第五十一話
ステータスはレベルが上がるごとに増える基礎ステータスと、レベル上がることに貰ったステータスポイントで上げた総合値による。
ヒカルは、バエルからの呪いによってステータスポイントは普通のプレイヤーの二倍持っている。そして、彼女はそのポイントを全部俊敏性にだけ突っ込んでいた。
つまり、俊敏性に限り、レベル8のプレイヤーとは思えないほど高くなっている。
「クソぉーーー! ちょこまかと鬱陶しいやつだぁーーー!」
ロイの苛ついた声が響き渡る。彼が脚を振り上げてヒカルの体を踏み潰そうとするが、ギリギリで躱される。そして、脚を削るように『茨の剱』が傷をつける。
1ドットほどのスリップダメージは累積し、少しずつ大きくなっていた。
苛ついた彼は我慢できなくなると、汚染糸を吐き出す。その瞬間、ミサキの援護射撃が正確に射抜く。溶けた矢がロイの視覚を奪った。
甲殻を蹴り飛ばし、飛び上がる。『茨の剱』の刃先を体へと向ける。
「何回も通用すると思うなよぉーーー!」
「……っ!」
暴れる脚をロイは適当に回す。脚がヒカルへと向かってくる。なんとか空中で体を捻って躱したが、体をかすってしまった。
それだけで、彼女の体力はミリまで削れていく。
紙装甲の弊害がこんなところで出てきた。
しかし──
「どおりゃあ!」
ヒカルは止まることをしない。捻った回転を利用して、ロイの体を斬りつけた。
火花が散り、金属が削れるような音が鳴り響く。ロイの体力は、少しずつ着実に減る。
「クソがぁーー!」
追撃を入れようとしていたので、彼の体を蹴って離れた。
「今、回復するです!」
サクラが杖を構え、回復してくれる。赤くなっていた体力バーは全快まで行った。
スリップダメージが累積したロイはふらりと体を揺らした。彼の体力は半分を切り始めている。
「こんな、こんな奴らにぃーーー! ベルフェゴール様より力をさずけられたこの俺様がぁーーー!」
その赤黒い瞳は、墨で震えているベルを捉える。
「ベルーーー! ベルベルベルーーー! 見てないで手伝えーーー! ベルフェゴール様への恩を今すぐ返せぇーーー!」
その言葉に、彼女は下唇をさらにかみしめた。切った唇から滴る血が、地面を赤く濡らす。
彼女の瞳は揺れる。体は震えている。
ヒカルは彼女とロイとの間に割って入るように立った。
「さっきまで見下してた女に今度は助けを求める……。男のすることじゃあねぇな」
ロイを見据えて、口の端を歪めて嘲笑した。
「ぶっ殺してやるぅーーー!」
「来いよ。やっとこのゲームが楽しくなってきたところなんだ」
彼が怒り狂い、地面を適当に脚で突き始める。その一つ一つをギリギリで躱し、剣で傷をつける。
さらにスリップダメージが重複し、1秒ごとの減りが目に見えるようになった。
混じっている汚染糸の攻撃は、ミサキが正確に跳ね返す。
「こんな、こんな虫けらにぃーーー!」
「は! 蜘蛛に虫けらって言われるのは皮肉だな!」
懐に入り、斬り上げる。今までびくともしなかった甲殻にヒビが入る。
「……ぁ」
ベルの小さな声が聞こえる。しかし、ヒカルは気にすることなく腕を後方に引く。そのまま『茨の剱』を突き刺した。
「こんな……こんな奴にぃーーー!」
ヒビはロイの全身へと至り、そのまま割れ散る。体力をゼロへと削り、彼を消し飛ばした。
──ありがとう。
そのロイの言葉が聞こえたような気がした。
『初めてロイを討伐しました。ベルの好感度が再び変動します。ここからは、彼女の好感度が物語を左右します』
システムメッセージに目を落とし、『茨の剱』を所持品に入れる。そのまま蹲るベルへと近づくと、彼女に手を伸ばした。
視線が合う。恐る恐る手を伸ばしてきて、握り返してくる。
力一杯引っ張ると、彼女のことを立たせた。
「案内頼むぞ」
それだけ言うと、彼女は無言で頷く。開いた道の先にランタンを持って進み始める。
「いやぁ、良いもん見せてもらいましたわぁ!」
ご機嫌なアキの声が響いた。一切手助けしなかった彼女は、笑いながら近寄ってくる。
「良いもん見せてもらったじゃないっすよ! アキさん助けてくださいっすよ!」
「いやいやいや。うち、言っとくけどプレイヤースキルはからっきしやで?」
「でも少なくともレベルは25はあるっすよね!」
「そこはほらあれやん? うちが手伝ったら面白みが欠けるやろって思ってな。うちなりの配慮やん」
果たしてアキが本当にその配慮をしてくれているかはわからない。しかし、ミサキとのやり取りを聞いて、そりゃそうだというため息をヒカルは漏らした。




