候変動。それを起こすほどの魔力。そうなると当然、魔物の脅威も増える。結界でそこのアラクネが体調不良を起こしたのも、それほど強力な結界を積まなければ安全を確保できないからだ」
彼の言葉が終わると同時に、ウィンドウが表示される。
『クエスト:ベルの故郷が消えた謎が更新されました』




