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第五十六話

「本当によぉ。本当に本当に本当に、ムッかつくよなぁ!」


 ユウェイルは、片手で掴んでいたプレイヤーを投げ捨てる。

 大剣を肩に当てながら、青筋を浮かべる。大きくため息をついて、這いつくばるプレイヤーを見下す。


「あんだけいたのに、一人もあの眼鏡野郎を超えられないってどーいうことだぁ? クソほど弱いよなぁお前ら。本当に本当に本当につっかえねぇよなぁ!」

「あ、あいつは『クロス・オーソード』の幹部ですよ!? 俺らにどうにかするって方が無理ってもんですよ!」

「だったら、死ぬ覚悟で突撃すりゃあ良いだろ? 気合が全然全然足りてねぇんじゃねぇのか?」


 彼の睨む瞳に、地面に尻もちをついた男は後ろに下がる。


「そ、そんなこと……」

「あぁ? 三回のライフがあんだから、一回くらいは誤差の範囲だろ?」

「そ、装備が全ロストしますって!」


 男の弱気な発言に、ユウェイルは大剣を振り上げた。振り下ろされた剣先は、男の足元すぐ近くに突き刺さった。

 喉の奥から蛙を潰したような声が漏れる。


「お前らの命くらい軽いんだよぉ! 本気で当たって当たって当たって成果見せろやぁ!」

「そんな無茶な──」

 

 彼の声が途中で止まった。別にユウェイルがキルしたわけではない。もう少しで殺すつもりではあったが。


 唐突に巻き上がる大きな砂埃に、頬につく血糊のようなもの。彼は額に青筋を浮かべながら、顔を上げた。


 現れたのはアラクネの男のようなもの。


『抜け殻のアラクラトロ──ロイ。恋人のベルを求めて、彼は永遠に残滓で彷徨う存在となった。本物の彼はすでにいないが、本物と同様の強さを有している』


 巨大な蜘蛛の化物を見て、ユウェインは退屈そうにため息をついた。大剣を肩に担ぎ直しながら、興味なさそうに見やる。


「くそ雑魚ボスか」


 呟くと、ユウェインはゆっくりと歩き始める。

 ロイの抜け殻とされた蜘蛛は、奇妙な雄叫びを上げて、脚を大きく上げる。尖った足先を突き刺そうと、ユウェインへと振り下ろす。


 風が吹いた。彼が大剣を一振りしたのだ。脚は切断され、紫色の血が飛ぶ。

 

「ち、本当に本当に本当に面倒くせぇ!」


 そのまま振り上げた大剣を、真正面に振り下ろす。ロイの残滓は真っ二つに切り裂かれ、叫び声を上げる間もなく消えていく。

 倒れ伏せる蜘蛛の残骸には興味なさそうに、彼は足を進めた。


 霧の奥に佇んだのは、茨の城だった。扉は開きっぱなしになっている。

 しかしどういうわけか、城の中から雪が吹雪いている。その不思議な光景に、ユウェイルは眉根を寄せた。


 中に入ると、廊下は雪が降り積っていた。かつての争いの跡として置かれている死体のオブジェクトが、雪に埋もれている。

 足跡はない。ここは誰も通っていないか、それとも通ったあとに雪が積もったのか。


「通ってないわけがないよなぁ」


 ここにヒカル一行が通った確信を持ち、ユウェイルは足を進める。


 城の内部では歩いても歩いても魔物が出現しない。退屈で、欠伸が漏れそうになる。

 悪態をつきながら、奥へと進んだ。


 吹雪いていた地点は、玉座だ。いや、だったというべきか。

 雪が積もりすぎてほとんど床が見えない。辛うじて見えているのは、玉座の背もたれ部分だった。


 その上に、空間の歪みが稲妻とともにあった。どうやらこの奥から雪が入り込んでいるらしい。つまり、あの裂け目の向こう側は雪の世界らしい。


 このゲームでは、今まで雪が積もったステージはなかった。てことは、新たな段階に移ったということだ。

 ま、興味はないがなと心の中で唾棄する。


 今、ユウェイルが執着しているのは、ヒカルをぶっ殺すこと。あいつに関わったせいで自分はオレンジプレイヤーに堕ちたのだから、しっかり落とし前をつけないと気がすまない。

 しっかりと三回分ぶち殺して、この世から永遠に追い出してやる。


 そのためには、奴の跡を追って次の世界に行く。


 ユウェイルはかなりの風圧を物ともせず、歩みを止めない。次元の裂け目に足を踏み入れた。

 一瞬のめまいの後、景色は雪が積もる森の中へと移る。今までと違う雰囲気は、普通のプレイヤーなら感慨にふけっているところだろう。しかし、彼は違った。


 立ち止まり、プレイヤーの気配を探る。すぐ近くにないことを知り、小さく舌打ちした。


『次元の隙間から出た場合、出現地点は誤差があります』


 遅れて出てきたウィンドウに、苛立たしげに大剣を振り下ろした。


「くそが! クソ面倒くせぇ! 誰だこんな仕様にしたやつは!」


 ユウェイルの叫びが、吹雪の中に吸い込まれていった。

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第三章から、物語が大きくなり話数も増えていきます

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