第六十八話
村の廃屋に戻ると、ルシが嬉しそうに近寄ってくる。『闇の剱』をヒカルへと返してくる。
「何かわかったのか?」
尋ねると、彼女は満面の笑みを見せてくる。
「それ、ベルフェゴールを素材としておるじゃろ」
直球に言われ、思わず喉の奥を鳴らす。後ろに控えていたベルも、動揺するように足を床に擦る。サクラだけは何を言ってるのかわからないようで、首を傾げていた。
「かっかっ! ベルフェゴールで作られる武器なら、ベルフェゴールも倒せるじゃろうて。でもそんなことしたら、どうなるかわかっておるのか?」
「……世界の均衡が崩れる?」
「そこまでは大袈裟なことは起こらんよ。バエルさえいれば、世界が崩れることはまずない。ただ、ベルフェゴールの領地は戦火に飲まれるだろうの?」
彼女は面白そうに目を細めた。まるで見定めるような視線で、ヒカルのことをジーッと見つめる。
「それで、お主はベルフェゴールを殺すのか?」
「必要なら」
「かっかっ! 小娘悪魔が王の一人を殺すか! いいのいいの実に傲慢で素晴らしいの! もちろん、狙いはベルフェゴール如きだけじゃないだろ?」
仮にも七柱の一人であるものを、軽く扱うルシ。彼女は一体何者なのか、俄然興味が湧いてくる。
値踏みするような視線でヒカルを見つめ続ける。彼女は上へ下へ前を後ろへを観察するように色んなところに視線を這わせた。
そのことに落ち着くことができず、ヒカルの尻尾が揺れる。
「気に入った! うちについて来い!」
「……は?」
「その剱を強化させてやろうと言っておる。見返りはもちろんいらん」
「……何を企んでるんだ?」
ヒカルの疑いの目に、彼女は楽しそうにくるりと回る。三対の羽は、感情を現すようにぱたぱたと動いていた。
「何も企んでおらん、完全な善意じゃ。そもそも、うちにとってもベルフェゴールは邪魔じゃからの」
ヒカルは疑いの目を向け続ける。彼女は笑みを消して、頬を少し膨らませた。
「うちが素直に手を貸してやるって言ってるのに、信用ならんか?」
「うん」
「……即答じゃな」
「あの、どうやって強化するんですか?」
ヒカルの代わりに尋ねたのは、ベルだった。
羽を動かしながら彼女の方に向き直る。
「ドワリンドがこの森に住んでおる」
「え……ドワリンド様が? この村にまだいたのですか?」
「もちろん、この村を保存しておるのも彼奴じゃ」
話が見えなくなり、ヒカルは途中で割り込んだ。
「その、ドワリンドって誰だよ?」
「隠れた名工。ドワーフ族唯一の生き残り。この地がこうなってしまった理由じゃ」
ゲームでよくある物語の転換点に背筋が冷えた。
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ドワリンドは元々、ドワーフの村に住んでいた。神の武器をも作る名工たちとして、様々の種族に重宝された。例えば、聖剣やイカヅチを呼ぶハンマーなどが挙げられる。
まんま、神話のドワーフの印象であった。
彼らが表舞台から姿を消したのは、もう数えられないほどの昔。
ドワリンドは唯一、血を受け継いできた純粋なドワーフだ。アラクネたちの糸を受け取る代わりに、村を豊かにする約束をした。
しかし、皮肉なことに彼がいたせいで争いは起きてここは変わり果ててしまったのだ。少なくとも、ベルはそう聞かされていたらしい。
村が滅んでもなお、彼は村の保全を第一にした。村を囲う結界は、彼が女神の力を借り受けて作ったものだそうだ。
「やっぱり、ヒカルさんの予想は合ってたです」
サクラが横につきながら、小声で言ってくる。
現在、ルシの案内のもとにそのドワリンドが住んでいる場所へと尋ねることになった。
進めば進むほど刻まれている紋様の輝きは強く増していく。
「少し⋯⋯休ませてください」
ベルが息を上げて膝に手をおいた。吹雪の中だというのに、彼女の額には玉のような汗をかいている。
ウィンドウのメッセージで、彼女の力が削られていることが表示されている。
サクラがこっちを見つめてくる。脇腹を小突かれたので、仕方ないと肩を落とす。
ベルのことを背負い、再び歩みを進める。
現実なら重たいと一言あっただろうが、幸いここは仮想世界の中。俊敏性にマイナスの補正がかかるだけで、他にはデメリットはない。魔物の脅威も、あの結界のおかげで考えなくてもいい。
「⋯⋯ご迷惑をおかけします」
彼女の弱々しい声に、気にするなと答えた。耳元に聞こえる浅い息を意識しないようにする。
「もうちょっとじゃ、頑張れ」
反対にとても元気なルシは、笑顔をこちらに向けてくる。この状況を楽しんでるなと思いながら、ヒカルは大きなため息をついた。




