第六十五話
「彼らも新しい地域に行きたいと言い出してなぁ。ま、断るのも何だから、後方支援だけでもって連れてきたんだぜぃ」
ルーフェルが、苦笑しながら続ける。
「もちろん、無茶させるつもりはないぜぃ」
その言葉にカイザーは申し訳なさそうに苦笑する。彼の後ろに控えている猫宮は、カイザーの服の裾を捕まりながら顔をうつむかせた。
ミサキは心配そうに眉根を寄せる。
「俺たちもジッとはしてられないよ。死んじまったプリンのためにも、犯人を見つけたいしな」
「そうなのです……。私たちは悔しいのです……」
二人の瞳からは決意と不安の色が見えた。
「ま、気持ちはわかりますよ」
ロッドウィグが抑揚のない声でそう言った。
眼鏡の奥の瞳が、彼らを見つめる。小さく息をついてからルーフェルの方を見る。
「しかし、前線についてくるってことはそれなりの覚悟が必要ですよ? わかっていますよね」
「これがただのゲームじゃないってことくらいわかってる」
「私も分かってるのです」
その言葉の重さは、ミサキには測れなかった。まだ彼女には大切なものは失っていない。しかし、これから失うかもしれない。
そんな曖昧な恐怖が彼女の中を駆け巡る。
フレンドリストにはサクラの文字がまだ見えている。やっぱりと震える声で言いかけて、口を止めた。
拳を握り込み、浅い呼吸を隠した。
アキの視線が刺さり、思わず顔をそらした。
「それでロッドウィグはあのクエストを確認したのかぃ?」
ルーフェルの問いかけに、ロッドウィグの眼鏡がキラリと光った。
「あぁ、あの拠点作りのクエストですか」
「そうそう、ここから一時間以上したところに廃村があるらしい。そこを開拓するクエストだな」
「大型クエストなので諦めていたところですね。僕は他にもしなければいけないことがありましたので」
ミサキの方をちらりと見る。
「しかし、チームのみんなが乗り出すならついていく価値はありますね」
その言葉に、ルーフェルは嬉しそうな顔を見せる。彼はガッツポーズを作っていた。
ロッドウィグは、視線をミサキの方へ動かした。
「これなら遠くに探しに行けます。あなたも文句ないですね?」
「……ないっす」
「うちはこの町から出るつもりはないで。少しチームに連絡することあるからな」
アキが視線をギルドの端へと映る。その先には、本に何やら書き込んでいる数人のプレイヤーがいた。
「こう見えても、チームにも黙って行動してることもあるねん。さすがに新しい地域になったら、それなりに報告してからになるわ」
アキ──彼女が所属している『ブック・リスター』のチームは、情報を主な扱いをしている攻略チームだ。
彼女は残念そうに息をついている。
「さすがに、ヒカルが合流してからになるわ」
「そうですか。ミサキさんはそのままついてくるでいいんですね?」
ロッドウィグの問いかけに、ミサキは頷いた。彼は満足気に眼鏡をかけ直す。
「てことです。二人追加参加で大丈夫ですか?」
「もちろんだぜぃ! といっても、他に参加者を募るから正式に始めるのは数日後だろうがなぁ」
「助かります」
ミサキはなるべく急いでという言葉を言いかけた。口を開けかけて、視線を彷徨わせてから口を閉じる。
いつもの彼女の元気が消えているのか、ジーッと見つめていた猫宮が口を開く。
「どうしたのですか? やっぱり、他の子がいないのはなにかあるんじゃないのですか?」
彼女は天使の羽をぱたぱたとさせて、心配そうに見上げていた。
その純粋な瞳に見つめられて、思わず細かく瞳を揺らす。
「そうなのか?」
カイザーも続いて尋ねてくる。彼らの善意をどう扱おうか迷った挙げ句、ミサキは無理やり笑うことにした。
「本当になんでもないっす。二人は別の要件で席を外してるだけだから」
その彼女の絞り出した声と、暗い笑みにカイザーは大人しく引く。
「本当に何かあったら手伝えることは手伝うからな? 前、プリンを探してくれた礼もしてーし」
「気持ちだけ受け取っておくっすよ。私たちは何事もなく順調っすから」
その言葉に、ロッドウィグは何も言わなかった。アキは少し言いかけたところで、彼女は口を引き結んだ。
「それじゃあうちは、チームと話してくるわ。少しこれからのことも相談しときたいしな」
「アキ、わかっているとは思いますが」
「わーってるって。これでも確信のない情報は扱わんのがうちのチームの心情や」
離れていくアキの後ろ姿を、ミサキは見やる。そんな彼女の耳にかすかな声が流れてきた。
「嘘つきなのです」
慌てて猫宮の方を見るが、彼女はカイザーと話し込んでいた。
吹雪く音が彼女の声に聞こえたのかなと、ミサキは首を傾げる。




