第六十六話
ヒカルはゆっくりと目を覚ました。相変わらず外の吹雪は続いているが、それでもゆっくり魔物に脅かされずに寝れるというのは、疲れの取れ方も違う。
大きく腕を伸ばす。尻尾の先までピンと張る。
息を吐いてから、体を起き上がらせた。
「おはよう、よく眠っておったの」
聞こえた声に、うんざりと顔を向ける。
「なんだ、まだいたのか」
「随分な言いようじゃの? 一緒に村に身を寄せるもの同士、信頼して生きていこうて」
どの口が信頼という言葉をほざいているのか。自分から正体を明かさないのに。
といってもと、ヒカルはルシのことを見つめる。
明らかにプレイヤーではない。しかし、モブキャラにも見えない。それにこの世界の設定を知っていた雰囲気も醸し出していた。
そのことが、彼女を雑に扱ってはいけないというひかるの脳が言っている。
大きく……本当に大きくため息をついた。ベルを守るだけならまだしもルシまで守らなければならないとなると、さすがのヒカルも手が余ってしまう。
せめて、レベルを二桁にできたらと考えた。
「何やら深刻そうじゃのう」
そんなヒカルの気持ちもどこ吹く風で、彼女は楽しそうに体を揺らしていた。
「この村から出る方法はあるのか?」
とりあえず状況確認のついでに、静かに彼女へと質問する。
「難しいの」
即答だ。
「この村を抜けるには、狼の群れを抜けねばならん。だけど彼奴らはほぼ無限に湧いてきおる」
「……無限?」
ゲームのリスポーンのことを言っているのかとも思ったが、彼女の説明ぶりからしてどうも違うらしい。
「サファイアウルフは特別での、強力なものの魔力から形成されておる。そのものがなくなったとしても、増え続けるほどに」
なるほどと、ヒカルは尻尾を揺らした。
確かにサファイアウルフがいなくなるとき、一段と違う遠吠えが聞こえた。その命令に従うように、彼らは目の前から消えていった。
単純に考えればボスがいると言うことだ。しかひ、少しルシの言い回しが気になった。
「おはようございます」
ベルが服装を整えてやってくる。いまだにボロボロのメイド服だったが、立ち居振る舞いのおかげかどこか気品がある。
その後ろからサクラがヒョコリと顔を出した。
ヒカルの顔を見て、ルシの顔を見て、安堵するような息を漏らした。
何か見てない間にルシを追い出してそうだとか失礼なことを考えていそうだ。
「おはようです」
少し間を置いてから、彼女は小さく挨拶をする。
「それで」
切り替えるように、ヒカルは続きを話す。
「とりあえずどっちの方向に向かえば町につく?」
いくら無限とはいえ、方向さえわかれば何とかなると思ったからだ。
「……すみません、私はここが安全なこと以外は知らないのです。私がここを離れた頃には、まだ人間の町はありませんでしたから。実際あるかどうかもわかりません」
ベルが申し訳なさそうにする中、あぐらをかいたままのルシがニヤニヤ顔を見せた。
「人間どもの住んでる町ならうちが知っておる」
その顔からして、余計なことを考えていそうだ。
「ただで教える気はないと?」
「別にそんなことは言わん。ただ、お主らの力では到底超えられぬと言ったところじゃ。ちなみにうちに頼るのもやめておけ、うちは非力な非力な女の子じゃからな」
とても嘘くさい言い方だが、サファイアウルフに襲われていたところを見るとあながち嘘でもなさそうだ。
落ち着ける場所があるとはいえ、やはり焦燥感がヒカルの心を満たしていく。尻尾は落ち着きなく、床を叩いていた。
サクラと合流した今、他のメンバーの心配はあまりしていない。やられたとしても、町で一回整えているだろう。
ヒカルが何よりも嫌なのは、アドバンテージが取れる今、それを何もできずに失うことだ。せっかく他のプレイヤーよりも早くこのマップについているのに、まごまごしていたら追いつかれてしまう。
やっぱりネックになってくるのは、自分のレベルの低さといえよう。
「でも、やりようはあるのぅ」
その言葉に、ヒカルの尻尾がピンと立った。そのまま興奮を抑えられないように、左右に振る。
「その代わり、それを見せてくれんか?」
そのままルシが指をさしたのは、ヒカルの腰に提げている『闇の剱』であった。思わず、喉の奥からえという言葉が漏れる。
この剱は、今のヒカルに取って重要なものである。さらにいえばこの世界に深く関わってきそうなので、おいそれと貸すことはできない。
断ろうと口を開きかけた。そんなときに、ウィンドウが表示される。
『選択によって物語が分岐します』
それを見た瞬間、ヒカルの言葉が止まった。




