第五十五話
金属音が響き渡った。その後すぐ、金属を引っ掻く背筋を這うような音が響き渡る。
眼前を覆ったのは、白銀の鎧。揺れるは『クロス・オーソード』の紋章がついたマント。
火花を散らす盾を持っているのは、ロッドウィグだった。
脚を弾き返しながら、彼は息をつく。
「間一髪ですね」
彼の持つ盾が粉々に砕け散った。息を呑み、ロッドウィグが眼鏡をかけ直す。しかし、脚を弾き返すことは成功したようだ。
「まるでヒーローみたいにギリギリな到着だな」
「殿を務めた上に、盾一枚犠牲にしてまで助けた相手に言うセリフですか?」
彼は呆れながら、新しい盾を取り出した。
「……で、状況はどうなってますか?」
「ベルが第七の柱ベルフェゴールに操られてる。攻撃は不能」
「つまり、僕が彼女の気を引けばいいわけですね?」
脚のがむしゃらな攻撃が再びやってくる。ロッドウィグは盾で再び弾き飛ばす。
その盾は、たった一発でヒビが入っていた。
「単純に行けば、逃げ続ければ勝てるとは思う」
ヒカルの言葉を証明するように、ベルの脚が崩れ始めている。彼女が頭を抱えて苦しむように、呻いている。
「なるほど、時限イベントですか……」
「でも、それだとうちのお姫様が満足しないみたいだからさ」
ヒカルはサクラの方を見やりながら、不服そうに尻尾を左右に揺らした。
その言葉に、ロッドウィグは眼鏡をかけ直した。
「たまにいますよね。物語キャラに感情移入する人」
「……そうだな」
再び振り下ろされた脚を、ロッドウィグが盾で弾いた。
それは粉々に砕け散り、中空に溶け込むように消える。
「堅牢の盾がたった二発で破壊されるんですね……」
ロッドウィグはため息をつきながら、もう一枚盾を取り出した。
「盾はあと何枚だ?」
「これが最後ですね。壊されたら、踏み込むことはほぼ不可能になります」
「……わかった。一発勝負だが、賭けてみる」
「失敗するなら?」
「逃げて時間を稼ぐしかないな」
ロッドウィグが呆れるように肩を落とした。
「行きあたりばったりは、僕が一番嫌いなことなのですが」
「俺についてきたなら、覚悟するしかないな」
「ええ、もう諦めました」
再びのベルの咆哮が合図となった。
ヒカルとロッドウィグが同時に走り出す。
「レベル8の割に僕と同等の俊敏性ですか」
「機会があれば、教えてやるよ!」
振り下ろされる脚をロッドウィグが弾き飛ばした。欠けた盾の破片が、ポリゴン片になって消える。
「約束ですよ? まだ、あなたは何か隠している様子なので、僕はそれを問いただす義務があります」
「勝手に義務にすんな!」
向かって飛んできた脚を、二人が同時に避けた。
脚は床に深く突き刺さり、破片がヒカルの体を打ち付ける。
体力バーが、少し削れ消える。
「前も言った通り、僕はあなたの監視役ですので」
「……ち、だから仲良くしたくないんだ」
脚の横の薙ぎ払いを、ヒカルは飛んでロッドウィグは屈んで避ける。
「はは、僕は少しずつあなたと仲良くしたくなってきましたよ」
「俺は大反対だ!」
二つ重なった脚が、二人を襲う。前に一歩出たロッドウィグが、盾で大きく弾き返した。
ロッドウィグの最後の盾が粉々に砕け散った。ポリゴンの破片をかけ分けるように、ヒカルは前へ出た。
ベルの脚は完全に打ち上げられ、隙だらけになった。
彼女の脚元を通過して、玉座へ土足で登った。
影が不気味に揺らめく。まるで、ヒカルを挑発するように。
彼女は『茨の剱』を構え、影に突き刺した。
奇声と思えるほどの絶叫が響き渡った。揺らめく影は、剣へと吸い込まれる。
『茨の剱の効果によって、ベルフェゴールとの繋がりが削れています。茨の剱が、ベルフェゴールの次元の闇を吸収し始めました』
やはり、ここの攻略には『茨の剱』が鍵になっていた。
『茨の剱は闇の剱に昇華しました』
『闇の剱:茨の剱を一段階強化した姿。相手のバフを一つ削り取ることができる。この効果は重複しない。削り取る効果は選べません。
なお、茨の剱の効果は継承されています』
『あなたはベルを救うルートを選びました。この選択は世界に少しだけ影響を及ぼします』
『クエスト:背信者ベルとの旅路が更新されます』
『ベルの好感度が限界突破します』
『第七の柱:ベルフェゴールはとても不機嫌です』
『第一の柱:バエルがあなたをとても称賛しています』
怒とうのウィンドウ表示。その後一拍遅れて、大きく最後のウィンドウが表示された。
『次元が繋がります。今後、この場所からすべてのプレイヤーが新しいマップへ接続ができます』
その後すぐ体が何かに吸われ、視界が暗転する。




